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コシノジュンコ語る「オリパラ後の障害者アート」下町散策し作品を見よう

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
アートパラ深川2021開会式で話すコシノジュンコさん なかのかおり撮影

東京オリンピック・パラリンピックの競技場が最も多くあった東京都江東区で、「アートパラ深川おしゃべりな芸術祭」が10月31日まで開かれている。門前仲町・清澄白河・森下・深川エリアの神社仏閣や川沿い、庭園、商店街など街全体が美術館となり、障害者のアートおよそ400点が飾られる。

地元のデザイナーらが、「障害者アートを社会に知ってもらい、収入支援につなげるために、芸術祭を市民の手で継続していきたい」と地元の人たちに呼びかけ、スポンサーを探し、2020年秋に第一回の芸術祭を開いた。

オリンピック・パラリンピックの開催都市は、文化芸術も活性化させレガシー(遺産)として残さなければならないという。コロナ禍もあり、散策しながら屋外で鑑賞できるスタイルが斬新で、昨年はおよそ7万5千人が訪れた。

デザイナーのコシノジュンコさんは、芸術祭のスペシャルアドバイザーを務め、後押ししてきた。今年は、5メートルの「コシノジュンコアマビエ」バルーンも登場。アマビエ関連の企画や、映画会、假屋崎省吾さんの生け花とのコラボ、障害者アートの販売、オンライン鑑賞会等、様々な趣向を凝らす。

22日、開会式の後にコシノさんにインタビューし、オリパラ後の障害者アートや地域づくり、障害者がアートで収入を得ていくことについて聞いた。

●レガシーとしての障害者アート

芸術祭サイトより(c)able art company
芸術祭サイトより(c)able art company

 東京オリンピック・パラリンピックの会場も多かった江東区。オリパラ後のレガシーとして、コシノさんは芸術祭をどう見るのだろうか。

「今年は特に意味があって、パラリンピック後の障害者アートということで、バランスが取れていると思うんですよね。2021年は、スポーツとアートのバランスがとれた年になったと思います。

 レガシーは、『文化』だと思います。スポーツは勝負ですけど、文化は永遠に残るものです。残るということで一人ひとりの値打ち、人間性が現れてくる。パラリンピックを見ても、おうちの方、周囲の人の理解がないとできないと思います。アートもそうですけど、パラリンピックを通して、そうした周りの人の理解が必要ということを知ってもらう、教育というのかな、大切な意味があったと思います。

 スポーツもアートも、1人ではできません。周りの手助けがあって、理解があって、できることです。それが大きな平和のもとになると思うので、一般の人もそういった理解を持ち、勉強するのに、今年はいい機会だったと思います」

●障害者アートが仕事になるように

清澄庭園にもアートを展示 なかのかおり撮影
清澄庭園にもアートを展示 なかのかおり撮影

 やりがいとして創作を楽しむのも素晴らしいが、障害者のアートが仕事として認められ、収入につながっていくことが求められている。

「皆さん、ものすごく緻密な、素晴らしい絵を描いています。こつこつと実らせた作品です。芸術家は、努力と、作品を誰に見てもらうかが大切かと思います。見せるチャンスが、深川を舞台として、下町の人たちやスタッフが盛り立てて成り立つと思うんですね。

 パラアートが仕事になるように。私はそういう目で見ています。たった一点から始まってプロになる、一生の仕事になるかもしれないし、展示を見ると、大変値打ちのある作品がありますね。これを弾みにアート活動を続けてほしい。世界中のアートがわかる人に、メッセージする必要がある。必ずわかる人が出てくると思います」

「今回、コンペでコシノジュンコ賞を作ったんです。この人をっていう後押しというのかな、道を作り、仕事になり、生活が成り立っていくように。

 こういうことってチャンスがないと、出会えないと思うんですけど、ここでいろんな人に見てもらうことが大切。それと、わかる専門家に見ていただくことも大切。絵に理解のある人たちが応援して、最終的に買っていただくところまでいけたら、もっとやりがいがあると思うんですよね。そういうチャンスをここで作っていく、土壌になっていったらと思います」

神社との組み合わせが新鮮だ 2020年11月、なかのかおり撮影
神社との組み合わせが新鮮だ 2020年11月、なかのかおり撮影

●芸術祭の SDGs

 コシノさんは、芸術祭に協力している理由をこう語る。

「私自身がもともとやりたいことだったんです。障害者の絵の展覧会を。

 例えばオリンピック・パラリンピックを開催する日本、東京ということを、空港に降りた時に、障害者の絵を見て、わかってもらう。

 空港にパラアートを展示すればいいのに、と思っていました。コロナ禍でお客さんが来られなかったので残念でしたが…。

 私のやりたいことが芸術祭と一致したんですね。今年で終わってはいけないことで、これからも芸術祭を続け、育てていくことが大事だと思います」

芸術祭を応援するコシノジュンコさん なかのかおり撮影
芸術祭を応援するコシノジュンコさん なかのかおり撮影

●下町というコミュニティの強み

 コロナ禍に、芸術祭でも土台となっている「コミュニティ」や「つながり」の力が改めて注目されている。

「今日も雨でしょ…雨とか、風とか、何があるかわからない自然の中で展示するわけだから、きちっと見守って、ぽんとおくだけでなくケアしてくださる地元の人たちの応援、理解が素晴らしいですよね。

 下町じゃなきゃできない。私は港区で、いろんな区がありますけど、下町って、何か繁栄する要素がありますよね、人間味があります。あったかい人間の味が。アートが喜ぶと思うんです。地元の人に期間中、守ってもらいながら見せることができます」

 コシノさんが別のプロジェクトで制作した5メートルのアマビエも登場し、アートと、訪れる人々を見守る。

コシノジュンコアマビエ 芸術祭フェイスブックより
コシノジュンコアマビエ 芸術祭フェイスブックより

コシノジュンコ 1978年~2000年パリコレクション参加。NY(メトロポリタン美術館)、北京、スペイン、ロシアなどでショーを開催し、国際的な文化交流に力を入れる。国内被災地への復興支援活動も行っている。VISIT JAPAN大使、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 文化・教育委員、2025年日本国際博覧会協会 シニアアドバイザー、文化庁「日本博」企画委員、文化功労者。毎週日曜17時~TBSラジオ「コシノジュンコMASACA」放送中。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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