店内でピクニック!? スペインの三つ星レストランの味を体験できるレストランは?
美食のスペイン料理
近年における美食史を語る上で避けて通れないのが、スペイン料理。
世界で最も予約できないレストランといわれ、分子調理を広めて衝撃を与えたのがスペイン・カタルーニャ州の「エル・ブジ(El Bulli)」でした。
1997年にミシュランガイドで三つ星を獲得し、世界のベストレストラン50では2002年、2006年から2009年にかけて1位。分子ガストロノミーを広く知らしめました。
最も注目されているレストランでありながら、2011年7月30日をもって閉店したのも、伝説に相応しい終わり方であったといえるでしょう。
エネコ・アチャ氏の「アスルメンディ」
スペインには他にも世界的に評価されているレストランがあります。その中でも挙げておきたいのが、ミシュランガイド三つ星の「アスルメンディ(Azurmendi)」です。
オーナーシェフを務めるエネコ・アチャ(Eneko Atxa)氏は伝統的なバスク料理を新しい素材や調理技法で独創的に表現。2012年の35歳の時に、スペイン最年少で三つ星を獲得しました。
当時スペイン人の三つ星料理人は8人しかいなかったことを考えても、大きな快挙であったといえます。
日本にオープンした「エネコ東京」
そのエネコ氏がプロデュースしたレストランが、実は日本にもあります。
それは、2017年9月7日六本木にオープンした「エネコ東京(ENEKO Tokyo)」。
シェフを務めるのは磯島仁氏です。1975年に秋田県で生まれ、「レストラン・クイーン・アリス」で15年間フレンチを学ぶなど研鑽を積んできました。「アスルメンディ」で4ヶ月間の研修を経て、「エネコ東京」オープン時から総料理長兼総支配人という大役を担っています。
メートル・ドテルは辻恭平氏。磯島氏との呼吸もピッタリで、料理やコンセプトの説明、最適なワインのセレクトは完璧です。
「目的地」を意味する「Helmuga」
この「エネコ東京」でオススメしたいコースが「Helmuga」(13,000円、税・サ別)。バスク語で「目的地」を意味する言葉で、ランチにもディナーにも提供されています。
肉料理と魚料理を味わえるフルコースで、最先端のガストロノミーを体験できるのは間違いありません。
3グラス(80ml、5,000円、税・サ別)、5グラス(80ml、8,000円、税・サ別)、8グラス(50ml、80ml、11,000円、税・サ別)と、ワインペアリングも用意されています。飲めるグラス数に合わせてチョイスするとよいでしょう。
では、料理を詳しくご紹介します。
グリーンハウス
最初は1階の「グリーンハウス」に案内され、アミューズや食前酒を体験します。最初に提供されるチャコリは、スペイン・バスク地方のワインで、エネコ氏の親族のワイナリーで造られたもの。ミネラル感と酸味があるので、胃腸がリフレッシュされます。その後はバルキート、自家製ベルモット、トリュフのメレンゲという順番で提供。
スペイン語で小さな舟を意味するバルキートは、イタリアンパセリとフレンチパセリ、水をミキサーで混ぜ合わせてから、3日間自然乾燥させたシートで折られた舟。海藻クリームをしぼり、仕上げにアサリの出汁のアロマで香りをつけています。磯の味わいや香りが楽しめる一品です。
自家製ベルモットはノンアルコールも用意。香草の心地よい芳香が漂い、食欲がかき立てられます。
トリュフのメレンゲは、メレンゲ、トリュフジュース、トリュフクリームのオイルと、トリュフずくめのアミューズ。
ピクニック
次は2階にある「温室」に移動して、ピクニックを体験。ピクニックは家族や親しい人と楽しむものなので、それをイメージした試みです。
アスパラガスのテクスチャ、キノコのタルトレッタ、カイピリーチャという順番で食べると、よりおいしく感じられます。
アスパラガスのテクスチャは、全てアスパラガスでつくられたロール。筒もピューレもアスパラガスで、ピューレの上にダイスカットされたアスパラガスをのせてから巻くことによって、全体的にバランスのよいテクスチャに。
キノコのタルトレッタは、下の薄い生地も含めて全てマッシュルームです。マッシュルームをのばして乾燥させた生地の上には、薄くスライスしたマッシュルームと濃厚な卵黄のクリーム。
スペシャリテのカイピリーチャは、まさに食べるアルコールカクテル。本国ではチャコリが入っていますが、日本ではパッションフルーツとライムに。周りにはカカオをまとわせており、パリっとした食感です。
合わせられるドリンクは、ノンアルコールの海のチャコリ。アルコールを飛ばしたチャコリに、ディルとタイムのフレッシュな香味が加えられます。
ホセリト(+2,750円、税・サ別)
