続・師走の京都の風物詩!? スター選手が勢揃いの「アスリートワールド学童野球教室」
■第13回 アスリートワールド学童野球教室
わかさスタジアム京都に元気な声が響き渡った。たくさんの笑顔が弾けた。12月の“恒例行事”である「アスリートワールド学童野球教室」(以下アスリートワールド)でのことだ。
2006年にスタートした「アスリートワールド」は、第3回から同球場に開催場所を移し、今年で13回を数える。(参照記事⇒師走の京都の風物詩!? スター選手が勢揃いの「アスリートワールド学童野球教室」)
毎年、参加希望者が殺到し、今年は約600名の学童が集結した。それに対し、教える側はプロ野球12球団からOB、現役合わせて25名が顔を揃えた。中心となっているのが元阪神タイガースの桧山進次郎氏と、中日ドラゴンズの波留敏夫1軍打撃コーチで、ふたりはともに京都出身である。
「波留とやらせてもらって13年かぁ…」と感慨深げな桧山氏。スポーツコメンテーターとしてテレビや新聞で活躍する桧山氏は、野球の指導となると非常に熱い。「どうしたら上手くなるのか」「どんな練習をしたらいいのか」「変化球を打つためには」…など、子どもたちにわかりやすく、繰り返し説明する。
その根底にあるのは「ずっと野球を好きでいてほしい」という思いだ。「野球を通じて築いたチームメイトや指導者との人間関係を大事にしてもらいたい。お金では買えないものやからね」。
一方、波留コーチは「18歳から京都を離れたけど、こうして野球で地元に恩返ししたいというのはずっと思ってきた。そこに賛同してくれる人がいて開催できているのは、ありがたいね」と語る。「故郷でこういうことができているのは光栄だし、また京都からプロ野球選手を目指したいという子が増えてくれたらいい。それと、ここに参加してくれてるプロ野球選手も、他球団の選手やOBと交流ができている。そういう輪がどんどん広がったらいいなと思う」。
球界関係者も危惧している少子化、そして野球の競技人口の低下。「今のままでは衰退する一方。僕が亡くなってからも日本の野球が繁栄してほしい。そうなるようにするのがOBの仕事やと思っている」と、波留コーチは言い切る。
そんな波留コーチがずっと学童たちを見てきて感じるのが、「僕らのときより能力の高い子どもが多い」ということだ。「足が速い、球が速い、よく飛ばす。それを感じるね」。
だからこそ、間違った指導法でその能力を潰すことだけはしたくないと考える。「その子に合った指導をしたい。ひとりひとり体型も関節も違う。合ったことを教えてあげないと」。
現代の子どもの特徴として「足高な子、それと正座をしてないから股関節や足首の硬い子が多いね」という。「だから教え方が大事。現代に合った教え方。自分の経験だけで教えることには弊害がある」と力説する。
大事にしているのは「まず話を聞くこと。会話して、どんなバッターになりたいのか、目指す形は何かを聞いて、意志を尊重しないと。昔みたいに『足速かったらゴロを打て』じゃ、あかんからね」。型にはめることは決してしない。
■アスリートワールドからプロ野球選手が誕生―石原彪(イーグルス)
そんな桧山氏や波留コーチ、そして関係者には発足当時からある願いがあった。「このアスリートワールドからプロ野球選手を」―。
「アスリートワールド」で経験した学童がプロ野球選手になり、やがてはこの「アスリートワールド」に帰ってきてほしい…。それは悲願でもあった。
その思いがとうとう結実した。「アスリートワールド」から初めてのプロ野球選手が誕生したのだ。東北楽天ゴールデンイーグルスの石原彪選手だ。小学3年のときに参加した石原選手は2016年のドラフト8位で入団し、昨年に続いて今年も“教える側”として参加している。
「アスリートワールドで、桧山さんがすごい打球を打ったのを覚えてる。ファウルやったけど、プロってすごいんやなって思った」。石原選手にとって未だ、当時のインパクトは鮮烈だという。
子どものころはタイガースファンだったそうで、「代打といえば桧山選手。チャンスでは必ず還してくれてた。現役最後の打席もホームランだったでしょ?すごい勝負強い」と、“桧山選手”のことを語り始めると、“一ファン”の少年の顔になって瞳を輝かせる。
