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逃げ出した「アミメニシキヘビ」見つけても近寄らず刺激せず:その生態と危険性

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 横浜市で飼育されていたアミメニシキヘビが逃げ出した。周辺では警戒態勢が続き、警察や専門家が捜索しているが、こうした大型のヘビの生態と危険性について考えてみた。

インドネシアでクマやヒトを

 このヘビは南アジア一帯に生息するアミメニシキヘビ(Python reticulatus)という種類で、逃げ出したのは体長約3.5メートル、体重約13キログラムの個体という。世界にはアマゾン川流域に生息するオオアナコンダ(Eunectes murinus)やサハラ砂漠以南のアフリカ大陸に生息するアフリカニシキヘビ(Python sebae)など、数メートルから10メートルを超える巨大ヘビがいて、しばしば大型動物を呑み込むことが報告されている。

 インドネシアでは1999年に約7メートルのアミメニシキヘビが、出産を終えたばかりで弱っていた31キログラムのマレーグマを捕食し、飲み込んだという記録もある(※1)。こうしたニシキヘビの仲間は自分の身体より大きな獲物を捕食し、暗闇から待ち伏せして捕食する傾向があるようだ(※2)。

 アミメニシキヘビは生息域の関係やヒトと接触する頻度のせいで事故も多く、これまでインドネシア、ミャンマー、フィリピン、マレーシア、南アフリカで野生のアミメニシキヘビやアフリカニシキヘビによる死亡事故が報告されている。

 2017年3月と2018年6月には、インドネシアでニシキヘビに呑み込まれてしまう事故が起きた。2017年の事故は全長約7メートルのアミメニシキヘビが25歳の男性を、2018年の事故も全長約7メートルのアミメニシキヘビと考えられるヘビが54歳の女性を呑み込んでしまったという。

 こうした巨大な野生のヘビがヒトを襲い、呑み込んでしまう事故は現地でもそう多くはない。ヘビのほうでヒトを恐れ、よほど刺激を与えなければ攻撃されることはないという。

 では、なぜこうした不幸な事故が起きてしまうのだろう。インドネシアで呑み込まれた女性の場合、住居がヘビの生息域に隣接していたことが事故の原因のようだ。

 一方、日本では飼育されていた大型ヘビによる事故が起きている。2012年には茨城県で、66歳の男性がペットとして飼っていた全長6.5メートルのアミメニシキヘビに締め付けられて死亡したとみられる事故があった。

 また、テレビ番組の余興でヘビを巻き付けたキャスターが絞め殺されそうになって救出されたり、環境保護のためにアナコンダに呑み込まれる番組プログラムを計画したが、強い締め付けにより骨折の危機を感じて急遽、中止されたりといったことも起きている。

自分の頭部より大きな獲物を捕食

 ヘビによる絞殺事故は多いが、ヒトが呑み込まれてしまうこともあるようだ。そのフレキシブルに可動する顎を使い、頭部よりも大きな獲物も呑み込んでしまう。

 ヘビが獲物を捕食する際には、全身に巻き付いて強い力で締め付けて窒息させてから丸呑みにする。その過程で獲物を骨折させ、呑み込みやすくさせるようだ。

 ヘビの身体は機能的で、四肢がないのにもかかわらず樹木や段差を上り下りし、巧みに泳いで昆虫から両生類、鳥類、哺乳類など多様な種類の獲物を狩る。

 ニシキヘビの若い個体を使った実験では秒速2.52メートルという速度で移動するが(※3)、数メートルの成長したニシキヘビがどれくらい素早いのかわかっていない。ただ、脚のない変温動物のヘビは移動にエネルギーを使うため、捕食行動と移動のトレードオフにより、よほどの空腹時で捕食行動をする場合以外の速度は遅いのではないかと考えられている(※4)。

 横浜市で逃げ出したアミメニシキヘビは、そう広範囲に移動できるとは考えられないが、生息域が熱帯ということで、気温が上がればニシキヘビの動きも活発化する。周辺を含め、発見したら絶対に近寄らず、刺激せず、最寄りの警察などへ連絡してもらいたい。

※1:Gabriella Margit Fredriksson, "Predation on sun bears by reticulated python in East Kalimantan, Indonesian Borneo" The Raffles Bulletin of Zoology, 2005

※2-1:Daivd J. Slip, Richard Shine, "Feeding Habits of the Diamond Python, Morelia s. spilota: Ambush Predation by a Boid Snake" Journal of Herpetology, Vol.22, No.3, 323-330, 1988

※2-2:Richard Shine, "Why do Larder Snakes Eat Larger Prey Items?" Functional Ecology, Vol.5, No.4, 493-502, 1991

※3:William G. Ryerson, et al., "Strike kinematics and performance in juvenile ball pythons (Python regius)." JEZ-A, Doi: 10.1002/jez.2131, 2017

※4:Tracy L. Crotty, et al., "Trade-offs between eating and moving: what happens to the locomotion of slender arboreal snakes when they eat big prey?" Biological Journal of the Linnean Society, Vol.114, Issue2, 446-458, 2015

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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