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猫の寿命が30年前と比べて約10年延びた...待ち受ける高齢化による光と影

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

コロナ禍でなにかと不安の多い時期ですね。

そのため猫を飼いたい人が増えています。近ごろでは、東大の宮崎徹教授が猫の腎不全を治せる薬のAIMを開発しました。そのAIMを投与すれば、猫の寿命が30年になるかもしれません。

そんな近未来がすぐそこに来ています。猫が長寿になれば、愛猫との楽しい時間が長く続いてとてもいいように思いますね。その一方で、いままでなかった深刻な問題も発生することになるのです。今日は、猫が長寿になったときに、どんなことが起こるかを考えていきましょう。

猫の平均寿命 1990年と2020年の比較

一般社団法人ペットフード協会が発表した「令和2年 全国犬猫飼育実績調査」によりますと、猫全体の平均寿命は15.45歳という結果が出ていました。そういえば、最近、20歳の猫とかをSNSでよく見ますから、それぐらいいくよね、と思っていませんか。このように長寿になったのは、ここ最近のことなのです。

東京農工大学の林谷秀樹先生の研究グループは、1990年当時、猫の平均寿命は5.1歳とされています。つまり約30年で10年以上寿命が延びているのです。いまから30年前は、猫は5歳ぐらいで亡くなっていたので、腎不全になる子はそういませんでした。それではいまから、1990年代の猫の病気はなにかを見ていきましょう。

猫の病気 1990年年代

写真:kusaka823/イメージマート

いまから30年前の平成のはじめぐらいは、猫が病院に来る理由は、以下が多かったです。

交通事故

猫同士の喧嘩

風邪がなかなか治らない

口内炎

下痢

などです。

交通事故や猫同士の喧嘩は、完全室内飼い増えてからはごくわずかになりました。

猫の風邪の原因は、猫ウイルス性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症、猫クラミジア病などで、いまやワクチンを打っている子も多いので、防ぐことのできる病気になりました。

そして、口内炎などは、猫白血病ウイルス感染症(FeLV)やいわゆる猫エイズ(FIV)が原因でしたが、完全室内飼いが増えて減りました。

つまり、この30年で猫の飼い主の意識が変わり、ワクチン接種をする人が増えてそして、室内飼いが増えました。

その結果、上術のような猫の感染症などで動物病院の門を叩く飼い主は減ったのです。ただし、猫の感染症を克服しても他の病気で動物病院にやってくるようになりました。

猫の病気 2020年代

写真:アフロ

宮崎先生が発見された猫の腎不全の薬・AIMに、1カ月で約1億7600万円の寄付が集まったことがネットで話題になっています。「腎臓病の猫」を助けたいという思いが、それほど多くの人たちを動かしたことがわかりますね。令和になり、平成の初期と猫がかかる主な病気が変わりました。以下の通りです。

慢性腎不全

がん

心臓病

このような病気が原因で、命を落とす子が増えています。

平成の初期の頃には、猫は室内飼いではなく、外にも出ていて「死期が近づくと飼い主の元から姿を消す」などとも言われていました(単に、具合が悪くなって帰って来られかっただけです)。

いまや室内飼いの子が多く、飼い主が薬の投与や自宅で皮下点滴もするような時代です。10歳を過ぎた猫は、やはり慢性腎不全になりやすく、そして猫も犬もがんや心臓病になりやすいです。

私たち獣医師は、このような病気の治療を主にしています。

猫の病気 近未来

平成の初期の頃といまは、病気の種類が変化して猫は長寿になりましたが、近未来では、もっと長寿になり平均寿命が20歳になる日が来るでしょう。

そのときは、猫の慢性腎不全は治る病気になっているかもしれませんね。

現在でも慢性腎不全、がん、心臓病にならずにすむ20歳の猫はいます。その子たちが、病気をなにも持っていないといいのですが、そういうわけにはいかないのです。

「うちの子が、最近、やたらに動き回りよく鳴くのですよ。食欲があるのですが、その割に太らないの」と言って飼い主さんが、20歳の猫を連れてこられることがあります。そのようなときは、以下の疾患が多いです。

