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政権交代?どうなろうと国民生活は崩壊する!各党公約はすべて国民騙しの「口先バラマキ合戦」

山田順作家、ジャーナリスト
10月12日、日本記者クラブでの各党の党首討論会(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

■「政治とカネ」だけが争点でいいのか?

 10月27日の衆議院選挙は、今後の日本経済、私たちの暮らしに決定的な影響を与えるはずだが、各党の公約を見ると暗澹たる気分になる。

 口当たりのいいことばかりを並べ、その実現可能性については知らん顔。財源も、実現への道筋も示されていない。これでは、ただの口先だけの「バラマキ合戦」にすぎない。

 しかも、争点は「政治とカネ」とされ、激しい論戦が続いている。しかし、裏金をなくし、旧統一教会の影響力を削いでも、それで国民生活がよくなるとは限らない。もちろん、政治がクリーンになるので、日本特有の「縁故資本主義」が改革され、経済はある程度は活性化される。

 しかし、それよりも円安、物価高、賃金安と、いまスタグフレーションに陥っている日本経済をどうやって立て直していくのか? つまり、窮地に陥っている国民生活をどう安定させていくのか? これこそが、今回の選挙の本当の争点になるべきではないだろうか。

■「ルールを守る」「暮らしを守る」が公約か?

 それでは、自民党から見ていこう。なんと、「ルールを徹底して守る政党に生まれ変わる」というのが、最大のメッセージだ。こんなことを言うのは、これまでルール破りをしてきたからだが、ルールそのものを変えようとは言っていない。

 結局、自民も有権者におもねり、裏金問題に関しては非公認議員を決めたり、比例区との重複立候補をやめたりして、ポーズだけは示した。しかし、それだけだ。

 自民の公約は「守る」という一言で統一されている。守るのは、次の6点。

(1)ルールを守る(2)暮らしを守る(3)国を守り、国民を守る(4)未来を守る(5)地方を守る(6)新たな時代を切り拓く。

 

 このような「守る」ことの列記が、公約と言えるだろうか?

■国債発行による大型補正予算で目くらまし

 「守る」のなかの(2)に該当する経済政策は、どうなっているだろうか?

 書かれているのは、「物価上昇を上回る賃上げの実現」「成長と分配の好循環」など、岸田政権の路線を引き継ぐ内容ばかりで、石破カラーはほぼない。

 給付金支給や電気・ガス代補助などで、物価高騰の影響を受ける事業者や低所得者、地方などに寄り添った「物価高への総合的な対策に取り組む」としているが、これはバラマキであり、野党もまた同じようなことを言っている。

 石破茂首相(67)は、10月15日、公示後の第一声で、昨年度の約13兆円を上回る補正予算案を編成する考えを表明した。この補正予算が、バラマキの原資だが、その財源については示していない。

 昨年度の場合は約7割が国債だったので、今回もまた同じになるのは間違いなく、放漫財政はとめどなく続くことになる。

■女性が2人のみ、平均年齢63.6歳の老害内閣

 10月17日に時事通信が公表した石破茂内閣発足後初の支持率は、なんと28%。2000年以降の最低記録、森喜朗内閣の33.3%を下回った。

 こんな数字が出た原因は、いい加減な公約と内閣の構成にある。結局、旧安倍派と裏金議員を排除し、総裁選の論功行賞で人事を決めている。つまり、「国民向け」ではない、「党内統治」を最優先にした結果だ。

 石破内閣の閣僚20人の平均年齢は63.6歳。第2次岸田再改造内閣の63.5歳とほぼ同じだが、歴代内閣に比べれば高齢である。つまり、完全な「老害内閣」であり、これまでの在庫を一掃しただけ。初入閣が13人と言う異常な多さが、それを物語っている。さらに、女性は三原じゅん子(60)と阿部俊子(65)の2人だけ。

 

 この状況にあきれたロイターは、10月1日、石破内閣発足を「Japan's overwhelmingly male cabinet underlines gender gap, again」(日本の男性優位内閣、ジェンダーギャップ再び浮き彫りに)と、世界に伝えた。

■首相になった後の変節が招いた「石破ショック」

 それにしても、総裁選と首相になってからの主張で、これだけ言うことが変わった政治家は見たことがない。これでは、有権者は信用しない。結局、自民党は看板を国民人気が高かった石破茂首相に付け替えただけである。