通常は24ヶ月のところ48ヶ月熟成させたイベリコ豚ベジョータの生ハムで、生ハムのロマネコンティとも呼ばれます。磯島氏が自らコルタドールを務め、厚めにカット。脂の旨味と甘味を噛みしめるように食べるのが特徴です。
有機卵とトリュフ(+1,650円、税・サ別)
エネコ氏が母親の卵料理からインスピレーションを得たスペシャリテ。注射器で卵黄の中を抽出し、トリュフソースを加えてから注入して戻します。もともと卵と相性のよいトリュフが一体となって、とても濃密な味わいに。
イディアザバルのポルヴォロン
アンダルシア州のアーモンドクッキーであるポルヴォロンを、バスク地方の羊乳のチーズであるイディアザバルを用いてアレンジ。
上の「E」はエネコの頭文字を意味しており、竹炭パウダーで描かれています。下はくり抜いて、イディアザバルと卵黄、オイルでつくったクリームを入れ、イディアザバルを蓋の代わりに。裏返すと食べやすいです。
レモングラ
スペインの職人がつくったライムを模した大きな入れ物の中には、フォアグラとレモングラスのムース。あしらわれた穂紫蘇が美しく、ほのかにライムの果汁が加えられています。フォアグラは、鮮烈なレモングラスの香りと柑橘類の酸にピッタリです。
トリゴ アンチョビ パン
トリゴは、パスタを細かく切って炊き上げたバスク料理。パプリカの出汁で炊き上げており、上品な風味。有機卵の黄身、パンのフリット、アンチョビを乳化させたクリームという構成です。卵黄を崩してから食べるとコクが深まります。
オマール海老 青ネギ キャビア
オマール海老のフリットはクロッシュがかぶされて提供されます。ウイスキーオークによるスモークで香り付けされ、より深みのある風味に。オマール海老の下にはキャビア、アオネギのエマルジョンが合わせられ、適度な塩味となめらかなテクスチャ。
サーモン サーモンキャビア ナス
厚みのあるタスマニアサーモンを1分半焼いてミキュイ状に。皮目は香ばしく焼いています。イクラは2分半スモークして、柑橘でマリネし、メリハリのある味わいに。香ばしいナスのピューレを合わせ、周りにはライムのゼストを散らして、鮮烈なアクセントを加えています。
スペイン産仔豚
メインディッシュは2皿の構成。
仔豚はブロックにして真空調理してから、衣をつけて揚げました。衣が薄いので油っぽさは感じられず、仔豚の旨味がより強調されています。フランス産のトリュフ、マッシュルームが添えられ、香り高さと滋味も。
別皿にはルッコラのゼリーに葉野菜とエディブルフラワー。食味と色彩にコントラストがあります。
コーヒー 羊乳 チョコレート
チョコレートのムースの上には、キャラメルアイスと羊ミルクのアイスクリーム。下にはコーヒーとカカオのメレンゲのチップがあり、引き締まった味わいに。
プチフール
最後は特製ボックスで5種類のプチフールが提供されます。
ピンク色の模様が入ったバラの風味のマシュマロ、イチゴとラズベリーの生地でイチゴとラズベリーとホワイトチョコレートのピューレをサンドしたマカロン、ホワイトチョコレートでコーティングしたイディアザバルを用いたボンボン、マンダリンオレンジのゼリー仕立てにしたパート・ド・フリュイ、バジル、ヨーグルト、パッションフルーツのクリームをホワイトチョコレートで包み込んだピンチョスと、バラエティ豊か。
「エネコ東京」の魅力
非常に壮大で、物語性が感じられるコースでしたが、「エネコ東京」の魅力について改めて触れていきましょう。
まず、最先端のスペイン料理からバスクの郷土料理を楽しめるのが、大きな魅力です。スペシャリテの「有機卵とトリュフ」は化学調理を用いた最先端の料理ですが、その一方でバスク郷土料理のトリゴも体験できます。
チャコリを楽しめるのも嬉しいところ。スペイン北部、ピレネー山脈の西に位置するバスク州で造られるチャコリは、アルコール度数が低く、フレッシュで爽やかな酸味とミネラル感が特徴のワインです。バスク料理には同じバスクで造られたワインが最適であることはいうまでもありません。
サステナビリティに力が入れられているのも注目に値します。キノコやアスパラガスなどのアミューズでは、できるだけ素材の全てを使い、そのポテンシャルを引き出していました。
最後に挙げたいのは、3つの場所で食を体験できること。ファインダイニングでは、ウェイティングスペースなどで食前酒とアミューズを嗜んでから、ダイニングへ移動するという動線となっています。ただ、それはあくまでも、ダイニングへの期待を高めるための仕掛けに過ぎません。しかし、「エネコ東京」では、1階の「グリーンハウス」でバスクを想起させ、2階の「温室」でゲスト同士の絆を深めてから、ダイニングで美食の旅が始まります。それぞれが意味を有しており、より素晴らしい食体験が紡がれるようになっているのです。
日本にいながら三つ星スペイン料理のエッセンスが体験できる「エネコ東京」に、是非とも訪れてみてください。