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憲法改正は日本国民の意思ではなく、今回もまたアメリカの意思で決まるのか?

山田順作家、ジャーナリスト
参院予算委員会 憲法改正めぐり論戦(写真:つのだよしお/アフロ)

さる5月3日、安倍首相が「2020年を新しい憲法が施行される年にしたいと強く願っている」というビデオメッセージを出したため、現在、憲法論議が活発化している。

しかし、いくら議論しても無駄だろう。まっとうな議論を尽くして改憲ができるなら、もう何10年も議論してきたのだから、とっくに改憲できているはずだからだ。

ではなぜ改憲できないのか? それは日本人が、心の奥では、このままなんにもしないで平和と安全でいられるなら儲けもの、命がけで国を守るなんてまっぴらごめんだと思っているからだろう。これは右も左も関係ない。

日本人の心の奥にある、現実無視の本音である。それほど、私たちは自堕落で無責任な考えが染み付いてしまい、平和と安全に対して麻痺してしまったのだ。

現在、メディアは北朝鮮のミサイル発射で毎週大騒ぎしている。しかし、これを本当に日本の危機と感じるなら、強硬な憲法改正反対論など唱えられるわけがない。一刻も早く、有効な安全保障政策を構築することが最優先課題となり、そのためには憲法9条は邪魔になるからだ。なにしろ、敵国の力の威嚇に対して対抗できる力がないのだから、自ら平和を構築できようがない。

ところが、左派、護憲派、リベラルな人々というのは、じつに不思議な思考法をする。いまだに「これまで日本は憲法9条のおかげで平和が保たれてきた」と、平気で言い放つ。極東地域で、これまで平和が構築されてきたのは、力のバランスのおかげである。日本が平和と安全を確保できたのは、アメリカの「核の傘」があったからだ。

しかし、このことを認めて憲法を改正すると、自ら武力で国家を守り、いざというときは本当に戦争をしなければならなくなる。自衛隊を正式に「軍」と呼び、国民と議会は、この軍事力をどう使って平和と安全を維持するか、真剣に考えなければならなくなる。そんなこと、できればしたくない。だから、なんやかんやと言って、これまで思考停止できてしまった。

しかし、もう時間がなくなってきた。もし、北朝鮮が米本土まで届くICBMを持てば、相互確証破壊が成立して、アメリカは北を潰せなくなる。そうなると、北の核による脅迫に、わが国は対抗する手段がなくなる。

すでに、アメリカと中国の間には相互確証破壊が成立しているから、もし尖閣戦争が起こっても、アメリカは日本を守るために参戦しない。

これは、アメリカが日本を守るとした日米安保違反ではないかというが、その根拠となる安保第5条は、「日本への攻撃はアメリカへの攻撃」と解釈できるものの、「自国の憲法上の規定及び手続に従って」とある以上、自動参戦などということはありえない。

それなのに、これまで日本は、オバマ前大統領などが「尖閣は安保の範囲」と言ってくれたことを喜んできた。

しかし、トランプ大統領はそうはいかない。この大統領は、歴史の知識がないうえ、先人たちが築いてきた世界平和のメカニズムを理解していないから、なにをやるかわからない。彼の頭のなかにあるのは、常に「自分」と「ディール」(取引)だけだから、安全、平和、自由、公正、人権などという譲れないことすら、取引してしまう可能性がある。

だいたいトランプは、選挙期間中、日米安保の片務性、米軍駐留経費を不公平として、「全額払え。そうしなければ撤退もありえる」と言ったことがある。しかも、NYT紙やWP紙のインタビューで、「もし中国が日本を攻撃したらどうするか?」という質問に対して、「アメリカが一歩引いても、日本は自ら防衛できるだろう。日本は中国との戦争に勝ち続けた歴史がある」などと、ピント外れのことを平気で言っていた。

彼は安倍首相との会談で、「アメリカは100%日本と共にある」と言ったが、いっしょに戦うとは言っていない。それに、この大統領は嘘つきだ。

アメリカはいかに同盟があろうと、同盟国の戦争に自動参戦などしない。第一次大戦でも第二次大戦でも、どんなに英仏が窮地に立たされても参戦しなかった。第二次世界大戦にアメリカが参戦したのは、日本に真珠湾を奇襲されたからであり、それでも独伊には宣戦布告をしなかった。独伊のほうが、日本が攻撃したから仕方なくアメリカに宣戦布告をしたのである。