 しかも、石破首相は、経済・金融には弱い。就任直後に日銀の植田和男総裁と会談した後、「個人的には現在、追加利上げするような環境にあるとは考えていない」と発言してしまった。

 これにより、株価が大幅下落する「石破ショック」が起こった。その後、発言を修正したが手遅れ。いったん円高に向かったドル円も下落した。かねてから石破首相はアベノミクスに否定的だったのに、このような変節は予想外だった。

 

 アベノミクスは実体経済をよくはしなかった。量的緩和により、見せかけの経済数値をよくしただけにすぎない。しかも副作用として、巨額の政府債務による民間経済の圧迫と歯止めなき円安を招いた。

 したがって、これをなんとかソフトランディングさせないと、日本経済はさらに落ち込む。この難しい道に、次の政権は取り組んでいかねばならない。ところが、石破首相は国会答弁で、経済運営は「岸田内閣の取り組みを着実に引き継ぎ、発展、加速させていく」と述べたのだ。

■高市早苗氏が首相になっていたら財政破綻

 石破首相と最後まで自民党総裁選を争った高市早苗氏(63)も、「バラマキスト」である。右派、保守とされているが、こと経済においては完全な左派ポピュリストだ。

 高市氏は「早苗あれば憂いなし」というスローガンを掲げ、「いま金利を上げるのはアホや」と公言した。また、積極財政を唱え、その財源として国債を挙げ、「自国通貨建ての国債はいくら発行してもいい」というMMT理論に染まっている。

 となると、もし首相になったら、バラマキ予算を組み、足りない財源は国債を発行して日銀に買わせるという「財政ファイナンス」を行う可能性がある。なにしろ、軍事費増強も国債発行でまかなうはずだからだ。

 しかし、そんなことをしたら、円はどんどん安くなり、外資ファンドは日本国債の空売りを仕掛けるから、国債は暴落して財政は破綻する。少なくとも、スタグフレーションはますます深刻化する。

 これは、英国のリズ・トラス政権が陥ったのと同じ道だ。トラス前首相は、就任するや大減税を実施し、足りない財源はすべて国債で調達するとしたため、財政悪化を懸念して長期金利が5%に跳ね上がり、株価は下落、ポンドは対ドルで最安値を更新するという「トリプル安」に陥った。こうして、トラス政権はたった49日で崩壊した。

■「政治とカネ」に厳しくもバラマキはユルユル

 では、野党のほうを見ていこう。

 こちらは、自民をはるかに上回る「バラマキ合戦」となっている。そのバラマキぶりは、与党の公明党とほとんど変わらないので、まずは公明党の公約をまとめておきたい。

 

 公明党は、「政治とカネ」に関しては「政策活動費の廃止」など、自民より厳しい姿勢を打ち出しているが、経済政策に関しては、給付金支給や電気・ガス代補助というバラマキでほぼ同じだ。

 これらに加えて、「最低賃金を5年以内に時給1500円に引き上げる」、少子化対策として、「所得制限を撤廃して高校の授業料を実質無償化する」「出産費用を実質無償化する」などを掲げている。なお、「最低賃金1500円」は、石破自民も言っている。

 これらの公明党の公約をさらに拡張すると、野党の公約になる。その意味で、経済政策においては、与党も野党もみな左派ポピュリズム政党と言っていい。

■立憲民主も自民と変わらない7本柱

 最大野党の立憲民主党には、絶対に表明しなければいけないことがある。それは、これまでアベノミクスとそれを踏襲した菅政権、岸田政権を批判してきたので、異次元緩和からの出口政策を示し、そのうえで、経済をどうするかを提示することだ。

 しかし、公約を見ると、見事にそれをスルーしている。

 野田佳彦党首(67)は、いま、「政権交代こそ最大の政治改革」と街頭演説で叫び、公約として次の「7本の柱」を訴えている。

(1)政治の信頼回復(2)分厚い中間層の復活(3)安定した外交・安全保障戦略(4)超高齢化社会に対応した社会保障(5)子育て・教育(6)地域再生(7)共生社会

 

