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内閣改造で改めて考える「なぜ19人も大臣がいるのか」。知らない人が見慣れぬポストに就いては替わる理由

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
誰が何の役職でしょうか(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 内閣改造が行われて「第2次岸田第2次改造内閣」がスタート。女性の5人登用やら派閥の内訳やら、さまざまに報道されているなか、ここでは「そもそも論」を展開します。なぜ大臣(国務大臣)は19人もいるのか。「○○省大臣」までは何となくイメージできても「○○担当大臣」とは何をするのかといったあたりです。

 例えば経済産業大臣と経済再生大臣、経済安全保障大臣、経済財政政策担当大臣の違いをバチッと認識できる方はあまりいらっしゃらないでしょう。いろいろ兼任している大臣もいます。例えば初入閣の自見英子さんの担当は沖縄、北方領土(北方対策)、消費者保護と食の安全(消費者及び食品安全)、地方創生および大阪万博まで兼任脈絡がなかなか見えない職域です。なお本稿では内閣総理大臣(首相)は含みません。

内閣法での根拠

 まずは大臣の数。現在、中央省庁は1府11省1委員会(国家公安委員会。警察担当)。「府」は内閣府で省などより格上でトップは首相です。内閣法は大臣の数を原則「十四人以内とする」とあるので11省+1委員会+内閣官房長官1人の13人で収まるはず。

 ただ内閣法2条は「附則」で時限的に設けられた復興庁、万博、東京五輪を担う大臣を「十四人」に追加すると定めます。五輪は終わったので附則の規定での増員は2人。つまり13人+2人=16人。実数は13人+2人=15人。まだ1人余裕があるのです。

 実は内閣法2条には続きがあります。「特別に必要がある場合においては、三人を限度にその数を増加し」ていいと。すなわち16人+3人=19人が上限となるわけです。

 では「特別に必要がある場合」とは何でしょうか。内閣府に置く金融担当、防災担当、沖縄及び北方対策担当、少子化担当(07年~※注1)、消費者及び食品安全担当(09年~)の5ポストは法で必ず大臣を置けと定めている「特命担当大臣」なので「必要がある」でしょう。

 ただしこの5つを単独で任命してしまうと15人(実数)+5人=20人となって上限の19人をオーバーしてしまいます。

兼任のつじつま合わせと部下のいない大臣

 そこを兼任でしのぐ、というかつじつま合わせをするのです。今回の改造で5ポストは以下のようになりました。

・金融は財務大臣が兼任。

・防災は国家公安委員長が兼任。

・沖縄及び北方対策と消費者及び食品安全は自見さんが兼任。さらに「16人」に含まれる万博大臣まで併任する。

 これで5つのうち4つは「15人」の誰かが兼ねる勘定とあります。少子化対策だけ単独で加藤鮎子さんが担当。ここまでで計16人。

 残りの3枠のうちデジタル大臣は内閣直属で「省」と事実上同格。残りの経済安全保障担当大臣と経済再生担当大臣は首相肝いりの「内閣の大臣」で内閣法では「行政事務を分担管理しない大臣」に相当します。首相の期待は高いが部下はいない(か少数)。本来は首相「重要ポスト」「軽量級」のカラーを最も現すポジションのはずです。

「重要ポスト」「軽量級」を定める慣習

 マスコミはよく国務大臣を「重要ポスト」「軽量級」などと呼び慣わします。法的には国務大臣はすべて首相が任命した同格。とはいえ慣習上の上下は存在し、多くのマスコミがそれにしたがって「顔ぶれ」一覧を作るし閣僚名簿の順番もほぼ同一です。

 まず国家行政組織法別表に定める建制順。上から総務、法務、外務、財務、文部科学、厚生労働、農林水産、経済産業、国土交通、環境、防衛。すべて「省」です。

 次が内閣官房長官。さらにデジタルと復興が続きます。唯一の「委員会」である国家公安を経て先に述べた内閣府特命担当(単独)、最後が「内閣の大臣」単独です。

 もっとも実質は少々異なります。建制順では12番目の内閣官房長官は官邸の総まとめ役で最重要ポストの1つです。

 目安になるのが首相不在時の臨時代理順。今回の改造では官房長官をトップに経済安全保障担当、財務、デジタル、経済再生担当の順となっています。

首相への道のりと「族」のパイプ

 与党の国会議員は大臣になりたい。なぜでしょうか。1つは三権のうち行政権トップが内閣だから。内閣は首相を筆頭にした国務大臣の合議体です。

 選挙で選ばれる国会議員が役所に置かれる官職は大臣政務官→副大臣→大臣の順。政務官ですら官僚トップの事務次官より格上。まして大臣ともなれば大変な権力者に値します。

 大臣そのものの俸給は大した金額ではありません。在任中は訴追(≒起訴)されない特権も国会議員自体が持つ不逮捕特権よりは小さいでしょう。やはり地位と権力です。

 「軽量級」は多くが初入閣ポスト。ここを一度は踏んでおかないと再入閣以降で重量級に進めないのが通例。そして重要ポストを歴任すると首相の座が見えてきます。

 「省」の大臣ともなれば役所が持つ権限やある種の利権をも掌握可能です。別にそれを乱用してあこぎを働かなくても、退任後以降も「」として強いパイプを国家権力内で発揮できる足がかりともなるのです。

14年で述べ23人が就任したポストも

 要するに軽量は登竜門として、重要閣僚は首相への道として誰でもなりたがる。だから頻繁に改造して首相はその要望に応えて求心力を高めようとします。ゆえにポストもまた頻繁に入れ替わり、かつ軽量級は全国的な知名度のない「知らない人」が就きやすい。それでも自民党国会議員約380人を19の枠で処遇するのは不可能です。だから当選回数の多さで順送りして不満を少しでも抑えようとします。

 国民からすれば選挙区でいくら人気があって当選回数を重ねても、選挙区以外の有権者は全然知らない議員が大臣となり、しかも1・2年で交替するのでは「ちゃんと仕事をしているのか」と疑問視せざるを得ないのです。格下とみられがちな内閣府特命担当大臣にしても例えば「消費者及び食品安全」は大切な仕事なのに制度ができて14年で実に述べ23人が就任。しかも、ほとんどが兼任となっています。

省庁再編以降の変遷

 「大臣の数」に大きな変化をもたらしたのが2001年の中央省庁等改革基本法施行。これまでの1府(総理府)20省庁2委員会(国家公安と金融再生)が1府(内閣府)11省庁(※注2)1委員会へと大胆に再編されました。ざっくり減ったので大臣も再編以前の定員20人から内閣法が改正されて前述の原則「十四人以内」+3人までへと削減されたのです。

 省庁再編のただなかにあった第2次森喜朗内閣の閣僚数は17人。以後、麻生太郎政権まで同数。

 その後、民主党政権をはさんで12年総選挙で政権を奪還した安倍晋三自民党総裁が首相に就任すると復興大臣を追加した18人態勢がしばらく続き、14年の第3次内閣で東京五輪大臣が加わって19人となりました。

 次の菅義偉内閣に万博大臣が入っていったん20人の大台へ載せ、岸田政権も発足直後(20人)の総選挙後に組んだ第2次内閣でも20人。しかし五輪担当大臣の任期が途中で終了して退任し19人(原則16人+3人まで)に戻り、今日に至ります。

※注1:23年に「こども家庭庁」が発足してからは「こども政策・少子化」と呼称。

※注2:ここでいう「庁」は防衛庁のみ。07年に省へ昇格して「11省」となる。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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