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エルサルバドル、ペルーに大勝した森保ジャパンは順風満帆か?最大の収穫と明白な課題。

小宮良之スポーツライター・小説家
ペルー戦の久保建英(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

6月シリーズ、最大の収穫

 6月シリーズ、森保一監督が率いる日本は大きな成果を上げた。エルサルバドルには6-0、ペルーには4-1で大勝。まさに鎧袖一触だった。

 今回、評価を上げた選手ばかりで、大きく下げた選手は一人もいなかったのではないか?

 最大の収穫は、これまで不遇を囲ってきた選手たちが抜擢され、存在感を示した点にある。スコットランドの名門セルティックで優勝の原動力になった旗手怜央、古橋亨梧の二人は最たる例で、ポルトガル、ポルティモネンセでシーズンを通してゴールマウスを守った中村航輔も加えるべきだろう。欧州で結果を残した選手を起用し、活躍を示すことで、競争の正当性が担保された。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20230525-00349633

(スコットランドリーグの古橋亨梧、旗手怜央は日本代表に値しないのか?森保監督の基準の不合理)

 強化に関しては、完璧に近い出来だった。

 しかし、W杯ベスト16の壁を破るという目標を考えた場合、冷静な分析も必要だろう。

トランジションに正義を見出すのは危険 

「森保ジャパンが求めてきた試合をした」

 2試合を通じ、それが総括と言える。いい守りがいい攻めを作る。相手に自由にやらせず、失点の可能性を低くし、できるだけ効率的にゴールする戦術だ。

 プレッシングは組織的に連動していた。エルサルバドル戦では2点目のPKにつながるシーン、ペルー戦ではダメ押しの4点目など顕著だった。先手を取った守備で優位を保っていた。エルサルバドルも、ペルーも攻撃している間に守備の形が取れていないチームで対照的だったこともあり、カウンターの鋭さが顕著だった。

 戦術的に言えば、日本はトランジション(攻守の切り替え、リアクション)の部分で相手を凌駕していた。

 その結果、ボールを持っていた時間は意外にも短い。エルサルバドル戦は54%でどうにか半分を上回ったが、ペルー戦は41%だった。

「ボール支配が4割?その感覚はなかったですね。カタールW杯のように”ボールを持たれていた”感じではなく。効率的に攻めることができていたし、持たせながらカウンターもできていたので」

 ペルー戦後、ディフェンスの主軸になりつつある板倉滉はそう語っていた。

 試合の主導権を握っていたのが、森保ジャパンだったことは間違いない。言うまでもないが、ポゼッション率は数字に過ぎず、優位に立っていた感覚の方が正しい。それだけ日本のトランジションは洗練されていたし、カウンターは迫力があった。三笘薫、伊東純也が走り出し、鎌田大地が魔法のようなボールタッチでパスを送ると、見事にチャンスにつながった。

 しかし、”トランジションに正義を見出す”のは危険でもある。

ポゼッションを守備にも使う

 日本のカウンターは素晴らしかった。特にペルーのように攻め込んだ時に手数をかけ、守備の準備を疎かにする相手には有効だったと言える。カウンターを掛け合った場合、実力差でノックアウトできるからだ。

 しかしトランジションでやり合うのは、相手に能力の高い選手が要所に配置されている場合、常套手段でもあるのだが、同時に危険も伴う。試合のテンポが速くなって、何が起こってもおかしくない。ペルーが相手でさえも日本は呆気なくバックラインの背後にパスを通され、ピンチを迎えるシーンもあった。中村航輔のセービングがなかったら、どうなっていたか。

 ペルー戦で最後に押し込まれる展開になったのも、トランジションに頼ったツケと言える。冷静にボールを保持することができていたら、無用な反撃を許さなかった。ポゼッションを守備に使えるのが真の強豪チームの形であり、その点、バタつきは明白な課題だ。

https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/football/jfootball/2023/06/21/post_60/#cxrecs_s

(久保建英は「ボールを保持する時間を増やしたかった」。鎌田大地との両立は?)

 テストマッチは課題を見つけられなかったら意味がない。格下に大勝で大喜び。そのフェーズに日本サッカーはいない。

 出場メンバーを比べても、日本はヨーロッパリーグ上位のチーム所属選手や欧州5大リーグのチームに所属する有力選手が名前を連ねたが、エルサルバドルも、ペルーも匹敵する選手は一人いるかいないか。エルサルバドルに至っては、ボクシングで言えば2階級は差がある陣容だった。

 例えば、久保建英はペルー代表DFアレクサンデル・カジェンスと”元レアル・ソシエダ”ということで試合後にユニフォーム交換していた。しかし実際のところ、カジェンスは4シーズン所属もセカンドチームのレアル・ソシエダBの選手で、トップチーム出場はスペイン国王杯1試合のみ。レアル・ソシエダの主力となった久保とは格が違う。

 二人の差は象徴的で、日本代表は今やそれだけの戦力を誇っているのだ。

 9月、森保ジャパンは欧州遠征でドイツと対戦する。カタールW杯で金星を挙げた相手は全力で向かってくるだろう。怯まずに戦えるか。その戦いは今後を占うことになる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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