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スコットランドリーグの古橋亨梧、旗手怜央は日本代表に値しないのか?森保監督の基準の不合理

小宮良之スポーツライター・小説家
チャンピオンズリーグ、欧州王者マドリード戦の古橋亨梧(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

森保監督の基準

「リーグのレベル(の低さ)」

 今年3月、日本代表を率いる森保一監督はスコットランドリーグ、セルティックで得点を量産する古橋亨梧、攻守両面で存在感を出す旗手怜央をメンバーから外した理由の一つに挙げていた。

 5月、ハーツ戦で古橋はリーグ24得点目を記録し、公式戦30得点の大台に乗せ、チームを圧倒的な優勝に導いた。欧州各国リーグにおける日本人史上最多得点記録を自ら更新。中村俊輔以来、日本人二人目となる年間最優秀選手賞も受賞した。

 古橋はPKを蹴らずに、ゴールデンシュー賞(欧州各国の主要リーグにおいて、1シーズンで最も多くの得点を決めた選手に贈られる。各国リーグのレベル次第で係数が違い、スコットランド、ベルギーは1・5倍、スペイン、フランス、イングランドなどは2倍)でも15位(5月9日現在)で、レアル・マドリードのフランス代表カリム・ベンゼマ、パリ・サンジェルマンのアルゼンチン代表リオネル・メッシを上回っているのだ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20191109-00150016

 一方、旗手もシーズンを通して中盤で大車輪だった。チャンピオンズリーグ(CL)ではマドリードのバロンドール受賞者ルカ・モドリッチと渡り合い、シャフタール・ドネツク戦では貴重なアシストを決めた。欧州のトップ選手とも互角に戦った。終盤戦はケガで戦列を離れたが、ハーツ戦ではアシストを記録。複数のポジションをこなす利便性もある選手で、身体的な強さとインテリジェンスは出色だ。

 改めて、冒頭の発言は正しかったのか?

スコットランドリーグのレベル

 実際のところ、スコットランドリーグのレベルはどうなのか?

 欧州四大リーグ(スペイン、イングランド、イタリア、ドイツ)と比較したら、落ちる。2部と変わらないだろう。フランス、ポルトガル、オランダにも及ばず、ベルギーよりもやや下だ。

 もっとも、セルティック自体はどの四大リーグでも1部で戦える力はあり、たとえ優勝は狙えなくても、ヨーロッパリーグ出場権など上位に食い込む力はある。事実、今シーズンのCLグループリーグでは一度も勝てなかったものの、拮抗した戦いを見せている。ドイツの伏兵ライプツィヒに及ばず、欧州王者レアル・マドリードには大敗を喫したが…。

 つまりリーグのレベルは高くはないが、セルティックでプレーする事実は高く評価すべきである。

 セルティックは伝統のある強豪クラブで、毎試合、6万人近い観衆を集める。当然ながら、チーム内のポジション争いも激しい。ピッチに立つのも至難の業だ。

 そして国内で抜きん出た存在とは言え、ライバルもいる。グラスゴー・レンジャースは予選でPSVアイントホーフェンを下し、CLグループリーグに参戦していた。決勝トーナメント進出はならなかったが、グラスゴーも四大リーグ1部レベルだろう。また、ハーツ、アバディーンも欧州カップ出場の常連だ。

不合理な判断基準

 スコットランドで得点を量産し、攻守の中心となる殊勲は「日本代表」に十分値するだろう。

「リーグのレベルが低い」

 その理由は、半ばスコットランドリーグへの冒とくだろう。問題視されてもおかしくはない。古橋、旗手を戦力に落とし込めず、もしくはプレースタイルを好まない、というのが真相だ。

 リーグレベルが問題だったら、なぜ同じセルティックの前田大然は選ばれているのか?また、スペイン、イングランド、ドイツの2部の選手も代表に選ばれている。不合理な判断基準と言わざるを得ない。

 そもそも、Jリーグはスコットランドを凌駕するほどレベルが高いのか?単純な比較はできないが、総合的に見た場合、似たようなものだろう。平均レベルは高いが、セルティックのように突出したクラブはない。

 外国人選手は逆風を受けながらのプレーで、国内でのプレーよりも重圧を受ける。Jリーグではどうやってもできない経験だろう。事実、2022年のJリーグMVP岩田智輝はセルティック移籍を選んでいる。

公平性を重んじるべき

 重ねて言う。古橋の30得点という記録は無視するべきではないし、旗手の攻守の中心を担うプレーも特筆に値する。プレミアリーグのクラブからのオファーも当然だ。

 たしかに森保監督は、選手を選ぶ権限を持っている。石橋を叩いて渡る堅守カウンターが戦術なだけに、たとえシーズン2得点であっても浅野拓磨がファーストチョイスになるのだろう。それは、プレー様式に従った判断とも言える。

 しかし今はW杯までまだまだ時間があり、古橋や旗手を生かす方策を考えるべきだろう。それをしないのは代表監督としての怠慢だし、代表は個人のものではない。目に見えた結果を残した選手を選び、そのプレーを代表に落とし込む努力をするべきだろう。さもなければ、公平性が破綻し、競争力を削ぎ落す。

 あまりに世論を蔑ろにしていると、サッカー人気の暴落にもつながる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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