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緊急事態宣言下でさらに増える?「ごもりーマン(巣ごもりサラリーマン)」の生態

横山信弘経営コラムニスト
(写真:Paylessimages/イメージマート)

■巣ごもりサラリーマン「ごもりーマン」とは?

「原則在宅だとは伝えた。しかし出社を要請しても出てこない。まいったな」

という人事部長の声を聞いた。

「社長が新年の挨拶をするというのに、年初も出勤してこなかった。もう2ヵ月ぐらい顔を見ていない」

直属の上司も不平を漏らす。巣ごもりサラリーマン――「ごもりーマン」が増えているのだ。

背景にあるのは、もちろん新型コロナウイルス感染症の急拡大である。そのせいで外出せず、自分の住処にとどまりつづける人が爆発的に増えた。これにより新しく生まれた消費、需要のことを「巣ごもり消費」「巣ごもり需要」と呼ぶ。

「ごもりーマン」も、こういった現象と同様に生まれた。出社も出張も外回りもせず、ひたすら自分の住処にとどまって働く”巣ごもりサラリーマン”を指す。

退社後、まっすぐ家に帰らずフラフラと時間つぶしをするサラリーマンを「フラリーマン」と呼ぶが、「ごもりーマン」の生態は、その逆だ。最低限の事務連絡はあるが、それ以外は同僚とも一切交流をもたず、ひたすら家にこもっている。

■ごもりーマンの生態

在宅勤務するサラリーマンと「ごもりーマン」とは違う。「ごもりーマン」は必要以上にこもっている。会社が出社を要請しても、基本的に「こもる」。

「どうしても顔を合わせて面談したい」

と上司に言われても、

「オンラインでも、顔を合わせて面談はできます」

と言い返す。

「東京本社の会議に参加するため、出張してくれ」

と言われても、

「出張旅費がもったいないでしょう。宿泊費も出張手当もかかりますし、私だけオンラインで対応させてください」

と返してくる。

「全国から集まるんだよ。君だけオンラインというわけにはいかないだろう」

「そんな考え、古すぎます」

「古いって、君ィ……」

どんなに説得しても自宅から出てこない。

日立製作所は2021年4月から「半分在宅」を導入する。NTTグループも追随する予定があり、在宅勤務者の通信費を一部非課税にするなど、政府も後押しする姿勢だ。

「会社に出てこい」

と言いつづければ、時代の流れに逆行していると反発を食らう可能性は高い。1月7日に緊急事態宣言が出てからは「原則在宅」と会社も方針を打ち出したから、その方針に従うのは当然だ。しかし宣言が解除されたあとはどうなるのか。

上司や人事部部長の心配は増すばかりだ。

■「ごもりーマン」は問題社員か?

コロナ禍において「ごもりーマン」が急増している。

会社が「在宅勤務」を推奨している以上、上司や同僚はむやみに「出社しろ」とは言えない。それをいいことに「ごもりーマン」は職場の和を乱す。組織リーダーにとっては頭の痛い存在だ。

さすがに「全社方針発表会」や「重要顧客との打合せ」など、きわめて重要性の高いイベントには顔を出す。しかしそうでなければ「業務命令」でもない限りは応じない。

仕事の生産性が高いのであればまだいい。ところがタスク管理が甘く、チームに迷惑をかけるのであれば問題だ。メールの返信が遅く、電話をしても出ないような「ごもりーマン」もいる。

業を煮やして、

「外出していないんだったら、なぜ電話に出られないんだ」

と上司が言えば、

「電話に出られないこともありますよ。もしかして私を監視したいんですか」

と突っかかってくる。

報告・連絡・相談も滞りがちだ。そうなると、さすがに、

「何をやっているのか、よくわからない。そんな風だったら、会社に出てこい」

と言いたくなる。当然のことだ。サボり癖がついたのか。出社していたころより明らかに堕落している様子なら、このまま放置しているわけにはいかない。

■なぜ「ごもりーマン」になったのか?

