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子どもに伝えるべき8つのポイントとは? 家庭でできる「包括的性教育」のススメ【5~8歳編】

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

「性教育」と聞くと、どんな内容をイメージするでしょうか?

そして、みなさんは家庭内でどのようにお子さんへ性教育をしていますか?

「学校でやってくれるから家庭でする必要はない」

「どう教えていいかわからない」

「自分も自然に学んできた。。?」

…などという声が多いように、家庭での性教育は日本ではまだ普及しているとは言い難いでしょう。企業が実施したアンケート調査でも、性教育の必要性は認識しつつも、十分に実施できていると感じている保護者はまだまだ少数のようです。(文献1・2)

世界で推進されている「包括的性教育」

世界の多くの国々では、UNESCOが中心となって作成した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(以下、ガイダンス)に則った「包括的性教育」が推進されています。(文献3)

「包括的性教育」については以前の記事(性に関する知識やスキルだけではない「包括的性教育」とは? 今の日本に必要な理由)で概要を解説していますが、日本で一般的に捉えられているような「性に関する知識やスキル」だけでなく、人権やジェンダー観、多様性、幸福など人生にとって必要不可欠な事柄を学ぶ機会となります。もちろん将来的に学校での性教育のあり方が変わっていくことは社会全体として非常に重要ですが、それにはまだまだ時間がかかる可能性が高いと考えられます。

そこで、まずはご家庭で「包括的性教育」を実践できるよう、ガイダンスの内容を噛み砕いてシリーズ記事として解説していきます。

なお「家庭の中で両親が子どもへ伝える」という状況を想定して書いていきますが、どのようなシーンでも調整・応用して実施しただけるものだと思います。

ガイダンスには8つのキーコンセプトがあり、それぞれ年代別の学習目標(5〜8歳、9〜12歳、12〜15歳、15〜18歳)が示されています。

同じキーコンセプトを各年代で繰り返し扱い、徐々に知識やスキルを深めていく点がこのガイダンスの特徴です。

「5〜8歳」への包括的性教育とは

今回は、「5〜8歳」での包括的性教育の内容を一部抜粋して紹介します。

「5〜8歳」というと、当然ながら性的な知識はほぼ何も持っておらず、純粋に「からだの作り」や「自分と他の人の違い」に興味を持つ年代です。大人が勝手に「性的な話=いやらしいこと」というレッテルを貼ることなく、人間として自然なこと、社会に当然あるものとして、大事なことをゆっくり伝えていきましょう。

また、子どもが純粋な好奇心から親に質問した時に、親がそれをはぐらかしたり「そんなことは知らなくていいんだよ」といったような対応をしたりすると、子どもは「大事なことじゃないんだ」「聞いちゃいけないんだ」と思ってしまいます。これは、その後の親子関係においても決して良い影響を与えないので、日頃から気を付けてみてくださいね。

①良好な人間関係を作ろう

すべての人が大切な一人の人間であり、他者に対して友情や愛情を持って接することの大切さを伝えていきましょう。また、子どもにとって身近な「家族」について、多様な形があることや、それぞれに役割があることなども教えます。

「あなたは唯一無二の大切な存在で、みんなから愛されているよ」というメッセージを子どもに伝えることも立派な包括的性教育の一部なのです。

自分や他者を尊重することで、健康的な人間関係を作れるようになることを目指します。

②価値観について学ぼう

人にはそれぞれの価値観や文化、セクシュアリティがあり、決して人権を侵害してはいけないことを伝えます。価値観や、それに基づく他者に対する態度について、最初は家族をみながら学び、自分の価値観を持つようになるのです。

「お母さんは人が嫌がることはしたくないと思っているよ」「お父さんは見た目の違いで意地悪をするのは良くないと思っているよ」と、自身の価値観について積極的に子どもに伝えてみましょう。また、人それぞれ違う価値観を持っていることも伝えていきたいですね。

③ジェンダーを理解しよう

生物学的な「性」とジェンダーの違いについてもこの時期から少しずつ教えることができます。むしろ、「男らしさ」や「女らしさ」という固定観念を持つ前に、こういった概念が土台にあることを知っておくことが重要です。

