イケア(IKEA)の無料ソフトクリーム施策は他でも効果があるのか?
イケアの施策が話題
Yahoo!ニュースのトピックスでも取り上げられ、NewsPicksでも盛り上がっていますが、<イケアの混雑対策に「ナイスアイデア!」 リツイート2.5万件超の評判>で紹介されているように、イケア(IKEA)の取り組みが注目されています。
その取り組みとは、イケア港北とイケア立川のフードコートでレシートに印字された時刻から30分以内に他の客へ席を譲れば、当日限り有効となっている50円のソフトクリーム券をプレゼントするというものです。
回転数の向上
この施策はイケア港北では2010年から、イケア立川では2017年3月からと、以前から行われていましたが、多くの人が知らなかったこともあり、余計に拡散されました。
飲食店、特に単価が低い飲食店では回転数が重要なので、既に食べ終えており、追加の注文もしない客には早く退店してもらいたいです。
しかし、何度も注文を訊きに行ったり、水の交換が滞ったりするくらいのことはあるかも知れませんが、面と向かって早く出ていってくれと言う飲食店はほとんどありません。
何故ならば、店から追い出すのは、ホスピタリティとは対極の応対になり、評判が悪くなるからです。
イケアでは、回転数の向上をこのようなネガティブな施策で行うのではなく、ソフトクリーム無料というポジティブな施策で行っています。客にインセンティブを与え、気持ちのよい体験に転化しいているのは素晴らしいことです。
他の業態ではどうか
今回はフードコートという業態でしたが、他の業態でもイケアと同じような施策をとれるのでしょうか。
以下の業態について考えてみます。
- ファインダイニング
- ラーメン
- ブッフェ
- カフェ
- ファミリーレストラン
ファインダイニング
ファインダイニングは回転数を向上させるために、客に対して何かしらの優待を行うことはまずありません。
何故ならば、基本的にランチもディナーも1回転を考えているからです。
フルコースに関して言及すると、ランチタイムであれば1時間30分くらいを要し、ディナータイムであれば2時間以上を要するでしょう。料理人やパティシエ、サービススタッフが最高に集中できることも考えたら、1回転が妥当なのです。
1回転しかしないので、早く退店してもらっても売上にはつながりません。客単価が高い業態であるだけに、むしろ値段に対する満足度を高めるためにも、客にはある程度長くゆっくり滞在してもらった方がよいでしょう。
従って、ファインダイニングでは、ソフトクリーム無料のような施策を行う必要はありません。
ラーメン
<はあちゅう氏も巻き込まれたラーメン1杯を4人で食べた炎上事件は、何がよくて何が悪いのか?>でも触れましたが、ラーメン店は回転数が命です。
ラーメン店は日本でも最も人気があるうちの業態のひとつであり、ファンも多いので、強気の店も少なくありません。そのため、食べている時に私語を慎むように要求したり、食べ終えたら速やかに退店することを半ば強要したりするところもあります。
また、人気ラーメン店は行列ができることがステイタスとなっていますが、行列が食べているプレッシャーを与えているので、客はあまり長居する気分にはなれないでしょう。
さらには、ラーメンは文化として確立しており、店主が尊敬の念を抱かれたりしているので、客が積極的にマナーを守り、ラーメン店の利益を守るという傾向もあります。
以上のことから、ラーメン店は回転数が重要ですが、回転数が向上するような環境となっているだけに、ソフトクリーム無料のように、客にインセンティブを与える施策は必要ないでしょう。
ブッフェ
ブッフェも回転数が大切です。何故ならば、広い空間を用意して、たくさん作って、多くの客を呼んで、大きく売り上げる業態だからです。
それだけに、よりたくさん作って、より多くの客を呼ぶことは重要となっています。ホテルの人気ランチブッフェでは2部制の2回転を前提としているところも少なくありません。ごく一部のホテルでは、3部制を採用しているところすらあります。
今ではどこのブッフェでも制限時間が設けられている方が普通であり、町場では60分、ホテルでは90分程度が一般的です。そういった中で、町場では30分や45分、ホテルでは60分程度と、エクスプレスランチならぬエクスプレスランチブッフェが行われているところもあります。もちろん、通常のブッフェよりも時間が短いので、値段も安くなっています。
こういった観点からすれば、ソフトクリーム無料のような施策は、ブッフェでは既に行っていると言えるでしょう。
カフェ
<飲食店で何も注文しなくてもよいのか? 考察するべき3つの点>でも述べたように、飲食店はその空間や時間などを含めた席も重要な価値となっています。
特に、フードやドリンクよりも席を提供する意味合いの強いカフェでは、その傾向が強いです。
同じ1杯のコーヒーを注文した場合でも、10分で退店する客と2時間で退店する客とでは、要したコストが大きく異なってきます。
しかし、実際にカフェでは客が滞在時間を短くするような露骨な施策はとられません。小さいテーブルを用意したり、テーブル間隔を短くしたり、ハイチェアなどの長居に向かない椅子を用意したりはしますが、1時間が経過したからと強く退店を促すことはないのです。
何故ならば、客はカフェを訪れる際に、ただコーヒーがおいしいからというだけではなく、できるだけ快適に長居できるかということも重要な要素として鑑みるからです。
カフェは、客単価が高くないだけに、回転数を上げたいところですが、回転数を上げることによって居心地が悪くなれば、カフェの価値の根底を損ねてしまいます。
カフェは回転数が重要なのでソフトクリーム無料のような施策も打ちたいところですが、もともと客単価が低いだけにインセンティブを与えるだけの費用を捻出するのは難しいところです。
ファミリーレストラン
ファミリーレストランは、しっかりとした料理を用意しており、ランチやディナーでも満足のいく食事をとれる業態ですが、カジュアルな雰囲気かつ通し営業をしていることから、カフェのような特性も備えています。
客単価はカフェよりも高いので、そこまで回転数を上げることを考えなくてもよいですが、あまりにも長居する客や、ほとんど注文せずカフェ代わりに利用している客には、早く退店したもらいたいものです。
ファミリーレストランは客単価が高いのでインセンティブを捻出することができますし、平均滞在時間も長いだけに効果もあるだけに、ソフトクリーム無料のような施策は有効でしょう。
共存共栄
イケア広報部では以下のように、今回のソフトクリーム無料施策は、回転数向上のためではなく、たくさんいる席を譲る客への感謝のためであると述べています。
フードコートでは席数の不足によって販売が滞ることがあってはならないだけに、イケアによるソフトクリーム無料の施策は大成功であると言えるでしょう。
回転数を向上させるため、客のマナーやモラルに訴えかけたり、飲食店のポリシーを厳しくしたりすることも悪くありません。
しかし、回転数が増えることによって飲食店が利益を上げられるのであれば、客にも何かインセンティブがあってもよいはずなので、飲食店と客が共存共栄していける仕組みを考えてもらいたいと思っています。