ウクライナ軍のMiG-29戦闘機がAASM誘導爆弾を低高度から上に放り投げるトス爆撃を行う実戦映像
ジェット戦闘機時代の爆弾(滑空爆弾などを含む)の投下方法としては、大まかに分けて高高度爆撃と低高度トス爆撃(ロフト爆撃とも呼ぶ)という2種類の方法があります。
- 高高度爆撃:射程は長くなるが敵の大型防空システムに狙われやすい。
- 低高度トス爆撃:低高度から機首を引き起こして爆弾を上に放り投げる。
低高度トス爆撃は大型防空システムに狙われ難いようにレーダーの視野外となる地平線の下を飛ぶように低い高度で突撃し、爆撃時に機首を上げて機体を上昇させながら爆弾をリリースして上に放り投げて反転して逃げ帰ります。その実戦での様子が初めて動画で撮影されました。
ウクライナ空軍MiG-29戦闘機がAASM誘導爆弾を低高度トス爆撃
※トス爆撃の様子を拡大
低高度を飛ぶウクライナ空軍のMiG-29戦闘機が機首を上げて上昇しAASM誘導爆弾2発をリリースして上に放り投げて、捻り込みながら反転して再び高度を下げて退避していきます。この爆弾投下の動画に続く後半の爆撃着弾位置(50.341216, 36.293631)はハルキウの北の国境線付近のロシア側です。出典:OSINTtechnical
フランスのサフラン社(旧名サジェム社)製のAASM誘導爆弾は既存の航空爆弾に後から装着する誘導化キットという点でアメリカ製のJDAMなどと同じですが、加速用として小さめですが固体燃料ロケットモーターを追加している点が異なります。JDAM-ERのように滑空用の大きな主翼を装着する方法とも異なっています。射程では滑空翼型にやや劣りますが、ロケット加速型は高速なので撃墜され難い利点があります。
AASMは通称としてA2SMやHammerといった別の呼び方もあります。AASMはフランス語名称でHammerは英語名称です。
- AASM : Armement air-sol modulaire
- Hammer : Highly agile modular munition extended range
なおAASMは主翼が無いので滑空爆弾とは呼ばれませんが、胴体および安定翼などから揚力が発生するので、ロケット加速に加えて実質的に滑空も行って飛距離を稼いでいます。
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これまで航空優勢を掌握できない条件の厳しい戦域では、低高度から無誘導のロケット弾を上向きに発射してバラ撒く遠隔射撃の戦法が取られていました。しかしこれは命中精度が悪く効果が低い戦法でしたが、これを誘導爆弾の低高度トス爆撃に置き換えることで、有効な打撃が期待できるようになります。
トス爆撃は本来は低高度から核爆弾を投下する際に自機が核爆発に巻き込まれないようにする時間稼ぎの意味合いだったのですが、誘導爆弾の登場で上に放り投げても正確な爆撃が期待できるようになり、通常兵器の戦法としても行われるようになっています。