Yahoo!ニュース

「日本が決断すれば、岸田首相が平壌を訪問する日が訪れる」と発言した金与正党副長の狙いは?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
金正恩総書記の実妹・金与正党副部長(労働新聞から)

 韓国の大手紙「東亜日報」や「中央日報」など韓国のメディアが今夜(15日午後9時)、一斉に速報で金正恩(キム・ジョンウン)総書記の妹である金与正(キム・ヨジョン)党副部長の談話を伝えていた。

 韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が1週間前に金正恩政権を「合理的で理性的な勢力ではない」と扱き下ろしたことへの「反論」「反撃」かと思いきや違っていた。尹大統領に関してではなく、日本の岸田文雄総理に関する談話だった。

(参考資料:「ゴロツキ」と罵倒された尹政権が金政権を「非合理、非理性的」と酷評に罵詈雑言の天才・金与正が反撃か)

 韓国のメディアが引用した朝鮮中央通信の報道によると、与正副部長は岸田首相が日朝首脳会談の実現に意欲を示していることを取り上げ「(日本が)関係改善に向けて政治的決断を下すなら、両国は新たな未来を共に開いていける」と発言していた。予想外の発言である。

 正確に言えば、「日本が我々の正当な防衛権に対して言いがかりをつける悪習を振り払い、すでに解決した拉致問題を両国関係の展望の障害物として置きさえしなければ、両国が近づけない理由はない。(岸田)首相が平壌を訪問する日が来ることもあり得る」と発言したのである。

 与正副部長は自身の発言について「個人的見解」であると断っていたが、彼女が兄・金総書記のスポークスマンであることは誰もが認めるところである。極端な話が、「与正イコール正恩」と見ても間違いではない。

 与正副部長は反面、「我々の国家指導部は朝日(日朝)関係改善に向けたいかなる構想も持っておらず、接触に何の関心もないと承知している」と、無関心ぶりを装う素振りを見せているが、対日担当の崔善姫(チェ・ソンヒ)外相ではなく、与正氏自らがこの種の談話を出したところをみると、どうやら北朝鮮は日本の対応次第によっては岸田首相が求めているハイレベル協議にも首脳会談にも応じる用意があるようだ。

 但し、日本が無条件対話を求めているのに対して北朝鮮は拉致問題と核・ミサイル問題を取り上げないことを条件にしているので一見、会談実現までの道のりは遠いようにもみえるが、日本が北朝鮮に対話を求める理由が拉致問題と核・ミサイルの解決であることを北朝鮮も百も承知の上なので、表向きこれら2点を前提条件にしないとの条件で対話の呼びかけに応じる可能性は決して低くはない。

参考資料:尻切れとんぼに終わった!? 日朝の「エールの交換」)

 北朝鮮が韓国と同盟国のキューバとの電撃的な外交関係樹立に焦りを感じているならば、日本にすり寄ってきたとしても決しておかしくはない。といのも、日本は北朝鮮にとって外国扱いとなった韓国とは違って「第1の外敵」でも「不変の敵」でもないからである。

 しかし、与正副部長の主な狙いは日本を餌に、岸田首相を出汁に尹政権を揺さぶり、日韓関係に楔を打ち込むことにあるようだ。韓国のメディアが与正氏の発言を速報で取り上げたことからもそのことを窺い知ることができる。

 与正副部長が尹大統領の発言をあえて無視、スルーし、岸田首相の2月9日の衆議院予算委員会での北朝鮮関連発言に反応を示したのは一にも二にも尹大統領への当てつけ以外のなにものでもない。

 いずれにせよ、再三にわたる岸田首相のラブコールが事務レベルを越え、実質NO.2の実力者、与正副部長の耳に入ったことは日本にとっては「一歩前進」であると言えるだろう。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

「辺真一のマル秘レポート」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

辺真一の最近の記事