「官公庁メインの企業」が抱える深刻な3つの成長課題とは?
官公庁をメインとしたビジネスと聞くと、建設業やシステム開発を思い浮かべる人が多い。しかし実際にはもっと幅広い業種が官公庁ビジネスを展開している。
たとえば給食事業者は学校給食を通じて自治体と取引をしている。印刷会社は行政の広報誌や申請書類の印刷を手掛け、警備会社は庁舎や公共施設の警備を担当する。清掃会社や福祉事業者も行政と関わってビジネスを展開している。
官公庁をメイン顧客とするビジネスは、一度取引がはじまれば安定した収益が見込める。倒産のリスクも低いと思われた。しかし時代は大きく変わった。不確実性、曖昧性、複雑性、変動性が高いVUCAの時代だ。
民間企業のスピード感やイノベーション力が問われる中で、官公庁ビジネスに依存する企業は深刻な課題を抱えはじめている。
今回は官公庁ビジネスにはどんなの強みがあり、どんな弱みがあるのか。そして今後抱えるであろう深刻な課題をどう克服するのかを解説する。官公庁ビジネスに関わる経営者やマネジャーはもちろん、新規事業の立ち上げを検討している方々にぜひ読んでもらいたい。
■官公庁ビジネス3つの強み
官公庁ビジネスには多くのメリットがある。すべてを紹介できないが、今回は主に3つの強みについて触れたい。一つずつ簡単に解説していこう。
(1)確実な支払い
民間企業と違って予算が確保されているため、支払い遅延や未払いのリスクはほとんどないと言われる。昨今、民間企業の経営状態が厳しくなるなか、この強みは際立っている。ある建設会社の役員は「官公庁の支払いは遅れたことがない。むしろ約束より早く入金されることもある」と語る。
貸し倒れリスクが低いことは、経営を安定化させるうえで極めて重要なファクターだ。
(2)継続的な取引
一度信頼関係を築けば、長期にわたって取引が続く可能性が高い。あるソフトウェア会社では「10年以上取引が続いている官公庁が7割を超える」と言う。システムの保守・運用など、継続的な案件を受注できるケースも多い。
このファクターも経営を安定化させるうえでとても大きい。
(3)信用力の向上
官公庁との取引実績は、他の顧客に対する信用力アップにつながる。権威性の原理という心理効果だ。「官公庁に採用された」という実績は、民間企業への営業でも大きな武器となる。
とくに地方自治体との取引は、地域での知名度向上に効果的だ。企業ブランディングにも強い味方になる。
■官公庁ビジネス3つの落とし穴
このように、素晴らしいビジネスモデルと言える官公庁ビジネスだが、問題点も多い。売上シェアが2~3割であればともかく、5割以上を官公庁に依存すると、以下3つの課題を抱えることが多いのだ。
(1)営業力の低下
入札が中心の営業スタイルは、民間企業向けの営業スタイルとは大きく異なる。ライバル会社との優劣で決まらないこと、比較的長きにわたって関係構築が必要なこと、質よりも量が大きな意味を持つことなど、である。その結果、新規開拓力や提案力が衰えていくのだ。
あるITベンダーの営業部長は「官公庁営業を10年やった後に民間企業向け営業に異動したが、まるで別世界だった」と振り返る。
「50社まわっても、1社か、2社しか提案さえさせてくれない。これが本当の営業というものか」
と語っていた。
(2)マーケット感覚の鈍化
官公庁相手の商習慣に慣れすぎると、市場の変化や顧客ニーズを捉える感覚が鈍くなってしまう。どんなに優れた技術を持っていても、マーケティング感覚が鈍っているため、
「どこに見込み客が存在するのか? ひょっとして売れる先がないのでは?」
と勝手に思い込む営業もいる。このように、マーケット分析も正確にできないことが多いのだ。外部環境が劇的に変化していることも気付かず、市場競争力が低下するリスクがある。
(3)イノベーションの遅れ
官公庁は前例を重視する傾向が強い。そのため新しいことにチャレンジする機会が少なく、イノベーション力が育ちにくい。DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応も遅れがちだ。
あるコンサルタントは「官公庁向けの仕事が多い企業ほど、新しい技術やビジネスモデルへの投資に消極的」と指摘する。そのため、優秀な若手が定着しなくなるリスクも大きい。
■課題克服のための3つの処方箋
官公庁メインのビジネスでなくとも、同様の傾向はある。技術力が高く、引合いが多い企業がそうだ。「平時」には強みが発揮され経営は安定するが、「有事」にはとたんに不安定になる。
では、これらの課題をどう克服すべきか。20年以上、営業コンサルティングをしてきた私が3つの処方箋を示そう。
(1)営業の基礎体力作り
見込み客の発掘から商談のクロージングまで、基本的な営業知識を身につける必要がある。また、営業プロセスを再構築するには「カスタマージャーニー」を分析するところから始めなければいけない。
<参考になる動画>
このような基礎知識がないまま民間企業に法人営業を仕掛けても、空回りし続けることになる。
(2)マーケット戦略と分析力の強化
顧客ニーズや市場動向を把握する力を養うため、「マーケティング」や「戦略」の基礎知識を学び直そう。そもそも「マーケティングとは何か?」「戦略とは何か?」を正しく解説できない経営者、マネジャーは多い。
マーケティング戦略は経営戦略に直結する。現場における戦術よりも、まずは戦略の見直しをはかるためにも、しっかりと地力をつけることが大事だ。
(3)新規開拓の実践
確かな技術力があり、官公庁との取引によって培った信用力という武器があるのだから、あとは実践して鍛えることだ。ゼロからの新規開拓に挑戦することで、営業力とマーケティング力を鍛えることができる。
実践に勝る「学び」はない。
■まとめ
官公庁ビジネスは「安定」という圧倒的な強みがある。多くの企業が手にしたくてもできない、素晴らしい強みである。
しかしもしも長期においてそのスタイルを継続していると、深刻な成長課題を抱えることが多い。ある食品メーカーの社長は「官公庁向けの学校給食事業と、民間向けの食品事業をバランスよく展開することで、コロナ禍を乗り越えることができた」と語る。
大切なのは、官公庁ビジネスと民間ビジネスのバランスを取ることだ。両者の良いところを取り入れながら、柔軟で強い組織を作っていく。
少し時間がかかっても、営業とマーケティング力をゼロから鍛えるつもりで取り組もう。そうすればVUCAの時代を生き抜くための、一般企業では手に入れられない大きな強みを手に入れることができるはずだ。
<参考記事>