「僕もこうして何かの縁で京都に帰ってこれて、年も近いから知ってくれてる子もいて嬉しい。ちょっとでも『プロ野球選手、かっこいいな』って思ってもらいたいし、僕に教えられることは教えたい」。かつて自分が味わった感動を、子どもたちに伝えたいと意気込む。
ただ、「教える難しさ」も痛感しているという。「言葉もどこまで知ってるのかがわからない。『ブロッキングやろか』って言ったら『ブロッキングってなんですか?』と言われたんで、あぁそうかと思って『じゃあ止める練習しよか』って言い直したり(笑)。でもその点、桧山さんは教え方がめちゃうまい」。
桧山氏が教えているのを横で聞いて、石原選手も勉強している。先輩のコーチングを後輩が直に学べる―。これもまた、「アスリートワールド」の意義の一つでもある。
「もっと京都からプロ野球選手が出てきてほしいし、野球だけじゃなく、いろんな分野で京都出身者が活躍して、地元が活性化したらいいな」。若いながら京都を思う気持ちは人一倍だ。
■“京都愛”にあふれる大野雄大(ドラゴンズ)
“京都愛”なら負けていないのが、中日ドラゴンズの大野雄大投手だ。今年が2度目の参加だったが、「めっちゃワクワクして来てる」と、名物コーナーである学童との対決にも真剣に臨んだ。
「京都が大好き。22年間育った街で、街並みも大好き。観光客も多いけど、それも魅力のひとつやし。その京都で野球教室なんて、こんな幸せなことない」と目を細める。
「しかもここまでの規模での教室なんて、並大抵じゃない。みんな『野球人口が増えたらいいな』って口では言いながら、なかなか動けない。それを実行されてるのは、桧山さんも波留さんも関係者のみなさんもすごい。そこに携われて、僕もちょっとは役に立ててるかな」。
名古屋を本拠地としている選手ではあるが、3年連続2ケタ勝利を挙げ、2年連続開幕投手を務めた大野投手のことは、京都の子どもたちもよく知っている。
「子どもたちが僕のこと知ってくれてるのは嬉しかった。東海3県では知ってくれてるけど、京都でもっともっと知ってもらいたい。そのためには活躍しないとね。来年は大活躍して、みんなに『大野投手や』って言ってもらえるように頑張りたい」。
来季への大きなモチベーションにもなったようだ。
■“引退セレモニー”もアスリートワールドで?―枡田慎太郎(イーグルス)
今季限りでユニフォームを脱ぐ決意をした東北楽天ゴールデンイーグルスの枡田慎太郎選手も京都出身で、小学生時代には「サクセススポーツ少年団」に所属していた。その当時の監督や指導者が新たに作ったチーム「昴少年野球倶楽部」は、毎年「アスリートワールド」に参加している。つまり年に一度、ここで後輩たちと顔を合わせることができるのだ。
今年は学童との対決で打席に立ち、「これが現役最後の打席です」と言って、枡田選手らしい豪快なフルスイングで火を吹くような当たりをかっ飛ばした。打球はセンターの頭上を大きく越え、フェンス手前で弾んだ。
「子ども相手だろうが、勝負は勝負!」という枡田選手に対して、打たれた学童はやや肩は落としたものの、その後、清々しく笑っていた。この“プロの洗礼”は彼のこの先の野球人生においても、大きな意味を持つに違いない。枡田選手にとっても、思わぬ“引退試合”となった。
閉会式ではサプライズで、OBや現役選手らから胴上げされた。後輩たちにも見守られながら高く宙を舞った枡田選手は、「僕たちのころは、こういうプロに教わる機会がなかった。アスリートワールドは素晴らしい活動だと思う。子どもたちには少しでも近くで夢を味わってもらえる」と、やり甲斐を感じているという。
「緊張している子が多いので、楽しく元気いっぱいやってほしい。ここでは細かい技術はいらない。難しいことを教えるより、野球って楽しいなって思ってもらえるように仕向けている」。子どもたちに積極的に話しかけ、ふれあいを大切に取り組んでいる姿が印象的だった。
■初回から「アスリートワールド」の常連だった赤松真人(カープ)
久々の懐かしい顔は広島東洋カープの赤松真人選手だ。以前は皆勤賞だったが、周知のとおり胃がんを患い、ここ最近は「アスリートワールド」も欠席していた。
しかし今年は元気な姿で現れ、常に子どもたちに話しかけていた。話し上手な赤松選手には、子どもたちも自然と心を開く。
