酒飲みじゃなくても注意して! 命に関わる肝臓の病気、脂肪肝とは
「お酒の飲み過ぎは肝臓に悪い」ということは誰もが知っています。
お酒が好きな方の中には、健康診断で「肝臓の数字が悪い」と言われた経験のある方も多いでしょう。
また、B型肝炎やC型肝炎という病気が、肝硬変や肝臓がんに進行してしまうことがある、という知識をお持ちの方も多いと思います。
では、お酒を飲まない方で、かつウイルス性肝炎にもかかったことのない方でも肝臓の病気を起こすケースが増えている、と言われるとどうでしょう?
驚く方が多いのではないでしょうか。
しかも、その病気は肝硬変や肝臓がんまで引き起こし、時に命に関わることもある。
一体、何の病気でしょうか?
これが、実は誰もがよく知っている病気、「脂肪肝」なのです。
脂肪肝とは?
脂肪肝とは、その名の通り、肝臓に脂肪が過剰にたまってしまう病気です。
脂肪肝は、その原因によって大きく二つに分けることができます。
・飲酒が原因となるアルコール性の脂肪肝
・飲酒が原因でない非アルコール性脂肪性肝障害(NAFLD)
アルコール性脂肪肝は、エタノール換算で、男性は1日30グラム以上、女性は20グラム以上の飲酒を毎日続けると起こりうる病気です。
一方、これより飲酒量が少ない人の脂肪肝は、NAFLDと考えます。
(エタノールの量は日本酒1合が約28g、350mlの缶ビール1本で約18g、ウイスキーはシングル1杯で14g程度です)
実はNAFLDの患者さんは非常に多く、報告によると、日本人男性の約41%、女性の18%がかかっているとされています(1)。
さて、このNAFLD、アルコールが原因でないとすれば何が原因なのでしょうか?
NAFLDの発症に関わる因子は、肥満や高血圧、糖尿病、脂質異常症(中性脂肪やコレステロールの値が高い)などです。
どこかで聞いたことがあるリストですね。
実はNAFLDは、「メタボリックシンドロームが肝臓に現れたもの」なのです。
NAFLDはなぜ怖い?
脂肪肝は、ありふれた病気であるためか、あまり深刻に捉えない方が多いと感じます。
しかし、NAFLDは8〜21年の経過で、約5〜8%が肝硬変に進行するとされています(2)。
ひとたび肝硬変になれば、どんな治療を受けても元どおりに戻ることはありません。
そして、一部が肝臓がんに進行していきます。
NAFLDの中でも、「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」と呼ばれるタイプは、そのリスクが高いとされています。
また、NAFLDの患者さんは、心筋梗塞などの心血管系の病気や、脳卒中など、肝臓以外の病気になるリスクも高く、死亡率そのものが高いことも知られています(3,4,5)。
そう考えると、きちんと治療しなければならない、ということに気付けるのではないでしょうか?
脂肪肝の症状とは?
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれます。
つまり、よほど進行しない限り、肝臓の病気には症状がありません。
脂肪肝も、患者さんの多くが無症状です。
そこで、健康診断などの血液検査で肝臓の機能を示す数値の異常を指摘され、腹部超音波検査やCT検査などの精密検査を受けて発見される、というケースが一般的です。
どんな治療が必要?
脂肪肝を治すには何をすればいいのでしょうか?
原因を考えれば明らかですが、メタボリックシンドロームの治療、すなわち、生活習慣の改善が最も大切です。
まず、食事習慣の改善と適度な運動によって肥満を解消します。
体重を7%減らせば脂肪肝が改善するというデータもあるため、これを一つの目標にするとよいでしょう(6)。
もちろん、糖尿病や高血圧、脂質異常症など、原因となっている病気の治療をきちんと行うことも大切です。
また、アジア人の場合、肥満ではないNAFLD患者が多いことも知られています。
肥満でない人(BMI 25 kg/m2未満)のうち、NAFLDは8〜19%にのぼり、欧米より高い傾向にあるのです(7)。
「自分は太っていないから大丈夫」という発想は必ずしも正しくないため、注意が必要です。
ただし、非肥満NAFLDであっても食事や運動などの生活習慣改善が有効とされているため、同様の対応が必要と考えてよいでしょう(8)。
なお、薬については、「これを使えば脂肪肝がすっきり治る」という特効薬はありません。
近年ビタミンEがNAFLDに有効とする報告はありますが、現状ではまだ保険適応はなく、今後の有効性、安全性を検証すべき段階と言えます(9)。
脂肪肝は、早い段階できっちり受診し、対策することが大切です。
健康診断の結果を放置せず、必ず医師に相談していただきたいと思います。
なお、肝臓がんについても非常に誤解が多いため、以下の記事もご参照ください。