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「もっともっと試合に出たい!」―次代の正捕手に向かって邁進する石原彪(東北楽天ゴールデンイーグルス)

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
すべてにおいて進化した姿を見せる

■今年も藤田一也先輩に弟子入り

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 「今年は右方向の打球が増えると思いますよ」。そう言うと、石原彪選手はニヤリと笑った。京都翔英高校から東北楽天ゴールデンイーグルスに入団して3年目を迎える、強肩強打の捕手だ。今年はこれまでと違った姿を見せるという。

 今年も年明け早々からチームの先輩である藤田一也選手の自主トレに参加した。そこでさまざまなことを学んだ。まず打撃について、前述のように語った。これまでも逆方向に打たないわけではなかったが、「伸び方が違うんすよ」と、今までとは違った質の打球になりそうだという。

 「藤田さんとは(打撃の)タイプは違うんですけど、遠くに飛ばすためにしっかりとらえるということを教わりました」と、藤田選手からのアドバイスであることを明かす。

 「『もっとこうしたほうがいいんじゃないか。でも合わなかったら、ヤメとけよ』って言って教えてもらった」のが、“広角打法”だ。どうやらそれが合ったようで、大きな手応えを掴んだ。

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 「これまでは全然でした」というボールへの力の伝え方のコツを伝授されたそうで、「内容は秘密ですよ(笑)」と詳細な説明は避けたが、「今年はもっともっと右方向への大きな打球が増えると思いますよ」と嬉しそうに語る。これをいかにシーズンで結果に結びつけるか。石原選手本人も「楽しみ」と頬を緩める。

「ここまでの高さ」と鬼コーチ
「ここまでの高さ」と鬼コーチ

 守備でも数々の助言をもらった。「足の運び方とか、もっと力を抜けとか、投げるのは下半身やぞ、ということとか。自分は肩がウリなんですけど、いかに正確に、もっといい球を投げるためにはどうしたらいいか」。捕手として重要なキャッチングやスローイングにもしっかりと取り組んだ。

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 そして大切なことに気づいた。自身に必要なのは、1軍でプレーできるだけの守備、打撃といった野球の技術は当然のことながら、それだけではなく「日常生活とか人間性、そういうことも大事」という内面のことだ。

 「『若いから』じゃなく、『若いけど』って言われるようにならないと。たとえば『若いけどしっかりしてる』ってなってきたら、ピッチャーからも野手からも信頼がもらえる。ピッチャーからの信頼があったら『こいつやったら投げやすい』って思ってもらえると思うので。そういうのを得たいなって思います」。

 ひとつひとつの言葉に、自身の思いを込めて話す。

■はじめて1軍を経験できた昨季

同級生の木村敏靖投手と
同級生の木村敏靖投手と

 それに気づけた要因は、昨年の経験による。プロ2年目の昨季、石原選手ははじめて1軍のステージに立った。2018年は嬉しい“初ものづくし”の年になった。

 といっても、わずか4試合。打席は5打席、マスクは3試合で合計16回だ。しかし「経験した」と「未経験」は、まったく違う。1と0には大きな開きがある。

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 まず8月24日、はじめて1軍に昇格した。突然、札幌に呼び寄せられ「こんなに早く…」と驚いた。「自分の中では、1軍の舞台はもうちょっとあとかなと思っていたから」。

 出番は八回裏、嶋基宏捕手の代打だった。記念すべきプロ初打席は北海道日本ハムファイターズ・石川直也投手の高めストレートに空振り三振。そのままプロ初のマスクをかぶったが、中田翔選手にソロ弾を浴びてしまった。

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 翌25日に抹消されたが、チャンスは再び巡ってきた。9月29日にお呼びがかかり、そこから10月12日まで1軍に籍を置いた。順位が決まってようが、そんなことは若手の石原選手には関係なかった。自身をアピールするのみだ。

 登録されたその日、死球を受けたディクソン選手の代走で本拠地の楽天生命パーク宮城で初出場し、田中和基選手のタイムリーで生還した。初めてプロでホームベースを踏み、得点を記録した。チームの勝利にちょっぴり貢献できたことが嬉しかった。

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 10月1日には初のスタメンマスクに抜擢された。オリックス・バファローズ相手に七回まで藤平尚真投手森雄大投手をリードした。打撃は残念ながら西勇輝投手にサードゴロと空振り三振に抑えられ、唇を噛んだ。