かつて、アーミテージ国務副長官(当時)は日本プレスクラブでの記者会見で、「安保条約は、日本あるいは日本の施政権下にある領土に対するいかなる攻撃も、米国に対する攻撃とみなされることを定めている」と述べた。これは2004年のことで、当時は、尖閣問題も北朝鮮問題も深刻化していなかった。

先日のこのコラムで書いたが、アメリカ国内には、北への先制攻撃論が根強くある。ジョン・マケイン上院議員とともに共和党穏健派を代表するリンゼー・グラム上院議員がその筆頭だ。彼は、大統領は米本土を守る責任があるとし、北を攻撃せよと主張している。

それとともに、アメリカ国内で、高まってきたのが、「日本に改憲させろ」という声だ。民主党、共和党を問わず、こう主張する議員がいる。

昨年夏の大統領選挙中にトランプは、日本の核保有を容認する発言をしたことがある。このとき、バイデン副大統領(当時)は、トランプをバカにして「彼は私たちが書いた憲法で日本が核兵器保有国になれないことを理解していない」と批判した。

アメリカでは、日本国憲法はアメリカ(マッカーサー)が書いて日本に与えたのは常識である。だから、今回もまた、書き換えさせろと言うのだ。

そんな声を代表して、5月9日のWSJ紙は、オピニオン欄で「Japan’s Constitutional Gamble」(日本の憲法ギャンブル)という記事を掲載した。この記事の主張は、北朝鮮や中国の脅威が高まっているいま、日米は共同して防衛と抑止に努めなければならないが、第9条を持つ日本国憲法はそのためのリスクになっているというものだ。憲法第9条が集団防衛を阻んでいるからだ。

つまり、この状況をなんとかすべきと、暗に示唆している。

WSJ紙の主張は、アメリカ国民と議員たちの主張の代弁と思っていい。トランプが日米安保の片務性を批判したように、いまや憲法も批判の対象になっている。

たとえば、民主党のブラッド・シャーマン下院議員は「日本は私たちが攻撃されても憲法を口実に助けようとはしないから、私たちは尖閣諸島を守る必要はない」と主張している。彼は、「北朝鮮のテロ指定国家を解除すべきではなかった」とも言っている。

初外遊を「どこにいってもホームラン」などと自慢するトランプの定見のなさ、不誠実さは、いまや世界中に見透かされている。ドイツのメルケル首相は彼を完全に見放し、「もうアメリカを頼らない」と宣言した。中国の習近平主席も、北朝鮮の金正恩党委員長もトランプを舐めきっていると見ていい。

しかも、アメリカ国内では、今後、ますますトランプ弾劾の動きが強まっていく。ブックメーカーによる弾劾のオッズ(2017年中)は、つい先日までは2/1(3倍)だったが、先週から1/1(2倍)になった。

弾劾が近づくと、そこから目をそらさせるため、このナルシスト大統領トランプはなにをしでかすかわからない。北朝鮮を本当に先制攻撃するかもしれない。

かつて、弾劾裁判にかけられることになったクリントンは、アフガニスタンやスーダンへの爆撃を行い、「スキャンダルから目をそらさせるためだ」と散々批判された。

そして今週、とうとう3番目の空母打撃群ニミッツ艦隊が派遣された。これで、3打撃群体制となり、北朝鮮攻撃の準備は整った。

とはいえ、日本の本当の脅威は、北朝鮮より中国だろう。中国の拡張主義は、これ以上放置しておくと、わが国の安全保障にとって最大の障壁となる。

民主主義を尊重せず、外交を国益拡大の手段としか考えない拡張主義国家が存在する限り、日本が日本国憲法内に留まることは危険である。中国にも北朝鮮にも、政治に「公正」と「信義」が存在しない。国民の「自由」も存在しない。

それなのに、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」を守っている場合ではない。

憲法を改正するのは、とりあえず第9条を、次のようにすればいいだけだ。

原文《第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。》

改正《9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求する。2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力を保持する。》

安倍首相はもっと明確に、このままでは憲法によって、日本は自国防衛ができない。平和と安全を維持できない。アメリカにも見捨てられる。それでいいのか?と、国民に伝えるべきだ。このままいくと、またもアメリカの圧力で新憲法をつくることになる。それでもいいのだろうか?

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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