美濃焼で岐阜の食材を味わう鉄板焼 他にはない企画が生まれたワケ
美濃焼をテーマにした鉄板焼
鉄板焼は日本が世界に誇る、日本料理のひとつです。黒毛和牛をはじめとした和牛を存分に堪能できるので、訪日外国人にも人気となっています。目の前の鉄板カウンターで展開される華麗な調理は、非常にダイナミックで臨場感もたっぷり。
焼く、炒める、蒸す、揚げるなど多彩な調理法が用いられており、様々なフェアも行われてきましたが、これまでにはなかった新しい試みが行われています。
それは、ストリングスホテル東京インターコンチネンタルの鉄板焼「風音」で2023年5月20日から7月17日にかけて行われる「美濃焼で味わう鉄板焼コラボレーションディナー」です。
美濃焼を主役にしたテーマがとても新しく、岐阜県の食材もふんだんに使われています。
コース内容
美濃焼とは岐阜県、東濃地方の一部地域(土岐市、多治見市、瑞浪市、可児市)で製作される陶磁器の総称。このフェアでは、料理長を務める瀧澤経氏が料理にぴったりな器を選びました。器だけではなく、メニューにはエンボスが美しい美濃和紙がつかわれており、美濃にこだわっています。
料理長の瀧澤氏は1972年に生まれ、調理師学校を卒業して、1991年から料理人生を歩み始めました。鉄板焼のみならず和食、オールデイダイニングなど幅広い分野において研鑽を積み、2019年11月に「風音」料理長に就任。“枠にとらわれない唯一無二の体験を届けたい”という想いのもと、鉄板焼の醍醐味はそのままにして、クリエイティブな鉄板料理を創造しています。
「美濃焼で味わう鉄板焼コラボレーションディナー」の内容は次の通り。
稚鮎の天婦羅 本鮪中トロ炙り 縞鯵のお造り
飛騨牛リブロースと姫筍 鉄板しゃぶしゃぶ
桜鱒朴葉味噌焼き
春野菜のサラダ 新牛蒡のクーリ 甘夏みかんのドレッシング
飛騨牛サーロイン 120g
美濃のお米(ハツシモ)の風音特製ガーリックライス
クレームダンジュ 湯葉とトマトのクーリ 柚子ソルベ
コーヒー または 紅茶
稚鮎、飛騨牛、姫筍、桜鱒、朴葉味噌など、岐阜県を代表する食材が目白押しとなっています。飛騨牛はしゃぶしゃぶと鉄板のどちらも体験できるのが嬉しいです。
では、メニューを詳しく紹介していきましょう。
稚鮎の天婦羅 本鮪中トロ炙り 縞鯵のお造り
お造りと天ぷらを同時に楽しめるという豪華な一皿。瀧澤氏が「この器を見て、二品を同時に提供するプレゼンテーションが思い浮かびました」と述べる通り、見た目も映えています。
稚鮎の天ぷらには、蓼酢ではなくパッションフルーツのソースが添えられていて、新しい食味。和歌山県の本鮪の中トロにはフランスのフルール・ド・セルで塩味を、愛媛県の縞鯵には新生姜でフレッシュさを加えています。
飛騨牛リブロースと姫筍 鉄板しゃぶしゃぶ
飛騨牛リブロースは厚めで食べ応えがありながらも、きめこまやかな肉質。焼きしゃぶにして、香りとテクスチャを際立たせています。飛騨牛はさることながら、姫筍も独特の歯触りとみずみずしさが秀抜。木の芽の鮮烈な香味が全体を引き締めています。
桜鱒朴葉味噌焼き
朴葉味噌焼きは、朴葉の上に味噌をのせて焼いた岐阜県の郷土料理。朴葉に、あえて葱を加えていない味噌をのせ、香り高く焼きました。桜鱒は皮目を下に向けてじっくりと焼いてから、身を焼いて朴葉の上に。皮目がパリッと仕上がり、身はふっくらとして妙妙たる味わい。添えられたツルムラサキの青い食味と、散らされた穂紫蘇の香りがよいアクセントです。
春野菜のサラダ 新牛蒡のクーリ 甘夏みかんのドレッシング
水菜、グリーントマト、ラディッシュ、フリルレタス、セロリ、焼いたカブ、ソラマメと旬の野菜がふんだんに使われたサラダ。メインディッシュの前に口中をさっぱりとさせます。新牛蒡のクーリは土の香りが出色で、甘夏みかんのドレッシングは初々しい甘酸っぱさが特長的。
飛騨牛サーロイン 120g
12段階あるBMS(ビーフマーブリングスタンダード=牛脂肪交雑基準。1から12で12が最も脂肪が多い)の中で、10程度の脂がのった飛騨牛サーロイン。脂がたっぷりなのでしっかりめに焼きました。引き締まったサーロインはジューシーで、和牛香がふんだんに感じられます。コンディメントにはヒマラヤ岩塩、藻塩、静岡県のワサビ、梅ポン酢が用意されており、食べ比べてみると楽しいです。
付け合わせの野菜は、味わいが濃厚なイタリア・トスカーナ州原産のカーボロネロ、甘くてシャキシャキとしたひげ付きヤングコーン、苦味でメリハリのあるコゴミと、個性豊かな取り合わせ。
