分断が加速する欧州、ノルウェーのオスロ市庁舎ではパレスチナ旗がなびく
11月29日は国連が定めた「パレスチナ人民連帯国際デー」だ。この日を祝い、ノーベル平和賞の舞台でもあり、平和の象徴でもあるオスロ市庁舎で、国連の旗とパレスチナの旗が掲げられた。
さらに、オスロ市はこの日、ガザ地区で犠牲者を追悼する式典を開催した。
旗を掲げることと式典の開催の決断は、与野党の度重なる話し合いの結果だ。
「式典を分けることで分断がより広まるのではないか」「ユダヤ人差別が加速するのではないか」という懸念の声も出た。
別の国の旗を掲げることはオスロ市庁舎ではこれまで伝統ではなかったが、「抑圧された人々との連帯を強調する場」「平和都市」として、ロシアがウクライナを侵攻し始めた時にも市議会は平和都市としてウクライナ国旗を掲げた。
オスロ市議会ではキリスト教民主党と極右「進歩党」のみがパレスチナの旗を掲げることに反対した。
オスロ市庁舎では先日はユダヤ人のための式典も開催したばかりだ。だがイスラエル国旗は市庁舎では掲げられなかった。
オスロ市庁舎ではゲストは100人以下とあえて小規模に式典を開催した。
開催直前のことだ。取材に来ていたノルウェーのテレビ局と筆者に対して、ガザで大切な人を亡くなっている人たちが多く出席するために、「だれを撮影・取材して、どう報道するか慎重になってほしい」と市議会の広報担当者が強調してきた。
特にこの日は亡くなった市民を追悼するためのものなので、「来場する政治家たちをインタビューして意見を対立させるような記事の書き方は、ここではなく別の場所でしてほしい」などとも伝えた。
オスロ市庁舎での取材でこのような通達がされるのは非常に珍しく、来場者を必要以上に傷つけないようにしようとする配慮が伝わった。
「真実を話そうとすると拒絶や誤解という壁が立ちはだかります。欧州の多くの国では職や友人を失うリスクもあります。真実を話すことで、あなたから離れていく友人もいるかもしれないけれど、それはあなたの歴史の終わりを意味するものではありません」
そう語ったのはムスリム対話ネットワークのSenaid Kobilica理事長だ。彼の発言の通り、イスラエルとパレスチナの問題は口にしてしまうと誰かと対立する可能性があり、話すことをためらう人もいる。その状況の中で、式典を開催したオスロ市に理事長は感謝の思いを伝えていた。
欧州の中でノルウェーは異彩を放っている
ノルウェーに住んでいて、ここ数週間で気が付いたことがある。ノルウェーはどうやら欧州の中で新パレスチナ派の傾向が市民レベルや文化業界でやけに強い(政治・経済レベルは別として)。
パレスチナ支持のデモが毎週何回か開催されているオスロに住んでいると、デモを禁止している国が欧州にあることに驚きを隠せない。
フランスなどでのニュースを追っていると、ノルウェーは言論の自由がまだだいぶ許されていることを感じる。ドイツなどでは自由に発言できないからと、各国に住むパレスチナ人がオスロに来て講演をすることが当たり前になっている。ノルウェー国会前の広場では、パレスチナの人々がテントを張って、連日座り込みで意思表示をしている。オスロを歩いていて、イスラエル国旗を見ることはない。筆者のテーマが異なる様々な取材先では、パレスチナへの思いを壇上で語り涙ぐむ人がいる。
これはオスロ合意の国だったからゆえの責任感と罪悪感だろうか。オスロ市庁舎の塔で揺れるパレスチナの旗はまさにその象徴のようにも感じた。