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引きこもる在宅勤務者、その理由

横山信弘経営コラムニスト
(写真:アフロ)

■増える「引きこもり在宅勤務者」

引きこもる在宅勤務者が増えている。しかも、ほとんどが中年男性――つまり「おじさん」だ。それは、なぜなのか?

緊急事態宣言が出ている都市圏では、在宅で仕事ができるのであれば出勤を控えるほうがいいだろう。だから在宅勤務で引きこもるのは問題ない。問題どころか、いまや新時代の働き方として企業サイドが推奨すべきスタイルだ。

ところが、緊急事態宣言下でさらに増える?「ごもりーマン(巣ごもりサラリーマン)」の生態で書いたとおり、必要以上に引きこもる在宅勤務者(ごもりーマン)が増えている。

出社を要請しても滅多にオフィスに出てこない。先輩や後輩とのコミュニケーションも積極的にとらない。ヒドイ場合は、義務付けられている報連相も滞りがちで、いったい家で何をしているのかわからないような在宅勤務者のことだ。

在宅勤務の制度がなかった時代は、普通に出勤し、普通に同僚や上司とも交流していた一般的なサラリーマンだったのに、である。

「生産性の高い仕事をしてくれるなら、それでいい」

という意見もあるだろう。しかし、本当にそうだろうか。組織で仕事をしている以上、相互の交流を通じて組織パフォーマンスを上げていく努力は個々のメンバーに求められる要件だ。

任せた仕事を単にこなせばいい、というのであれば、単なる「タスク処理マシーン」。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)が進化していけば、そのような人材は必要なくなるだろう。

在宅勤務でもいいが、組織メンバーとしての責務は果たさなければならない。あまりにも自分の中に閉じこもってばかりでは困る、ということだ。

■「ごもりーマン」の問題点とは?

ただ、巣ごもりサラリーマン――「ごもりーマン」は決して問題社員を指しているわけではない。退社後まっすぐ帰宅するのが嫌で、フラフラと回り道をして帰る「フラリーマン」とニュアンスは似ている。すぐさま労務上の問題に発展するような、そんな社員ではない。ただ、あまりに放置していると問題が顕在化していく可能性はある。

組織は、組織の論理というものがあるからだ。

組織は集団と何が違うか、ご存知だろうか。

集団との違いは、組織目的があり、その目的を果たすことに貢献するという意欲あるメンバーが集まる。そして、しかるべきタイミングで情報を共有し、円滑なコミュニケーションを図ることが義務付けられる。

組織とは「組織目的」「貢献意欲」「情報共有」の3つのキーワードで表現されている、と覚えればいい。

昨今、「組織エンゲージメント」「心理的安全性」という言葉が取りざたされているが、まさにこれは集団との違いを如実に表している。単に仕事をこなせるだけでなく、コミュニケーションを通じて信頼を持てる仲間との仕事の取組みが、組織全体の生産性を上げるのだ。

ということで、組織の一員である以上、割り当てられた仕事さえこなしていけばいいというわけではないのだ。在宅勤務という働き方は時代に合っていても、組織の和を乱す「ごもりーマン」の存在は時代に合っていない。

■なぜ「ごもりーマン」はおじさんばかり?

内閣府の調査(2019年末)によると、引きこもり状態にある人の推計数は100万人を超えるという。40代以上の引きこもりの人も多く、状況は深刻だ。

きっかけは人それぞれだろうが、在宅勤務をきっかけに引きこもりの状態になるのだけは、会社サイドも危惧しているところだろう。

それではなぜ、必要以上に引きこもる在宅勤務者が増えたのか。クールビズを例にして説明したい。

本来は電気代節約、環境への配慮を目的として始まったクールビズ。しかし室温を28度以上設定にする事務所はほとんどない。おじさんたちは、みんなラクだからノーネクタイ、ノージャケットのスタイルを歓迎しているのである。

ところが、弊害もある。

パリッとしたシャツを着、ネクタイを締め、ジャケットを羽織ることで、世の中のサラリーマンたちは気持ちを引き締めていったのである。それが暑いからといって、ジャケットを脱ぎ、ネクタイもやめ、シャツのボタンも外す。シャツも半袖にすれば、当然見た目は悪くなる。気持ちも締まらない。

痩せていても、太っていても、どんな体型であっても、着用すればそれなりに見栄えがよくなるのがスーツの良さだったのに、である。

社会人になったときから、カジュアルな服装で働いていたのならともかく、「ラクだから」という理由で選択するものは、人を堕落させる。

オフィスへの出勤も同じだ。

朝早く起きて身なりを整え、小走りで駅へ向かい、電車に乗って、オフィスビルのエントランスを通過する。オフィスに到着すれば、気持ちのよい声で、

「おはようございます!」

と挨拶する。この一連のプロセスで、サラリーマンたちは自分にスイッチを入れていったのだ(特におじさんたちは)。これはスーツを着るまでの一連の動作とよく似ている。

気持ちを生活モードから仕事モードへと切り替える。その「切り替えスイッチ」の役割を果たしていたのが、サラリーマンにとっての「通勤」だったのである。

これもクールビズと同じだ。社会に出たときからそのスタイルで仕事をしているのであればいい。着る服も、働く場所も、ある程度自由だという会社で最初から働いているのであれば、その働き方に慣れているから問題はない。

しかし10年も20年も毎日同じように働いてきて、突然変化させられるケースは違う。

「クールビズって、ラクだなァ」

とつくづく思うし、

「通勤がなくなる在宅勤務って、ラクだなァ」

と痛感する。

「どうして今まであんなクソ暑いのに、ネクタイ締めて外回りしていたんだろう。もっと早くクールビズにしてくれたらよかったんだ」

と思う。

「どうして今まであんな満員電車に乗って、わざわざオフィスに通勤していたんだろう。もっと早く在宅勤務制度を導入してくれたらよかったんだ」

……と、このように感じるのだ。

その文化に慣れていないから、少しずつ堕落していく。だから「ごもりーマン」はおじさんが多いのである。

オフィス勤務しているときはそうでもなかったのに、在宅勤務が長期化することによって引きこもる社員がいたら、組織のリーダーは注意しておこう。一度味を占めると、自分が手にした権利を手放そうとはしないだろうから。

本当に「引きこもり」になってしまったら、双方にとって大きな問題を抱えることになる。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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