「教えることで自分も初心に戻れるからね。純粋な気持ちにもなれる」。かつての自身の姿を重ね合わせ、野球に夢中になっていた子どものころの気持ちにタイムスリップしたようだ。
「久しぶりの参加やからなぁ。病気がわかる前に参加してたときはあんなんやった、こんなんやったとか思い出しながらやっていた。もう、一日があっという間やったわ」と充実感を漂わせ、「もっとここからプロ野球選手が出てきてほしいね。プロ野球選手になれるんやっていう夢を与えられる場所にしていきたい」と語る。
そして「僕自身も多くの人に勇気を与えられるように。そのためにも、こういう場に出ることが重要」と、これが己の役割だと心得て、今後もそれを果たしていくことを誓って球場を後にした。
■アスリートワールドからメジャーリーガーを!―岡島秀樹(元レッドソックス)
「京都出身のメジャーリーガー」も2年連続の参加となった。元ボストン・レッドソックスの岡島秀樹氏だ。柔和な語り口で、子どもたちにも気さくに話しかける。
昨年は、最初に所属した読売ジャイアンツのユニフォーム姿だったが、今年はレッドソックスのそれをまとった。これには岡島氏のこんな思いがある。
「日本の野球(競技)人口が減ってきている。“メジャー”という大きな目標もあったほうがいいんじゃないかと思って。『夢はメジャーリーガー』という子を増やしていきたい。それで、わかりやすいように今年はメジャーのユニフォームにした」。
実際、メジャーへの関心の高い学童が多かったと言い、「京都の野球のレベルの高さを感じた。質問もズバズバしてくる」と、子どもたちの姿が頼もしく映ったようだ。
「大家(友和=元ボストン・レッドソックスほか)くんもそうだし、今だったら平野(佳寿=アリゾナ・ダイヤモンドバックス)もね。ゆくゆくはここからメジャーの選手が出てくれたら。日本一もいいけど、メジャーは世界一だよ。ワールドチャンピオンになる選手が出てきてほしいね」。
めちゃくちゃスケールがデカくなってきた。しかし、めちゃくちゃ夢のある話だ。プロ野球選手を輩出した。次は「アスリートワールドからメジャーリーガー誕生」か。可能性は大いにある。
■京都の野球の発展を願う
今年の「アスリートワールド」も大盛況だった。「僕らもパワーをもらえる」。子どもたちの元気な姿、明るい笑顔を温かい眼差しで見つめながら、桧山氏は言う。
「最後のじゃんけん大会なんて、体全部で表現している。勝ったら飛び上がって喜んで、負けたら泥んこでのたうち回って(笑)。ああいうのを見ると、子どもってええなと思う」。
すっかり京都に根付いてきた「アスリートワールド」についても「このわかさスタジアムは高校野球の京都大会のメイン会場やからね。子どもらにとっては、そのグラウンドに足を踏み入れられることが、まず『おぉっ』と思うやろし、いい経験になるやろう。投打の対決も結果は別として、すごくいい思い出になる」と、大きな手応えを感じている。
桧山氏は訴える。「子どもたちには何でもいいから好きなもの、夢中になれるものを見つけてほしいね。それが野球やったら嬉しいし、ずっと好きでいてほしい。野球を通して成長していってほしいね」。
京都の野球の発展のため、今後も桧山氏、波留コーチをはじめ多くの関係者は尽力していくつもりだ。
《追記》
京都ゆかりのトップアスリートや優れた指導者の功績を讃える本年度の「京都スポーツの殿堂」に、波留敏夫コーチが選ばれた。12月25日に立命館朱雀キャンパスで表彰式が行われる。
「京都スポーツの殿堂」は2010年度から始まり、これまでに21人が表彰されているが、野球関係では2010年度に吉田義男氏(元阪神タイガース)、衣笠祥雄氏(元広島東洋カープ)、2014年度に桧山進次郎氏(元阪神タイガース)が殿堂入りしている。
「アスリートワールド」の中心となる二人が選出されたことになる。
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【第13回 アスリートワールド学童野球教室 参加アスリート】
桧山進次郎
波留敏夫
阿波野秀幸
与田剛
野村弘樹
的山哲也
岡島秀樹
鶴岡一成
藤田一也
赤松真人
横山徹也
荒波翔
枡田慎太郎
松井佑介
祖父江大輔
大野雄大
福山博之
岡島豪郎
中川大志
森原康平
釜田佳直
高橋周平
川瀬晃
九鬼隆平
石原彪