2年連続で紅白司会! 有吉弘行の快進撃が止まらない理由
今年の『NHK紅白歌合戦』の司会者が有吉弘行、伊藤沙莉、橋本環奈、NHKの鈴木奈穂子アナウンサーの4名であることがNHKから発表された。有吉は昨年に続き2年連続の選出となった。
昨年、有吉が紅白の司会に抜擢されたというニュースを聞いたとき、驚きと納得感がちょうど同じぐらいあった。
2007年頃に再ブレークした当時、手当たり次第に毒を撒き散らしていた姿から考えると、品行方正が求められる紅白の司会に選ばれたのは意外な感じがした。
しかし、いまや有吉は押しも押されもせぬ人気司会者であり、NHKと民放全局で冠番組を持っている「バラエティの絶対王者」である。その圧倒的な実績から考えると、紅白の司会を任されるのは全く不思議なことではない。
昨年のテレビ業界はジャニーズ問題に揺れていた。ここ数年は「ジャニーズ事務所の広報番組」と化していた紅白を全面的にリニューアルするためには、多くの人の注目を集めてイメージを刷新するような起爆剤が必要だ。初めて司会を務める有吉にはその役割が期待されていたのだろう。
有吉の人気の秘密は、あらゆる層の視聴者を味方につけてしまう絶妙なバランス感覚である。司会者としての有吉はほかのどのタレントよりも視聴者に近い目線に立っている。
「こういうことが起こったら面白いのに」「こういうことをズバッと言ってくれる人がいればいいのに」といった視聴者の下世話な願望に見事に応えてくれるのである。
有吉にそれができるのは、猿岩石として最初にブレークした後に仕事がなくなって家に引きこもり、ただテレビを見続ける毎日を過ごしたからではないか。
日常でさまざまな不満や不安を抱えながら、ぼんやりとテレビを眺めているわがままで移り気な視聴者の心理を、有吉は誰よりも知り尽くしている。ぼーっとテレビを眺めている視聴者は、一般的にイメージされているよりもはるかに冷静で残酷である。
普通の視聴者は、テレビを見ていて面白くなければすぐにチャンネルを変えるし、テレビであまり見なくなった人は「消えた」と決めつけるし、「メイクが濃すぎる」「整形っぽい」「演技が下手」などと好き勝手に文句を言う。そこには一切の配慮も気遣いもない。視聴者とは本来、そのぐらい残酷なものだ。
有吉が持っているのは、その「普通」の感覚である。日常で楽しいことが何もなく、夢も希望もない日々の中で、表面上はやたらとキラキラしたテレビの世界を恨めしそうに眺めている一般人の目線。それが有吉の目線なのだ。いわば、有吉は自身が芸能界の中にいながら、芸能界を外から、いや、下から見ている。
各局で冠番組を持ち、バラエティの絶対王者となった今も、有吉は相変わらず地べたからの目線を捨てていない。そういうところが視聴者から支持されている。
彼が司会者として華々しい成功を収めることができたもう1つの要因は、クリエイター気質の芸人ではないということだ。有吉は猿岩石を結成して間もなく、番組の企画で長期海外ロケに出てしまったため、芸人としてネタ作りに打ち込んできた期間が短く、モノ作りにこだわるような経験をしていない。
彼には思想的なバックボーンがないし、世の中に伝えたいことがない。そもそも自分から動いたり何かを発したりすることに異常な警戒心を持っている。猿岩石を解散してピン芸人になってからも、ネタを作ったりライブを主催したりするような自分発信の活動は一切していなかった。
そんな有吉は、他人の言動を糸口にして、そこから笑いを生み出す技術に長けていた。いわば、相手の力を利用する合気道のような芸である。他人に噛みつく毒舌芸もそのバリエーションの1つだ。その芸は本質的にほかの人を生かす技術であるため、番組全体を仕切る司会の仕事にも向いていたのだ。
有吉は、テレビという硬直化したシステムの中で、テレビに取り込まれることへの違和感を捨てていない稀有な存在である。昨年の『紅白』では、初めての大役ということでややおとなしい印象はあったが、今年は有吉が本来の力を発揮して、例年以上に「視聴者ファースト」の上質な番組になるだろう。