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愛犬が危篤...その時に命をつなぐ「供血犬」の存在を知っていますか?犬の輸血問題

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:アフロ)

3年前の2021年2月ごろ、「供血犬」シロちゃんがネット上で話題になりました。

シロちゃんは関東の動物病院で「供血犬」※として飼われていました。しかし、献血をしていたにもかかわらず、地下のケージの中で2匹が新聞紙1枚敷かれただけの環境で、糞尿にまみれた状態で過ごしていたそうです。

それらのことを筆者は過酷な環境を生き抜いた【供血犬】 シロちゃんが突きつけるペット輸血の課題とは?という記事にしました。

その後、まいどなニュースによりますと、シロちゃんは里親のもとで15歳(大型犬としては長生きです)まで生き、2023年11月7日に天国へ旅立ちました。シロちゃんの存在を通じて、多くの人が「供血犬」という存在を知ることになりました。

あれから3年以上が経過しましたが、犬の輸血問題はどのように変わったのでしょうか。その現状を覗いてみましょう。

※供血犬とは、手術のときなどに輸血が必要なときに血液を提供する犬のことです。

獣医療で犬の血液は潤沢にあるのか?

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イメージ写真写真:イメージマート

犬の平均寿命は15歳となり、死因の一つとして「がん」が挙げられます。近年、医療や栄養環境の改善によって寿命が延びたことから高齢化が進み、がんの発症率も上昇しています。

さらに、CTやMRIなどの画像診断が可能な動物病院が増え、従来は診断がつかなかった病気ががんと判明することも増えました。これに伴い、手術が行われる機会も増えています。

しかし、がんの手術は通常の手術よりも出血しやすい特徴があります。がん細胞が自らの増殖のために新生血管を作り、その血管がもろいため、周囲は出血しやすいからです。このため、輸血が必要になる場面が多くあります。

一方で、現実問題として犬の血液は潤沢ではありません。

輸血のドナー犬の条件

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どの犬でも献血できるわけではなく、以下のような条件を満たす必要があります。

1、健康であること
感染症や慢性疾患がなく、投薬中でないこと。特にフィラリアなどの感染症検査が重要です。

2、適切な体重
体重20kg以上の大型犬が適しており、1回の採血で10〜15ml/kgの血液が提供可能です。

3、性格の安定性
採血時のストレスを最小限にするため、穏やかで協力的な性格が求められます。

4、適切な年齢
一般的には1歳以上8歳未満が望ましいとされています。

輸血のドナー犬が抱える問題点

実際にドナー犬が抱える問題を見ていきましょう。

1、ドナー犬の不足
日本では大型犬の数が少なく、上記の条件を満たす犬は多くありません。

2、飼い主の負担
献血は基本的にボランティアであり、病院への交通費も飼い主が負担します。また、採血時には毛を刈るため、これに理解のある飼い主が必要です。

3、供血犬のストレスや身体負担
採血時のストレスや身体的負担が問題視されています。採血後のケアや休養が欠かせません。一般的には、採血分の補液はしてもらえます。

4、供血の回数制限
健康維持のため、1頭の供血犬が提供できる血液量や頻度には限りがあり、一般的に年に2回程度とされています。

まとめ

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犬の寿命が延びるにつれ、がんの増加に伴い輸血の需要も高まっています。

しかし、供血犬の健康管理や倫理的配慮が欠かせません。一部の動物病院では献血犬を飼育していますが、これらの犬も年に2回程度しか献血できず、さらに病気の犬と血液型が必ず適合するわけではありません。

シロちゃんのように劣悪な環境で飼育される供血犬がいなくなり、ドナー登録してくれる犬が増えることが求められます。適切な基準作りと意識向上を進め、助け合いで犬の命をつなぐ社会を目指す必要があります。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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