 なんのことはない、自民と大差はない。自民が「政治とカネ」で躓いたので、それを攻撃材料にして、自民を上回るバラマキ路線を打ち出しているにすぎない。

■最低賃金の引き上げで高齢者は路頭に迷う

 

 立民の「政治とカネ」問題の追及は、確かに厳しい。「企業・団体献金の禁止」「政策活動費の廃止」「国会議員の政治資金の世襲制限」などは、確かにやるべきであろう。

 しかし、その一方で、物価高・経済対策として打ち出された「分厚い中間層の復活」に向けて「最低賃金を1500円に引き上げる」などという政策は、現時点ではトンデモ政策である。

 いまの成長しない経済状況のなかでそんなことをしたら、失業者が増えるだけになる。年金だけで暮らしていけない高齢者は、失業して路頭に迷うだろう。


 また、子育て支援として「公立小中学校の給食費の無償化」「18歳までのすべての子どもに年18万円の児童手当を支給する」と言っているが、誰がそれを負担するのか。

 さすがに、自身が首相のときに消費税増税を実行しただけに、消費税減税は打ち出していない。しかし、石破首相と同じように変節したことがある。

 それは、かつて唱えていた「原発ゼロ」を「原発に依存しない社会」に置き換えてしまったこと。そして、消費税にいたっては「減税」とは言い出せないので、「給付付き税額控除の導入」に変換してしまったことだ。

 

■日本維新の会の財源なきバラマキ政策

 次に、野党第2勢力の日本維新の会はどうか?

 維新もまた「政治とカネ」を最大の争点にし、「政策活動費の廃止」「企業・団体献金の全面禁止」「企業・団体のパーティ券購入禁止」などを訴えている。

 そうして、次の4つを柱に改革を訴えている。

(1)政治腐敗を浄化する政治改革 (2)世代間不公平を打破する社会保障の抜本改革 (3)可処分所得を倍増させる減税・成長戦略・規制改革 (4)所得制限のない教育無償化と教育改革

 (1)を除いて、やはり、どれもこれもただのバラマキであり、財源の裏付けがない。「消費税を8%とし、軽減税率制度を廃止する」としているので、なおさら政策として成り立たない。「後期高齢者の医療の一律3割負担(現1割負担)」を打ち出しているが、その財源もまた「公費投入」としているだけである。

 ここで、ほとんどの野党が打ち出している「教育無償化」について述べると、それは簡単に言えば税金を学費としてしまうこと。つまり、全納税者が子を持つ保護者を支える、学校経営を支えることになる。中国でさえ、大学は授業料を取っていることを思えば、ありえない社会主義政策である。また、教育の質の低下も招くし、教育内容に国家の統制を招いてしまう。

 ともかく、社会福祉の負担額と消費税の双方のどちらも減税するという政策は、論理的に成り立たないのだ。

■消費税を減税したら社会保障は成り立たない

 共産党、れいわ新撰組、社民党にいたっては、バラマキのオンパレードである。国民民主党、参政党もそう変わらない。本来、国民が働いて納めた税金の範囲で国家を運営すべきなのに、その範囲を超えて国民を金銭的に助けると言っている。さらに、「あなたの給料を上げる」とも言っている。

 いったいどこに、そんな財源があるのか?

 

 たとえば、共産は「消費税の廃止を目指し、当面、緊急に税率を5%に引き下げる」と言っている。国民民主も「5%に引き下げる」で、参政は「減税」、れいわと社民は「廃止」である。が、そんなことをしたら日本の社会福祉は成り立たなくなる。

 

 共産、社民などは、財源の一つとして「内部留保課税」をあげている。しかし、内部留保は現金ばかりではないし、法人税との二重課税になるので、企業の経営を危うくする。金銭解雇規制が制度化されていないこの国で、そんな課税を導入したら、従業員の給料は下がる一方になるだろう。

 驚くのは保守とされる参政が、なんと「骨太の方針を改め、プライマリーバランスの黒字化目標を撤回し、積極財政による経済成長を実現する」としていることだ。「郵政や水道など、インフラの行き過ぎた民営化策を見直す」などともしている。これは、完全な経済左翼政策、バラマキイズム、資本主義の否定だ。

 以上、主要各党の公約をざっと見てきたが、知れば知るほどあきれ、絶望的になる。これでは、結果がどうなろうと、日本経済の長期低迷は続くだろう。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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