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「金正恩の代理人」金与正副部長が今度は対米批判談話を発表 米朝も日朝も対話は絶望的?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
金与正副部長(朝鮮中央テレビから)

 金正恩(キム・ジョンウン)総書記の代理人でもある妹の金与正(キム・ヨジョン)労働党副部長が今朝、談話を発表していた。日本との対話を拒否する談話を発表(3月26日)して以来、およそ1か月ぶりだ。

 談話の表題は「盗人猛々しい無理押しは我々には通じない」となっていたが、タイトルだけでは何のことか、何に怒っているのかさっぱりわからなかった。

 今朝「朝鮮中央通信」で発表された談話の全文を読んで、一昨日の北朝鮮の短距離弾ミサイル(600mm放射砲)を米国が「国連安保理決議違反である」「地域と国際平和と安保に対する重大な脅威である」と批判したことに北朝鮮が憤慨していることがわかった。

 金与正氏は談話の中で「今年に入って、米国が韓国との合同軍事演習を80余回、韓国軍が単独で60余回も実施している」として、「地域情勢悪化の主犯が果たして誰なのかがはっきりわかるであろう」と米国を批判した上で「我々は自分の主権と安全、地域の平和を守り抜くために圧倒的な最強の軍事力を引き続き備蓄していく」と述べ、核・ミサイル開発、発射を止める気がないことを強調していた。

 また、談話の最後に韓国国防部が「もし北が核使用を試みるなら韓米同盟の即時的かつ圧倒的、決定的な対応に直面し、北の政権は終末を迎える」と警告したことについても触れ「臆病な犬がよく吠えるのは知っているが、最近になって韓国傀儡軍部ゴロツキ頭目らが度が過ぎて言い散らしている。上司(米国)を信じて奔走し、我々を相手に武力対応を試みようとするなら、即時壊滅するであろう」と、逆に韓国に警告を発していた。

 金与正氏の米国向け談話は昨年7月以来である。

 この時は、ホワイトハウスや国務省の要人らが国際社会に向け「我々は北朝鮮に敵意を持っていない。常に対話の門を開けているが、北朝鮮が対話に応じない」と発言していたことに反発していた。この時の談話では与正氏はおよそこんなことを言っていた。

 「最近、米国側は我々が対話に応じないと世論を喚起している。(中略)仮想的に朝米対話が開かれるとしても、現行政府が協商テーブルの上に上げる風呂敷包みというのが『CVID(完全で検証可能かつ不可逆的な非核化)』などに過ぎないのは明白である。今になって非核化という言葉は実に古語辞典でのみ探してみるべきで、現実には通じない。(中略)仮に米国が数年前に前任者(トランプ前大統領)が公約した米国・南朝鮮合同軍事演習の暫定中断のような古い術策を再び持ち出し、あるいは連合軍事訓練の縮小や戦略資産展開中断のような可逆的なものをもって、誰それの興味をそそってみようと接近しようとも時間稼ぎのためのそんな浅い術策に騙される我々ではない」と、対話断固拒否の姿勢を鮮明にしていた。

 また、この談話では「いくら前大統領が署名し、公約したものだとしても、新しい政府が発足すればそれを自分の手のひらのようにひっくり返すのがまさに米合衆国と『大韓民国』である。それ故に我々は尹錫悦やバイデンのようないかなる個人を相手にして戦略を駆使するのではなく、米国の特等手先である『大韓民国』と世界悪の帝国である米合衆国を相手に長期戦略を立てるべきであり、圧倒的な抑止力に基づいて朝鮮民主主義人民共和国の展望的な安全保障システムを構築しなければならない」とも言っていた。

 実際に、北朝鮮は今日までバイデン政権とも尹政権とも対話に興味を持たず、ミサイル開発・発射など軍備増強の道を歩んでいるどころか、加速化させている。

 その後も、金与正氏は米国が主導し、国連安保理で北朝鮮の軍事偵察衛星を批判する緊急会合が開かれた時も「不快である」との談話を発表(11月30日)し、「国連安保理は反朝鮮対決姿勢を鼓吹し、一年中様々な軍事的挑発行為で朝鮮半島地域情勢を激化させてきた米国と大韓民国の無責任な態度と行動に重い責任を負わせるべきであり、国際社会は地域情勢激化の張本人らに一致した批判の声を高めるべきである」と、今回同様に米国に非難の矛先を向けていた。

 また、直近の日本向け談話(3月26日)では日本の対話呼び掛けに対して一旦は「解決済みの拉致問題を提起しないならば」と興味をしめしながらも林正芳官房長官が「拉致問題がすでに解決されたとの主張は全く受け入れられない」との立場を表明したことに反発し「我が政府は日本の態度を今一度明白に把握した。従って、結論は日本側とのいかなる接触にも、交渉にも顔を背け、それを拒否するであろう。朝日首脳会談は我々にとって関心事ではない」と回答していた。

 米国に向けた談話からも与正氏がここまで断言した以上、バイデン大統領が先の日米首脳会談で岸田文雄首相に日朝対話への支持を表明したとしても、日朝首脳会談は事実上、絶望的と言わざるを得ない。

 北朝鮮から関係を断絶された韓国も含め米国も日本も北朝鮮との対話の道が絶たれたとなると、後は軍事対決しか道は残されていないのが今の朝鮮半島の現状である。

 金与正氏は今朝の談話で「米国が引き続き手先ら(日韓を指す)をかき集めて力を自慢し、我が国家の安全を脅かそうとするならば、米国と同盟国の安保はより大きな危険に直面することになるであろう」との捨て台詞を吐いていたが、「大きな危険」が何を指すのかについての直接的な言及はなかった。

(参考資料:金正恩総書記の代理人 金与正の「談話集」)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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