美濃のお米(ハツシモ)の風音特製ガーリックライス
美濃の「ハツシモ」は関西に流通してしまうため、関東では仕入れるのが難しい米。大粒で食味がしっかりしているので、力強いガーリックライスにはぴったりです。食欲をそそるガーリックライスの上には、薄く伸ばしたパリパリのおこげがのせられます。
クレームダンジュ 湯葉とトマトのクーリ 柚子ソルベ
エグゼクティブペストリーシェフの長田学氏が「瀧澤シェフからさっぱりとしたものがよいとリクエストされました。湯葉をつかっているので、食べ応えもあります」という一品。
北海道産ミルクのフロマージュブランを湯葉で包み、グリーントマトを載せたという意欲作です。ミントでさっぱりと仕上がっています。
アルコールペアリング
料理に合わせたアルコールペアリングも素晴らしかったです。
「デュヴァル・ルロワ ブリュット レゼルヴ」はストリングスホテル東京インターコンチネンタルのハウスシャンパーニュ。黒ブドウ主体で骨格があり、ほのかなスパイス感もあります。当日はマグナムボトルで提供されており、まろやかでクリーミー。お造りや天ぷらとの相性は抜群です。
「一ノ蔵 Madena」はマデイラワインの製法である酒精強化と加温熟成を用いた新しいタイプの日本酒。甘口ながらもカラメルのようなコクと香りがあり、癖になります。朴葉味噌の濃厚さとよく合っていました。
「北ワインケルナー キムラヴィンヤード 2020」はすっきりとした辛口の白ワイン。華やかなアロマがあるので、フレッシュなサラダにはもちろん、焼き野菜にもマッチしています。
美濃焼の紹介
今フェアの主役となる美濃焼は、白山窯で焼かれたミヤザキ食器の器でした。ミヤザキ食器は1954年に業務用食器メーカーとして誕生した老舗。スタイリッシュで上品なブランド「M.STYLE」がよく知られており、今回の美濃焼もこちらのシリーズでした。
登場した美濃焼のうち、いくつかを紹介しましょう。
「咲(SAKU)」シリーズは繊細な結晶釉の表情が魅力的。きらりとした質感と上品な風合いで、料理に品を与えます。一品目のお造りと天ぷらではその輪郭を際立たせ、鉄板しゃぶしゃぶでは美しい曲線がリブロースのしなやかさを湛えているようでした。
「薫雲(KUMO)」シリーズは、優しくて繊細なグラデーションが特長。シックで爽やかな色合いをしており、皿の上を魅惑的に彩ります。桜鱒ではオーバル型プレートが色気を放っており、デザートではクリエイティブなプレゼンテーションに艶を加味していました。
美濃焼フェアの背景
美濃焼とコラボレーションした渾身のコースでしたが、どのようにして開催に至ったのでしょうか。瀧澤氏は振り返ります。
「以前から当店で使用している器について、お客様からお問い合わせをいただくことが多かったので、器に合わせた鉄板料理を表現できないかと考えていました。そこで、取り引きのあるミヤザキ食器に相談し、美濃焼フェアに挑戦しました」
器を主役にすることは、ホテルのコンセプトにも合致するといいます。
「ストリングスホテル東京インターコンチネンタルは、国産の生産物や工芸品を積極的に取り扱い、日本全国の生産者を応援する取り組みを行っています。今回のフェアがきっかけになって、美濃焼や岐阜県の郷土料理の素晴らしさを改めて知っていただけたら嬉しいですね」
使用する美濃焼はどのようにして選んだのでしょうか。
「美濃焼らしさを活かしつつ、鉄板料理と高め合い、見栄えがよいものを選びました。新しい試みとして、従来のイメージにはない軽やかな配色のお皿も選んでいます」
美濃焼は2022年末に選定して、メニューは3月末に決定したといいます。
来年以降に開催も
滝澤氏が最もこだわっているメニューは「桜鱒朴葉味噌焼き」です。
「朴葉味噌焼きは美濃焼と同じ岐阜県なので、召し上がっていただきたいと思いました。朴葉味噌の香りが桜鱒の旨味を引き出しているので、ご賞味ください」
苦労した点は何かあるでしょうか。
「最も大変だったのは、鉄板料理に相応しい美濃の食材を見つけることでした。ただ、試行錯誤を重ねていった結果、これまでにはない新しいメニューを考案できたと思います。お客様の率直な感想をお聞きして、来年以降の開催も考えてみたいですね」
美濃焼で鉄板焼を味わうという、オリジナリティ溢れるコース。鉄板料理の新しい魅力が紡ぎ出されているので、是非とも体験してみてください。