オスロ合意の国 仲介役だったノルウェーは今何を思うのか
ノーベル平和賞の舞台でもあるノルウェーという国は「和平交渉の仲介役」という立場で外交政策を駆使する国だ。1993年にイスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)との和平交渉を進めたのもノルウェーであった。合意は米国のクリントン大統領が立ち会い、ワシントンでオスロ合意が調印・確定された。平和の道筋となるはずだったオスロ合意だが、「あれはいったい何だったのか」と思うほど、現在両国の間では憎悪の争いが起きている。
ノルウェー政府の態度
多くの欧米諸国と同じように、イスラエル政府には自衛権があり、ハマスはテロ組織であり、イスラエル市民にしたことはテロ行為であるとノルウェーのストーレ首相は非難した。
一方で、10月27日の「ガザの即時停戦を求める」国連の緊急特別会合では、ノルウェーはデンマーク・スウェーデン・アイスランド・フィンランドという北欧の中で唯一賛成票を投じた国でもあった(決議に反対したのは12か国、棄権したのは45か国)。賛成票を投じなかった国々には「ハマスのテロ攻撃に対する非難が欠けていた」という理由がある。
このように、ノルウェーらしいといえばノルウェーらしいが、双方を右往左往し、米国を怒らせないように、どちら側にはっきりとつくことはしていない。
筆者が取材していると、ノルウェーでは市民の間では停戦を求める新パレスチナの声が目立つ。特に「無実の子どもの命を奪っている」ことが市民の感情に火をつけていることは間違いない。北欧諸国の中で、ガザの即時停戦を求めて唯一の賛成票を投じた国というニュースの見出しを誇らしく思い、SNSでその思いを表明する市民は多かった。また別の日に、オスロ市議会は、オスロ市庁舎の塔にパレスチナの旗を掲げた。
パレスチナは「いずれ」国家として承認する妥協案
国連加盟193カ国のうち、スウェーデンを含む138カ国がすでにパレスチナを国家として承認することを決定している。だが、ノルウェーはこの国の中に含まれない。
パレスチナを国会として承認するよう求める声は市民側からも強く、国会での協議前には賛成票を投じるように何全通ものメールが市民から議員に送られ、国会前では承認を求めるようにと、市民が集まった。その中には学校の授業を欠席して参加する子どもや若者の姿も目立った。さらにパレスチナを承認するよう求めるパレスチナ委員会のキャンペーンには、6万500人以上が著名をした。
度重なる話し合いの末、ノルウェー国会は労働党と中央党が再提案した「ノルウェーはパレスチナを独立国家として承認する。ただし、その承認が和平プロセスに積極的に寄与することを条件とする」という案が賛成多数で11月16日に可決された。
これはパレスチナを国家としてすぐに承認するというものではなく、「いずれ、適切な時期に承認する」という、なんとも曖昧な「妥協案」である。現地メディアはこの可決を「パレスチナを国歌として承認する。今ではないけれど案」と呼んでいる。
反対票を投じたのは、イスラエル寄りのキリスト教民主党と極右政党の進歩党だ。今すぐ承認することを求めていた4政党のさらなる前進した案は、十分な賛成を得ることができなかった。
しかし、いずれ承認するとしても、「実情は今と変わらない」とノルウェー公共局NRKに話したのは中東研究者のニルス・ブテンショーン氏だ。「パレスチナはすでにノルウェーに大使を置き、外交関係を結んでいます。承認が残っているだけですが、ノルウェーはすでにパレスチナ当局とはブータンやジンバブエのような他の承認国よりもはるかに緊密な関係を築いています」と語った。
周囲の顔を伺いながら慎重な姿勢
このように、ノルウェーはガザで起きていることを止めたいが、米国との緊密な関係も望んでおり、アメリカとイスラエルを挑発することを避けたい立場にいる。時にガザでの悲劇を止めるために、より明確な立場をとって、他のヨーロッパ諸国とは差別化を図ることもあるが、その動きは常に米国の顔を伺いながらだ。
市民の間ではパレスチナを支援して、戦いを止めるようにという後押しする声が強いために、あとは国際社会の反応を見ながら国会議員らがどれほど前進する勇気がもてるかによる。小国・EU非加盟国・NATO加盟国でもあり、ロシアとの緊張関係も抱えるノルウェーにとって、米国という守り手の反応は無視することはできない。
オスロ合意から30年、夢物語をノルウェーは捨てない
1993年のオスロ合意からちょうど30年が経ったのは今年の9月13日だった。この日はノルウェーの各メディアや政治家が30年前を振り返るコメントや書評が多く掲載された。共通していたのは「ノルウェーは重要な役割を果たし、歴史的な和平プロセスとるはずだったが、より暗い結果に終わった」というものだ。左派の新聞ほどイスラエルの権威主義を批判していた。ダーグブラーデ紙の取材に対し、アイデ外務大臣は「オスロ合意の問題点は、『暫定的な解決策』が『解決策』と勘違いされたことだ」とも振り返った。
それでもオスロ合意を「終わったもの」とはしていないのがノルウェーの政治家たちだ。今でも当事者たちを軍事的な解決策から手を引かせ、交渉のテーブルに戻し、2国家解決の道を模索することが可能だとする声は多い。複数の専門家が実現不可能な目標であると述べているにもかかわらず、政府は2国家解決を目指すと繰り返し表明している。アイデ外務大臣はむしろ「今こそオスロ合意が復活する可能性がある」とも希望を捨てていない(DN紙)。イスラエル寄りのキリスト教民主党の政治家の中にも2国家解決を口にする者はいる。
「オスロ合意は夢物語ではなく、今こそ改めて取り上げるべきだ」というノルウェーの風潮は、現状に手を打ち出せない国際社会の切り札になる時がくるかもしれない。その前に、まずは戦闘停止が必要とされる。