それにしても、なぜこのような「ごもりーマン」になったのか。オフィス勤務をしているときからも、サボり癖があったかというと、そうではない。

新型コロナウイルス感染症の影響により、会社の要請にしたがって在宅勤務をはじめた。想像以上にメリットが大きいことに気付いた。そうしているうちに、このメリットを手放すことができなくなり、「ごもりーマン」と化してしまったのだ。

社会人になる前から出不精で、週末も家にこもっているような人は要注意だ。そういう人にとっては、毎日1時間や1時間半もかかって会社に通勤するのは苦痛以外の何物でもない。

とくに寒い冬はストレスが倍増する。朝早く起きて身なりを整え、最寄りの駅まで歩くのは辛い。寒さに震えながらプラットフォームで電車を待ち、満員電車に揺られてオフィスへと向かう。

「さぶ……」

職場についてからコートをかけ、両手を擦り合わせながら自分のデスクへ向かう。こういった一連の朝のルーティーンが、仕事のリズムを作ることにも役立つのだが、「できればないほうがいい」「ストレスでしかない」と受け止める人は多いことだろう。

帰宅時のラッシュもストレスは大きい。特に交通混雑の激しい大都市圏では顕著だ。満員電車が苦痛で会社を辞め、フリーランスに転身する人も少なくない。

しかしフリーランスになる勇気もなければ、そんな技術も持ち合わせていない。そんな感覚の持ち主であるなら、この在宅勤務のメリットはとても大きいだろう。

■ハイパフォーマーの「ごもりーマン」も?

いっぽう少数だが、巣ごもりになってから著しくパフォーマンスを上げる者もいる。そのような「ごもりーマン」は、組織に変革をもたらす存在だ。

「君は全然、会社に出てこないな」

「その分、お客様との接点はとっていますよ。毎日報告しているじゃないですか」

「1週間に1回ぐらい出社したらどうだ」

「何のためにですか?」

「たまには顔を見せてくれよ」

「Zoomを使って見ればいいじゃないですか。昨日もディスプレイ越しでお会いしました」

「みんな寂しがってるから」

「ここ半年間の残業をチェックしてください。私だけが平均15時間も残業を減らしています。他の方はどうですか?」

「いや、それは、その……」

「通勤時間がなくなった分、ビジネス書を読んだり、新聞や業界紙に目を通したりする時間が格段に増えました。自分のお金でオンライン研修を受けて、いっそう自己研鑽に励んでいますよ」

「それは、凄いな」

「出社していたら、できなかったことばかりです」

家にこもって生産性の低い仕事をしているのであれば、単なる「出来の悪いサラリーマン」だ。しかし、巣ごもりライフを謳歌するためなら、何だってやる。新しいことにチャレンジすることも厭わない、このような「ごもりーマン」もいるのだ。

■昭和的上司は、どう対応すればいいのか?

「たしかに協調性はないが、そういうメンバーがいても問題ない。それどころか組織にイノベーションを起こしてくれる貴重な存在だ」

こう評価する上司もいる。

今どきの組織は流動的だ。社内外、いろいろな人と協力し合って仕事をする。どの場所で仕事をしていようと問題はない。重要なことは、成果であり、そのためのパフォーマンスだ。

従来の働き方ではパフォーマンスの上がらなかったメンバーが、巣ごもりになったとたん、ハイパフォーマーに化ける。

このようなケースでは、リーダーの手腕が問われるだろう。組織の和を乱す存在として目をつけるのか、イノベーターとして受け入れるのか。

「私たちのような古いタイプでは、なかなかできない発想をする。組織には貴重な存在だ」

このような評価をすれば、かけがえのない戦力になるだろう。仕事の生産性をアップするには、DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用が不可欠である。だから、従来のやり方に囚われない「ごもりーマン」の発想は大きく寄与する。

とはいえ、これまでの感覚で組織を束ねようとする上司にとって「ごもりーマン」は厄介な存在だ。とくに、一緒にランチをし、夜は飲みに行き、週末は家族ぐるみで付き合いたがるような昭和的発想の上司には理解できない新たな生態であろう。

しかし「オンラインネイティブ」と呼ばれる、オンライン環境でしか仕事をしたことがないビジネスパーソンも登場している現代、従来の価値観を押し付けることはできない。

経団連は先日、「従来の画一的な日本型雇用慣行の限界が顕在化している」とし、新卒から「ジョブ型雇用」を取り入れるよう呼びかけるとした。

「在宅勤務」に「ジョブ型雇用」。

ますます多様な価値観を持ち、多様な働き方を希望するサラリーマンが増えるに違いない。そんな部下と、どのように向き合っていくのか。これからさらに、上司の柔軟な姿勢が問われることになりそうだ。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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