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「ポジティブモンスター」アンミカ、奇跡の言葉力が支持される理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家
(写真:アフロ)

モデルのアンミカは、ずっと前からテレビに出続けている文句なしの売れっ子タレントではあるが、特にここ数年の充実ぶりはすさまじいものがある。

立て板に水の話術で前向きな言葉を放ち続ける「ポジティブモンスター」としての才能が再評価され、バラエティ番組の仕事がますます増えてきた。

『人志松本の酒のツマミになる話』で、どんな小さななことにも良いところを探せると語るアンミカが、目の前の白いタオルを褒められるかと尋ねられて、とっさに「白って200色あんねん」と返した。この発言も大反響を巻き起こした。

ポジティブ思考を売りにするタレントはこれまでにも何人もいたが、アンミカはその分野の進化の最終形のような存在である。

たとえば、スキャンダルが報じられる前のベッキーはポジティブ系のタレントとして知られていたが、その頃に有吉弘行からは「元気の押し売り」というあだ名をつけられていた。

ベッキーが元気を押し売っていたのだとすれば、アンミカは元気をタダで配っている。元気を振りまくことで対価を得ようとせず、ひたすら自家発電している。有り余るパワーで周囲を明るく照らし、ついでに自分も元気になってしまう。

そもそもアンミカはバラエティタレントとして抜群のスキルを持っている。生来の明るさとテンションの高さがあり、すさまじい速さでトークを展開していくが、決して中身がないわけではない。アンミカの口からとめどなく湧いて出てくる褒め言葉は、彼女なりの視点と批評精神に裏打ちされていて説得力がある。

そして、返しの速さと打率の高さが異常すぎるために、一周回ってそれが笑いを引き起こすこともある。できすぎている上に、できすぎること自体がスキにもなっている。バラエティタレントとしてはほぼ完璧な存在である。

アンミカの言うことが多くの人に刺さっている理由は、彼女自身がこれまでの人生で苦労を重ねてきたからだろう。実体験から学んだものがポジティブ思考として結実しているので、考え方に一本筋が通っている。

この空前のアンミカブームを受けて改めて考えてみると、現時点での世の中の空気としては、人をけなすことよりも褒めることの方が求められている気がする。一昔前に毒舌タレントと呼ばれていた人たちも、今では何かにつけて「他人を褒める人」になっている。

他人をけなす「毒舌」や、自分自身を卑下する「自虐」は、かつては違和感なく受け入れられていたが、今の時代にはもはや主流ではない。悪意を精緻なパズルのように組み立てていくことよりも、善意の光ですべてを照らすことの方が必要とされている。

「褒め言葉は退屈で面白くない」という常識を覆したアンミカの「ポジティブすぎて面白い」という奇跡。ポジティブ大喜利永世王者の彼女は、今後も底抜けに明るい笑顔で日本中を照らしてくれるだろう。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行う。主な著書に『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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