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『キングオブコント』で優勝したビスケットブラザーズ・原田はロバート秋山の後継者である

ラリー遠田作家・お笑い評論家
(写真:イメージマート)

コント日本一を決める大会『キングオブコント』は2008年に始まった。漫才の大会『M-1グランプリ』開始から7年遅れのスタートだった。最初の頃は、審査方法や演出・構成にちぐはぐなところがあったものの、毎年少しずつ改善されていき、審査員の顔ぶれが一新された昨年大会ではいつになくハイレベルな戦いが行われ、過去最高の盛り上がりを見せた。

そして、10月8日に放送された『キングオブコント2022』(TBS)では、「神回」と言われる昨年大会にも劣らないほどの熱戦が繰り広げられた。1組目のクロコップから10組目の最高の人間まで、ファイナリスト10組がそれぞれの持ち味を生かした傑作コントを次々に披露していき、会場の熱気は最後まで収まることがなかった。

そんな中で見事に優勝を果たしたのは、「きん」と「原田泰雅」の巨漢2人から成る重量級コンビ・ビスケットブラザーズだった。過去に『NHK上方漫才コンテスト』優勝、『ytv漫才新人賞』優勝の実績を持つ実力派である。そんな彼らが二度目の決勝進出で栄冠をつかんだ。

豪快で繊細なビスブラのコント

ビスケットブラザーズの強みを一言で言うと、豪快さと繊細さを絶妙なバランスで兼ね備えているところだ。

彼らのコントは、一見するといかにも大味でバカバカしいものに感じられる。似たようなふくよかな体型の2人が並んでいるだけでギャグ漫画っぽく見えるのはもちろん、演じ方もあえてわざとらしくしているようなところがあり、いわゆる「上手い芝居」をやろうとはしていない。

1本目のコントでは、山で野犬に襲われた男性を助けるために、上半身セーラー服、下半身ブリーフという格好の謎の男が現れる。2本目のコントでは、ある理由から女装を続けていて女性の友人をずっと騙していた男性が、唐突に自分が男性であることを明かす。どちらも設定と展開に意外性があり、物語がどこに着地するのか予想もつかない。

しかし、いま挙げた要素は彼らのコントの一面に過ぎない。奇抜な設定、奇抜な外見、奇抜な展開。それだけで勝ち上がれるほど『キングオブコント』は生易しい大会ではない。ビスケットブラザーズが優勝できたのは、大味に見えるコントの中に、繊細な笑いの要素を仕込んでいたからだ。

たとえば、1本目のコントは、2人の会話だけを冷静に聞いてみると、シンプルなボケとツッコミの応酬で成り立つオーソドックスなコントであることがわかる。しかも、ツッコミがただの「役割としてのツッコミ」になっていないところがいい。

セーラー服とブリーフをまとった原田に「おい、君、俺に助けられたからって、俺に憧れて俺みたいになるなよ」と話しかけられて、きんは少し間を空けてから「はい」と答える。この絶妙な「間」が異常な状況に置かれている彼の立場にリアリティを与えていた。

2本目のコントも、見たことがない斬新な設定のネタではあるのだが、その中に散りばめられているボケとツッコミのやり取り自体は、一言一言がわかりやすい上によく練り上げられたものだった。

ビスブラ原田はポスト・ロバート秋山か

どちらのネタでも、振り切った異常者を演じる原田と、異様な状況に戸惑いながらも何とかついていこうとするきんのそれぞれの心理が繊細に描かれている。もちろん、そこでの人物の感じ方や考え方には不自然なところや現実ではありえない部分もあるのだが、観客にそれを「ありえない」と感じさせないのが彼らの上手さである。

コントの中で独自のキャラクターを貫き、パワフルなボケで押し切っていく原田の芸風は、ロバートの秋山竜次を思わせるものがある。体型などの見た目の雰囲気もどこか似ている。自分の世界を作るタイプの芸人は理解されるまでに苦労することもあるが、それが伝わったの破壊力は抜群である。王者となったビスケットブラザーズの今後に期待したい。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行う。主な著書に『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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