Yahoo!ニュース

【大河ドラマ鎌倉殿の13人】源頼朝が成長著しい金剛(北条泰時)を可愛がった訳

濱田浩一郎歴史家・作家

北条泰時の幼名は「金剛」と言いました。大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では「成長著しい金剛」(子役からいきなり、泰時役の俳優・坂口健太郎さんに変わった)というテロップが話題となりましたが、その金剛が10歳の時の逸話が『吾妻鏡』(鎌倉時代後期に編纂された歴史書)に掲載されています。

それによると、同年5月、多賀重行という武士が源頼朝から所領を没収されるという悲劇に見舞われます。なぜか。北条義時の息子・金剛(泰時)が、歩いて遊びに出掛けていたのですが、重行は下馬せずに、馬に乗ったまま、金剛の前を通り過ぎてしまった。それが原因だというのです。

頼朝は重行のこの振る舞いを聞いて「礼儀は長幼の順を論ずるべきではない。本来はその人がどんな身分の人によるべきである。とりわけ、金剛ほどの者が、お前のような傍輩と一緒にされては堪らない。どうして、世間の評判を気にしなかったのか」と重行に直に怒ったそうです。つまり、金剛は幼いと言えども、頼朝の縁戚である北条氏の子弟。その金剛の前では「傍輩」である重行は年長であっても、礼をもって接すべきというのが、頼朝の論理でした。

重行は頼朝に叱責されて恐縮しつつ「下馬せずに通り過ぎたということはありません。若君(金剛)とその従者に聞いてください」と弁明。金剛に尋ねてみると、彼も重行の言葉は正しいと言う。金剛の従者も「重行は確かに馬から下りました」と答える。

これで一件落着かと思いきや、頼朝は激怒します。「後で追求されることを恐れもせず、平気で嘘を言いおって。一時の罪を逃れようとするその心根・振る舞い、とんでもない奴だ」と頼朝は怒ったのです。

頼朝は重行があくまで嘘をついていると見做し、最終的には所領を没収したのでした。一方、金剛は「幼いにもかかわらず、重行を庇う仁の心は優美」ということで、頼朝から褒められた上、刀まで賜ります。

泰時が年少の頃から頼朝に可愛がられていたことを示す逸話ではあるのですが、私は重行が不憫でなりません。

歴史家・作家

1983年生まれ、兵庫県相生市出身。皇學館大学文学部卒業、皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。『播磨赤松一族』(KADOKAWA)、『北条義時』『仇討ちはいかに禁止されたか?』(星海社)、『家康クライシスー天下人の危機回避術ー』(ワニブックス)ほか著書多数

濱田浩一郎の最近の記事