認知症

平成の初期の頃は、犬には認知症があるけれど、猫にはないと思われていました。

甲状腺機能亢進症

血液検査で甲状腺の数値を調べて高値だとこの病気だとすぐにわかります。触診すると首の辺りが膨らんでいる子もいます。

甲状腺機能亢進症は根本的に治療しようとすると手術ですが、高齢になっていると難しいです。そのため治療法は処方や内服薬です。

このように猫が長寿になっても元気で長生きというのはなかなか難しいのではないか、と推測されます。そのようなったときの飼い主の問題を考えてみましょう。

飼い主に起こる経済的な問題

猫を飼うことは、世話をすること以外にもお金もかかるのです。「猫のこともっと知ってニャー」飼うにはこんなところにお金かかるで!という記事に書いていますが、平均寿命が約15歳としても一生涯で平均200万円以上はかかります。

そして、開発されたAIMもそう安価な薬ではないので、1回の注射で数千円から1万円以上の治療費がかかるかもしれない未来が待っているのです(注射は、1回で済まないはずです。何回か打つことになるでしょう)。筆者が、宮崎先生にインタビューしてAIMの価格を尋ねたときに、オプジーボを例に出されたので割合に高いものになるな、と思いました。

そして、がん治療も高額になることが多いです。がんは、近未来が来てもそう簡単には克服されているというわけにはいかないでしょう。

筆者は、日ごろ、がんの治療を多くしています。「がんを寛解させたい」と考えて、多くの治療を提案します。

現実問題、猫は人のような保険がないため「そんなにお金がかかるのなら、治療はしなくていいです」と言われることが多く体験しています。特に年金暮らしになると、そういう人が多くなります。20年近く連れ添った猫はもちろん、かわいいし愛おしいけれど、入ってくるお金は決まっているので、そう簡単に払えないからです。

猫が長生きするということは、そういう経済的なことも問題になってきます。

飼い主の健康年齢は大丈夫か?

たとえ猫に対する経済的なことは問題にならなくても飼い主の健康年齢も問題になってきます。いわゆる「老老介護」になるのです。

たとえば、定年退職をして念願の猫を飼うことにします。猫の寿命が30歳になっていれば、飼い猫が30歳になったとき飼い主は90歳です。そうなれば、猫のトイレの世話や動物病院に連れて行くことなどができるかどうかが問題です。

平成の初期の頃は、猫でオムツをしている子はほとんど見られませんでした。しかし、いまでは猫のオムツはペットショップに行けば、普通に並んでいます。シニアになれば、猫もトイレに失敗するようにもなるのです。

猫は犬に比べて飼いやすく散歩もいらないし、というので安易に飼うとシニア期にはいろんな世話もいるのです。

猫の近未来に備えて

写真:アフロ

飼い主の猫への愛情、そして獣医学の進歩によって猫の寿命は延びると推測されます。

吐く、食欲がないなどの症状が出てやがて命を落とすといった猫の腎不全が克服される世界が近い未来に来ることになるでしょう。

愛猫と長く暮らすことは、喜びが多いですね。飼い主の傍らにいてくれるだけでありがたいのに、そんな猫が、30年も生きていけると思うだけで嬉しいですね。

しかし、毎日、猫の治療をしていて筆者は、猫は動物なので「老い」「病気」もあるということは忘れてならないと考えています。寿命が延びても機械のように、突然電池が切れたように動かなくなって亡くなることはほとんどないです。

飼い主の年齢、そしてそれに伴う経済的なことも考慮して猫を飼ってほしいと思っています。いざ猫が長生きしたときに、こんなはずではなかったと思われないようにと思います。猫がシニアになって病気や介護が必要な存在になってもそれを含めて愛される存在でいますように。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は栄養療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医師さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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