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「先生、今後どうします?」遠慮せず聞くことを意識 保護者と学校の対話を深めるコツ

大塚玲子ライター
『PTAのトリセツ』著者・元PTA会長の今関明子さん(写真はご本人提供)

 「保護者と学校の関係」って、PTAで保護者が学校の手伝いをすることでしょ? と思っている人が現状ほとんどですが、保護者と先生にとって根本的に必要なのは、情報共有や意見交換をして、学校をよりよくすることではないかと感じます。

 神戸市立本多聞中学校の元PTA会長、今関明子さんは5~8年ほど前、校長の福本靖先生とともにPTA改革に取り組み「保護者と校長が話し合える場」を広げていきました。話し合いの場はどのように機能したのか? また今関さんはどんなふうにPTAの見直しに取り組んできたのか? 聞かせてもらいました。(取材は2020年12月)

*保護者は誰でも参加できる話し合いの場ができるまで

――「保護者と学校の話し合いの場」は、どんなふうに始まったんですか?

 小学校のPTAで似たことをしていました。運営委員会に出てくる人たち(本部役員+各委員長)が、いつも黙って話を聞くだけで帰るのが申し訳なくて、「一言ずつ、何か校長先生に聞くことあったら言ってください」って言ったのが最初です。初めはみんな恥ずかしがって黙っていたので、次の回は「紙に聞きたいことを書いて箱に入れてください」って言ったら、みんなすごくいろんなことを書いたんです。運動会のプログラムのこととか、疑問に思ってることを。それを私が読んで、校長先生が横で答える、というかたちが自然に生まれました。

 そもそもは校長先生との雑談でした。校長先生が「せっかく予定を空けて来てもらって、毎回帰るまで一言もしゃべってない人が多くて申し訳ない」って。私が「みんな心の中ではいろんなこと思っているんですよ」と言ったら、「それが聞きたいわ」みたいな感じで始まりました。

 そのうちみんな慣れてきて、3年目からは紙でなく、直接校長先生に言うようになりました。「運動会、あんな早くから場所取りに並ぶのは非常識すぎないか」とか「トイレが臭くて子どもが我慢して帰ってくる、鍵を開けておかないと間に合わないくらいだから大変」「1組と2組の宿題の差が大きすぎる」「終業式の日に絵の具セットとピアニカ両方の持ち帰りは重い」とか、そういうことがいっぱい出てきて、校長先生も「そうやな」と考えてくれる。

――校長先生がちゃんとそれに回答してくれる、というのがポイントですね。

 そうです。校長先生が「へー。お母さんお父さん、そんなことを思うのか」って聞き流さずに、自分には答える責任がある、って答えてくださる。せっかく出してくれた意見だから、司会役の保護者は「先生、今後どうします?」って遠慮せずにコメントを求めること。そこは意識的にやっていました。

――だいじですね。ただ、運営委員会は参加できる人が限られてしまうのが残念です。

 誰でも参加できるようにしたのは、中学校のPTAです。福本先生が、誰でも参加できる運営委員会を提案してくれました。小学校PTA役員経験者は「小学校のときのアレやな」と早合点して「やりましょう」と答えたんですけど、福本先生はもっとスケール大きく保護者の声を取り込んで「保護者といっしょに学校運営をやっていきたい」と思っていたそうです。

 それで次の年から「運営委員だけでなく、PTA委員になった人は誰でも運営委員会に参加できる」形式になりました。私たちは「役員決めのクジ引きをしないこと」が一番大事だったので、「運営委員会に参加できること」を特典にして。そうしたら毎回50人くらい参加してくれました(※同校の全世帯数は約350)。3年目は福本校長の願いを叶え、「保護者は誰でも参加OK」にしましたが、声をかけても警戒されてか来なくて。福本先生は今も現任の中学校で、全保護者に学校メールを流して誰でも参加できるかたちで運営委員会をやっています。

――学校と保護者の話し合いの場は、PTAの役員や会員でなくても誰でも参加できる必要があると思いますが、当時はまだ「PTA役員は必ず誰かがやらなければならない」という考えが根強かったので役員の特典にしようと考えたのですね。実際、その運営委員会ではどんな話が出たんですか?

 最初は「学校指定のスクールセーターを制服扱いにして登下校させてもらえませんか」「黒タイツを認めてほしい」とか、声をあげる機会のなかった要望を言っていたのが、「修学旅行の行き先はどのように決めるのですか」「部活や生徒会をやると内申点が上がるというのは本当ですか」とか、何でも聞くことができるようになりました。

 質問するときは、学年や名前は言わないことにしました。やっぱり自分の名前を出したら、子どもが嫌われたら困ると思うから、質問が出づらくなる。だから「名前は言わないでいいです」って。それでも自分の質問と思われるのが不安で「友達から頼まれたんですけど…」とかって(笑)。

――本音を出せるようにするくふうですね(笑)。保護者の反応はどうでしたか?

 はい、やっぱり校長先生から直接話を聞いたら学校の方針がよくわかるし、保護者同士も顔見知りになって連絡も取りやすくなる。だから参加した人は3年間、卒業までPTA委員をやってくれました。クジ引きをやらない、というのが大目標だったので、定員を満たすことは重要でしたから。運営委員会以外に役員の活動がなかったことも大きいです。

*最後の目標を1つ決めたらそこだけを思っていく

――PTAの見直しや改革を進めるときに、気を付けていたことなどありますか?