 初安打が飛び出したのは翌日の第1打席だ。三回、一死から千葉ロッテマリーンズ・岩下大輝投手の外角高めのストレートをレフト前に運んだ。プロ4打席目の快挙だ。すかさず盗塁も決めた。

 「この喜びは、今まで育ててくれた親に伝えたい」。試合中にそうコメントしたが、石原捕手にとっては初ヒットの喜びに浸るより大事なことがあった。それはキャッチャーとしての守りだ。

 この日もスタメンマスクをかぶり、古川侑利、高梨雄平、森原康平ら3投手を受けた。イニングも八回まで延び、その裏の打席で代打を送られて交代した。

藤田一也選手とマンツーマンで
藤田一也選手とマンツーマンで
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 「1軍に上がりたい」「1軍で活躍したい」「正捕手になりたい」―。これまで持っていた願望が、いかに漠然としたものだったのか気づかされた。

 1軍の空気が吸えたこと、その雰囲気を味わえたこと、そして1球の大切さを実感できたこと…わずか4試合とはいえ、経験できたことが石原選手の意識を変えた。

 まず一度目に昇格したあと、「もう一回、上がりたい」と強く思い、意識も練習方法も変わった。「1軍のピッチャーに対応しないといけないので、マシンを近くで打ったりとか、野球に対する考え方とかも変わりました。取り組み方も、もっと変えていかないとあかんなと気づきました」。

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 そして二度目の昇格切符を掴み、プロ初安打をマーク。初マスク、初盗塁、初得点…たくさんの“初”を記録した。「(ペナントレースの)順位は決まってたんですけど、ああやって使ってもらって経験できて、ありがたいです」。自身が変わるきっかけを与えてくれたことに感謝した。

■今季に懸ける思い

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 そんな大きな収穫を得てシーズンを終了したが、残念ながら秋季キャンプでいきなり故障してしまった。「首脳陣もほとんど代わられて、そんな中で一番アピールしなきゃいけなかったのに、できなかった…」。

 おおいに悔やんだ。春季キャンプで取り返すことを誓って、オフはめいっぱい動いた。

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 昨年から参加している京都の自主トレでも、より身を入れて取り組んだ。

 「去年は1軍というものも知らずに、右も左もわからないままの自主トレだったけど、1軍を経験したことで『また絶対に上がりたい』って自覚もできたし、今年はまず自主トレに入る初日の気持ちが、去年とは全然違いました」。

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 そして、藤田選手はもちろんのこと、福山博之投手森原康平投手、また他球団の寺原隼人投手東京ヤクルトスワローズ)や荒波翔選手(現在メキシカンリーグに挑戦中)ら、さまざまな先輩たちからの話を熱心に聞いた。「勉強にきている」という意識を強く持って参加した。

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 自主トレを通してあらためて先輩たちから感じたのは「1年勝負の厳しさ」だという。

 「ポジションは違いますけど、みなさん共通しているのは1シーズン戦う中で、1年1年勝負されている。一人一人がやるべきことをしっかりされているなと。自分はもっとやらなあかんなと、より感じるようになりました」。

 寝食をともにしながらトレーニングすることで、勝負の世界に身を置く心構えを吸収した。

■試合出場を渇望

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 そんな石原選手に今季の目標を尋ねると、「口だけやったら、なんぼでも言えますからね。口だけで言うて成績残せてへんかったらカッコ悪いやないですか。でも今、実力も全然ないですし、ちょろっと1軍でマスクかぶっただけで、そりゃ自信にはなりましたけど、順位かかったところで試合に出てないし…」と、まずは控えめな言葉が出てきた。

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 実際に1軍を肌で感じたことで、むやみに大きなことは口にできないとわかったのだ。

 しかし「去年の何十倍も試合に出たい。それが目標です」とふつふつと意欲をたぎらせる。「前半戦から試合に出たいです!試合に出たいっていうのが一番強いですね。正捕手を獲るとかじゃなく、もっともっと試合に出たいです、1軍の」。とにかく出場することを第一に目指す。

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 そのあと、小さく付け加えた。「で、いつか正捕手になっているっていう…」。

 大きなことは今は言わない。しかし、自分の中で芯はしっかり持っている。じっくりと経験を積み重ね、足元を固めた上で、いつかその目標に必ずたどり着く。

(撮影はすべて筆者)

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フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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