そしてジェンダーに関係なく全ての人が平等であるにもかかわらず、現実には家庭内や社会に不平等が存在していることも伝えていきます。

絵本やドラマ、ニュースなどをきっかけに、「社会に存在するジェンダーの不平等」について子どもと一緒に考える機会を作ってみませんか。

④暴力は間違っている

幼稚園や保育園でもいじめや暴力はみられます。未就学児であっても、いじめ・暴力は間違った行為であることをしっかり伝えます。また、家族や親しい間柄の暴力や子どもへの虐待も間違っていると伝えましょう。

近年ではSNSの使用開始が低年齢化しており、使用を禁止し続けるのは現実的ではありません。SNSを安全に使わないと、自分も他人も傷つくリスクがあることを低年齢のうちから教えていく必要があります。

⑤困ったときに助けを求められる人になろう

自分の健康を守るために、コミュニケーションがきちんと取れることが大切です。言葉でのコミュニケーションだけではなく、表情や態度などの非言語コミュニケーション、「イエス」と「ノー」を明確に意思表示する方法などを実践していきます。

また、どんな大人が信頼できる大人なのかを教え、困ったときに信頼できる大人に助けを求める実践練習もしていきたいですね。

⑥自分がどこから来たのかを知ろう

幼い子どもから「わたしはどこから来たの?(どうやって生まれたの?)」と聞かれたら困ってしまう親は多いでしょう。ガイダンスでは、5歳から生殖のプロセスや妊娠経過(精子と卵子が受精して赤ちゃんができ、お母さんのおなかの中で10ヶ月かけて大きくなる)について教えることを推奨しています。生殖に関わる部位も含めて自分のからだについて正しい知識を持ち、自分のからだにポジティブなイメージを持って自分を好きになることが大切です。

家庭内で性に関する話題をタブーにしないと同時に、外で話すと嫌な気持ちになる人もいることも伝えておくといいですね。思春期になってからいきなり性の話題に触れづらい親も多いと思いますので、小さい頃から子どもの素朴な疑問をきっかけに対話をしていきたいものです。

⑦「よいタッチ」と「わるいタッチ」を知ろう

家族や友達など大好きな人とハグしたり手をつないだりすると嬉しい気持ちになります。悲しいときに大好きな人に手を握ったり背中をさすってもらったりすると安心します。このようなふれあいが「よいタッチ」です。「よいタッチ」を通じて他者に愛情や思いやりを示し、良い関係を築けることを伝えます。

一方で、軽いいたずらであっても、相手が嫌がっているときや、許可をとらずに勝手に触るのは「わるいタッチ」です。特に口・胸・性器・おしりなど「プライベートパーツ」は自分だけの大切な場所で他人に勝手に触らせない、自分も触らないということを小さいうちから教えましょう。たとえ親しい間柄であっても、いやなときはタッチを断っていいことも伝えてあげたいですね。

⑧すべての子どもは愛されていることを知ろう

ガイダンスでは、妊娠が自然な生物学的プロセスであり、計画可能な出来事(避けることもできるし、望むこともできるし、タイミングも調整できる)であることも低年齢のうちから伝えることを勧めています。そして、すべての子どもはケアされ、愛されるべき存在であることを伝えています。

この時期を大事な「包括的性教育のスタート」に

5〜8歳における包括的性教育では、自分も周りの人もそれぞれが大切な存在であり、尊重しあうべきであることを理解することに重点を置いていると考えられます。その過程で、自分という存在がどうやって誕生したのかや、他人に思いやりを示す方法を学んでいきます。

今回ご紹介した内容は、ごく当たり前で目新しくない内容かもしれません。しかし、これらの大切な価値観を小さいうちから家庭内できちんと伝え、育んでいくことは案外簡単ではないかもしれません。

子どもの人生を豊かにしていくためにとても大事な「包括的性教育のスタート」になりますので、ぜひ皆さんのご家庭でも考えてみてくださいね。

最近は家庭での性教育に関する絵本なども多く出版されています。本記事が、皆さんにとって包括的性教育を始めるきっかけになれば幸いです。

*今後、「9〜12歳」、「12〜15歳」、「15〜18歳」の解説記事も順次公開予定です。

参考文献

1. 家庭での性教育、約8割が「実施していない」と回答。理由の最多は「どう教えていいかわからないから」.

2. ベネッセ. お子さまへの性教育、どうしていますか?

3. UNESCO. 国際セクシュアリティ教育ガイダンス.

4. 1時間で一生分の「生きる力」 安全、同意、多様性、年齢別で伝えやすい!ユネスコから学ぶ包括的性教育 親子で考えるから楽しい!世界で学ばれている性教育(講談社)

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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