Yahoo!ニュース

韓国4月の総選挙に向け「映画宣伝戦」 与党の「建国戦争」VS野党の「ソウルの春」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
映画「建国戦争」(左)と「ソウルの春」(2枚のポスターから筆者キャプチャー)

 今年は世界中で「選挙の年」と言われている。韓国も4月10日に4年に1度の国会議員選挙(総選挙)が控えている。

 韓国国会の現有勢力は与党・自民党が安定多数を占めている日本とは異なり、「与小野大」で、与党「国民の力」の112議席に対して野党第1党の「共に民主党」は167議席と、与野党逆転現象である。(その他20議席と空席1)

 「共に民主党」出身の文在寅(ムン・ジェイン)前政権下の2020年4月に行われた前回の選挙では当時与党だった「共に民主党」が180議席(地域区163議席、比例代表17議席)を占め、103議席(地域区84議席、比例代表19議席)の「国民の力」の前身「未来統合党」を圧倒し、大勝を収めた。

 一昨年3月の大統領選挙で「共に民主党」の代表である李在明(イ・ジェミョン)候補を大接戦の末破り、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領を誕生させ、政権を奪還した「国民の力」は尹政権の安定と保守政権継承のためにも総選挙では最低でも過半数(151議席)を獲得しなければならない。

 仮に与党が再び敗北するようなことになれば、尹大統領はレイムダックに陥り、政権の不安定は避けられない。最悪の場合、任期途中で弾劾される恐れもある。

 逆に勝てば、当然、政権後半は盤石な体制で国政を運営することができ、「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)非常対策委員長は選挙を勝利に導いた最大の功労者として次期大統領の座を射止めることができる。

 一方、選挙の結果、「与大野小」を許すようなことになれば、「共に民主党」の李代表は確実に退任に追い込まれ、最悪の場合は今抱えている裁判で有罪が下され、収監の憂き目にあうかもしれない。

 「勝てば官軍、負ければ賊軍」ではないが、来る総選挙は与野党共に絶対に負けられない「天下分け目の大一番」となるだけにどちらも必死だ。

 相手に対する攻撃は見境なく、誹謗中傷に近いほど「仁義なき戦い」の様相を呈しており、広報・宣伝活動も過熱する一方だ。社会的現象も、外国要人の発言も、自陣営に有利になると判断すれば、徹底的に活用する。映画とて例外ではない。

 昨年11月に封切られた45年前の軍事クーデターを題材にした映画「ソウルの春」は1300万人の観客を動員し、爆発的ヒットとなったが、この映画が全斗煥(チョン・ドファン)国軍司令官(後の大統領)ら陸士11期生を中心とした新軍部勢力がクーデターを起こし、不法に政権を奪取した過程を描いていることから「共に民主党」にとっては「棚からぼたもち」で格好の宣伝材料となった。

(参考資料:保守派と進歩派の「上映禁止」と「鑑賞奨励」の対立の中、韓国映画「ソウルの春」がついに1千万人を突破!)

 「共に民主党」は「国民の力」が、全斗煥軍部独裁政権が結成した「民正党」の流れを汲んでいることから軍人出身の全元大統領と検察出身の尹大統領をだぶらせ、また軍部と検察を結び付けて「検察がクーデターで政権を強奪したので今の韓国は検察独裁国家になっている」とのキャンペーンを展開している。

 また金大中生誕100周年を記念して製作された金大中元大統領のドキュメンタリー「道の上の金大中」が先月10日から公開され、李代表を始め「共に民主党」執行部らが揃って鑑賞し、野党・進歩層の結集、結束を強める機会としている。

 野党の映画を利用した宣伝攻勢に押されていた「国民の力」も保守・自由主義者として知られる李承晩(イ・スンマン)初代大統領を扱ったドキュメント映画「建国闘争」が今月1日から封切られたことで今まさに反転攻勢に出ている。

 低予算で製作された「建国戦争」は宣伝費も少なく、上映される映画館も限られているにもかかわらず口コミで広がり、封切りから10日間で25万人の観客を集め、13日現在累積観客は32万8千人に達している。連休の旧正月の初日(10日)には5万人が映画館に足を運んでいた。

 映画をまだ見ていないようだが、尹大統領は「歴史を正す良い機会である」と述べ、12日に鑑賞した韓委員長は「韓米相互防衛条約や農地改革がなかったら大韓民国は今日のようにはならなかっただろう」と、感想を述べていた。

 「国民の力」のマドンナと称されている羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)元党院内代表や与党系の呉世勲(オ・セフン)ソウル市長らもそれぞれフェイスブックを通じて「この映画を通じて大韓民国の英雄らを正しく評価し、大韓民国へのプライドを高めてもらいたい」とか「李大統領がいなかったならば、初代大統領でなかったならば、この国と我が民族の運命はどうなったのか考えざるを得なかった」と綴り、保守層のみならず一般国民に鑑賞するよう勧めていた。

 圧巻は同党所属の朴洙瑩(パク・スヨン)議員で完全に映画に便乗し「来る4月の総選挙は『第2の建国戦争』である。必ず自由右派が勝利し、建国→産業化→民主化→先進化に繋がった我々の誇り高き歴史を取り戻さなければならない」と気勢を上げていた。

 韓国では保守層を中心に設立された李承晩大統領記念財団が李承晩大統領記念館の建立を急いでいるが、尹大統領は財団に500万ウォン(約55万)を寄付している。

(参考資料:真逆の結果が出る韓国の世論調査! 「4月総選挙」で勝つのは与党か、野党か)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

「辺真一のマル秘レポート」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

辺真一の最近の記事