 正しいと思うことを言うときは低姿勢で、というのはありました。正しいことをバーンと言ったら、なぜかたぶん恨まれる。人にもよりますが。だから相手の口からその言葉を言ってもらうぐらいまで辛抱強く対話を重ねる。納得してもらわないと、正しいこと言っていてもあとで反発が出るし、そうなれば「見直しの活動に加わろうかな」と迷ってる人たちもついてきてくれなくなって、挙句に一人で頑張っても失敗してしまう。共感してくれる仲間は必要です。

 だから丁寧に丁寧に、家ではちょっとくらいため息ついても、やっぱり丁寧に。これがうまくいけば皆喜ぶ、と思ったらどこまでも丁寧に言えました。うっかり「いまはこんな時代なんです!」て言ってしまったら、共感は得られない。学校はいつも「何かを変えるときは丁寧な説明が必要」と私たちに接してくださっていたので、私たちも身に付きました。

――ストレートに言ったほうがいい場面もあるでしょうし、相手や状況の見極めが必要ですね。

 そう。結局は活動が見直せて、お母さん方の負担が減り、泣く人がいなくなれば良いので。そこさえ叶うと思ったら、余程の融通もきかせられる。最後の目標を1つに決めたら、もうそこだけを思ってブレずにいく。私の場合、「PTAで活動できない人が無理に活動を与えられる仕組みを変えること」でした。我慢する人が我慢させられっぱなしは、それを見ている子どもがかわいそう、そこさえ解決すればいいんやから、と思ってました。

――今関さんが本多聞中PTAを離れて5年経ちますが、最近また新しい動きがあるとか?

 今年度(2021年度)は福本先生の後押しもあり、神戸市の教育委員会が発信して、加入届を取るPTAが増えています。ただ、本多聞中PTAは保護者の間で加入者/非加入者という立場の違いが出るのをきらって、活動の強制も、会費の徴収もゼロにして、子どもが学校に在籍する保護者をみんな対象にする形を考えていると聞いています。やることは学校と保護者の話し合いの場の設定だけ。PTAではなく、保護者の会にするそうです。

――活動強制だけでなく、会費もないというのはいいですね。ただ加入届を取らず、名簿をもたないなら、学校と別の団体といえないのでは。学校の機能の一部と考えればいいのでしょうか。話し合いの場の設定以外は、活動は一切なしですか?

 学校行事のお手伝いは、そのつど全保護者に募集をかけてやろうかなって今の役員さんたちは言っていました。私は今まで、会の運営主体は保護者側、にこだわった主張をしてきたのですが、コミュニティースクール(CS)が導入される今となっては、学校主体のほうが自然だと感じています。

 みんな(本多聞中PTAの現本部役員さん)が一番気にしていたのは、「PTAをなくしてしまったら『PTAのトリセツ』を書いた今関さん怒るん違うか」って会長さんからおそるおそる電話がきて。「もうそんなの、大歓迎」って(笑)。

――そんなことが(笑)。保護者と学校が話し合う場は、他校PTAでも出てきましたか?

 あまり広まってないかと思っていましたが、神戸のなかでも取り入れる学校が増えていました。最初は「保護者の声を逐一聞いて運営に反映させるなんて大変」とか「学校の代表として矢面に立って、その場で保護者の意見に何か答えを出すなんてコワい」って、「あれはあの校長だからできたんだ」とか、拒否反応も感じましたが。

 会員/非会員のくくりは取り払ったし、やっぱり保護者の横のつながりは、負担にならないんやったら、あったらいいん違うかなと思います。学校は忙しいし、CSがあるといっても、何もなければそのうち役のない保護者と定期的に話し合うことを忘れてしまうかも。だから、話し合いの場を保っていくためには、保護者側もまとまっておいたほうがいいかなと思います。

――CSもよいですが、現状は本部役員さんか経験者しかかかわれないので、なんらかの形で、一般保護者のいろんな意見をCSに届けられる仕組みにできるといいですね。先生たちも、保護者の声をある程度まとめて聞けたほうが助かることもあるのでは。

 先生たちも「そんな保護者の声が少なからずあるなら、のってみようか」みたいなところはあるでしょう。それに保護者も、自分で学校に言う人もいるけれど、みんな忙しいから、わざわざ電話したり手紙書いたりしてまで言わない人も多いですし。

――私も以前、ほかの保護者たちと雑談中に出た話を、先生に伝えたことがあります。自分だけの考えだったら、たぶんわざわざ言わなかったんですが、みんなそう思ってるなら言ったほうがいいんじゃないかと思って。

 そうなんですよね。私も上の娘が中学で「タイツを履けるようにしてほしい」って言ってたときは、「もうあんた、一人でわがまま言って、無理よ」と思ってたけど、実はみんな思っていたみたいで、最近タイツを履けるように校則が変わりました。カバンや、女子のスラックスも同様です。だから、親が「うちだけのわがまま」と思って我慢していることも、ほかの保護者と話すと「みんなも思っているんやったら学校に言ってみよう」と思うし、学校も「そんな要望あるんやったら、そうしましょうか」ってなることがある。

――そういうの、ありますね。お話、ありがとうございました。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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