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三笘薫は騎兵。「W杯ベスト8」に挑む森保ジャパンの懸念点とは?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 11月15日、ジャカルタ。2026年ワールドカップ、アジア最終予選で、日本は敵地に乗り込み、インドネシアを0-4と下している。グループⅭでは4勝1分け、勝ち点を13に伸ばし、首位を独走。また一歩、8大会連続の本大会出場に近づいたわけだが…。

「W杯ベスト8」

 それが目標だけに、アジアで無敵を誇ろうとも万歳はしていられない。インドネシアに快勝しても、戦いの様相は大きく違う(カタールW杯で言えば、インドネシアが日本にそうしてきたように、日本はドイツ、スペインに専守カウンターで対抗していた)。アジアはアジアでしかないのだ。

 森保ジャパンの一番の不幸は、今の戦いが世界で通じるか、その基準がないところにある。

インドネシア戦の不安

 しかし、ピッチには常にヒントがある。

 インドネシア戦、日本は力の差を見せつけたが、左サイドはしばしばバグを起こしていた。広大なスペースにボールを流し込まれ、カウンターを浴びる。前半7分、カバーに入った3バックの中央、板倉滉がやや不用意なプレーでボールの処理を誤り、GK鈴木彩艶と一対一に。相手FWの低い決定力に助けられている。その後も、左サイドを完全に破られて際どいクロスを入れられ、危ういところだった。

 もし欧州王者のスペイン、南米王者のアルゼンチンが相手だったら…その想像力が必要だろう。

 森保一監督が、W杯2次予選から最終予選突破が決まった後に採用した3-4-2-1のフォーメーションは、「攻撃的」に戦うためのものと言える。相手を押し込み、両脇から万力のように潰し、より手数を増やす。ジョゼップ・グアルディオラ監督のマンチェスター・シティ、シャビ・アロンソ監督のレバークーゼン、ジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督のアタランタなどがモデルだろうが…。

 現状、アジアでは通用している。悪くない戦いぶりだろう。ただ繰り返すが、これが「世界」(つまりは世界ベスト8圏内の相手、例えばFIFAランキング6位以上)を相手に通じるか、は別の話である。

 攻撃能力の高い選手を多く擁し、左サイドバックの人材難もあることで、三笘薫の左ウィングバックという発明にもなったわけだが、やや短絡的にも思えるし、現状では左サイドが鬼門になっているのだ。

三笘は騎兵

 インドネシアですらそうしたように、敵は三笘の背後をほとんど必ず狙ってくるだろう。なぜなら三笘はディフェンダーではない。彼を自陣に押し込むだけで、アドバンテージを取れる。有力な世界レベルのサイドアタッカー、例えばラミン・ヤマル、アンヘル・ディ・マリア、ウスマン・デンベレ、ブカヨ・サカ、ベルナルド・シルバのような選手には独壇場にされるだろう。

 そして、根本的な問いがある。

 三笘のような傑出したアタッカーに、ウィングバックという守備のタスクも大きなポジションを背負わせることは正しいのか?

 責め続けることで、負担は減らせるし、強みが出る。しかし強豪に対し、アジアのように一方的な戦いができるか? 少なくとも、5分には持ち込まれる。

 そこで攻撃的な3-4-2-1が機能しているチームの条件は、とにかく3枚のセンターバックが強く、速く、連係に優れている点にある。ウィングバックの背後をケアし、広いゾーンをカバーし、数的同数でも守れる。それだけのタフさが欠かせないのだ。

 インドネシアを見る限りは、不安定だった。

 たとえるなら、三笘は騎兵と言える。俊敏で、自由で、打撃力にこそ、持ち味がある。彼が自陣に下がって、馬を降り、塹壕にこもる。それは効率的な戦いではない。その背後を後方の選手が護り(もちろん、三笘はプレッシングやふたになるなどの役目は背負うが)、豊かな感性を十全に用いて敵を奇襲する方が大きな成果を生み出せるはずだ。

 インドネシア戦前半、三笘は自陣で受けたボールをドリブルで運ぼうとして、敵のチャージに潰されている。その直後には、ロングボールを自陣で競り合おうとして、相手を手でブロックしてしまい、倒したことでイエローカードを受けていた。これでは、宝の持ち腐れである。

三笘の使い方

 一方で39分、2得点目のシーンは、三笘の面目躍如だった。

 三笘は後方からの縦パスを受けると、完璧なコントロールで相手ディフェンスに飛び込ませない。そして対峙した格好から抜群のタイミングで、右足アウトサイドで横パスを流し込む。これを飛び込んできた南野拓実が押し込んだ。

 三笘のアシストだったが、これぞ最高の形と言える。相手を身動きできない状態にし、味方が突っ込む。これ自体は、列強国にも通じる。

 だからこそ、「左サイドバックの人材難だからと言って、三笘を便利屋のように左ウィングバックで使うべきなのか」という疑問は検証の余地がある。なぜなら、彼が一番怖いのはゴールに近い位置。そこから離れた場所に行かざるを得ないポジションで使うのは適切ではない。

 三笘だけでなく、久保建英もゴールに近い場所で、魔法を出せる選手である。その俊敏性とひらめきは敵を容赦なく苦しめる。彼らの背後は、むしろしっかり守って、攻めをバックアップする存在がいた方が効率的な気はするが…。

 19日、日本は敵地で中国と一戦を交える。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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