身につける読書術
何事もそうだと思いますが、目的意識があるかないかで、インプットもアウトプットも密度や精度が変わってきます。読書もまたしかりですね。
◆その読書、目的は何ですか?
僕は一日三冊のノルマを作り、読書をライフワークの一つにしているので、よく「どんな本を読めば良いですか?」というような質問を戴きます。その時に一番困るというか応えにくいのが「とりあえず何を読めばいいですか?」というものです。「割と沢山読んでいるのに頭に入らない」という人に多く見られる特徴は、読書の切っ掛けが「面白そうだったから」というものです。面白がるのが目的であれば、読んでいる時間が楽しく過ごせれば目的は達成されているわけですから、「どうも読んでも身につかない」という読後の感想はやや見当違いになってしまいます。
まず、読書を体験として、知識や方法を身につけて実生活に活かしたいのであれば、どういう目的があって読書をするのかを明確にした方が良いと思います。僕の場合でしたら、例えば私塾や予備校の講義テーマに合わせて10冊くらいの本を読んだりしますが、目的は「そのテーマについて、楽しく分かりやすくコンパクトにテキストを作り、自分の経験や他分野と結合して話せるようにすること」です。ちょっと抽象的ではありますが、同一テーマで同一目的ですから、それなりに頭に残りますし、読みながら線を引いたり書き抜きもするのでカタチとしても読書の痕跡が残ります。
◆読書の痕跡を残す
この痕跡を残すというのはかなり重要な作業です。読書ノートやメモを作っても良いですし、そのまま書き込んでも良いと思います。とにかく「自分でその時に思ったことを手書きで書き加えること」が大事で、それによって視覚的なフィードバックが生じます。線の勢いや濃さがその時の考えや雰囲気を呼び醒ますトリガーになるんですね。
この時に注意して欲しいのが、「自分がやりやすいルールにする」ということです。例えば色ペンを使うとか、決まった記号を書き込むといった方法はとても良いと思いますが、誰かの方法にそのまま合わせるのではなく、自分なりに、また時と場合に応じてカスタマイズする柔軟さを持っていた方が良いと思います。これは実際にあった話ですが、本をまとめるワークショップをした際に、参加者の大学生が早々に投げ出していたので声を掛けると、「三色ペンを忘れたから、今日は速く読めません」と。そもそも自由になるための方法だったはずが、逆に縛られてしまっていたわけです。線や記号の形などは好みのものが良いですし、ペンなどは限定しない方が汎用性があると思います。
また時間を区切ることも、本によると思います。よくある速読術のように何でもかんでも同じ時間で、というのは無理がありますしナンセンスだと思います。僕の読書と編集の師であり「アルスコンビネーター」という肩書きの名付け親である松岡正剛氏は、「理解できるかどうかわからなくとも、どんどん読む。自分の読書のペースなどわからないのだから、読みながらチェンジ・オブ・ペースを発見していく」ような読書を勧めたいと仰っています。
◆目的をキーワード化する
話を戻して、何かに活かしたいと思って読書をするのであれば、まず本を選ぶ前に「何にどう活かしたいのか」を決めてから読む習慣を付けると良いと思います。習慣になってしまえば、たまたま手に取った本であっても、ゆるく楽しみながらでも、身につく読書が出来るようになります。これは慣れが大事だと思いますので、一朝一夕には実感が持てないとは思いますが、一年くらいそういう読書を続けていると実感が湧いてくるのではないかと思います。
具体的な練習法としては、Amazonなどの通販サイトや、『千夜千冊』などの書評サイトで、書籍名や著者名ではなく、「知りたいことや身につけたいことのキーワードで本を探す」という作業が効果的だと思います。図書館の検索システムなども良いですね。そのものズバリのタイトルよりも、間接的なキーワードを使って、知らない本と出逢うことはとてもドラマチックだと思います。その上で、この人だったらこのキーワードでどんな本を挙げるだろう? という気持ちで自分の信頼する人に聞いてみるのも良いと思います。
まずキーワードをあげるという作業をすることで、目的や興味の方向性が整理され、より知識を受け取りやすい準備が出来るんですね。それだけでもまったく違うと思います。そんなわけで、皆様の読書体験が実りあるものでありますように。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE)