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オリンピック選手村施設を無償の木材で? その裏に反故にされたレガシー

田中淳夫森林ジャーナリスト

 東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会が、選手村の交流施設を作るための木材を、無償で提供する自治体を全国から公募し、大会後は東京オリンピックのレガシー(遺産)として活用してもらう計画を発表した。約2000立方メートルの木材が必要とされる。

 だがインターネット上では批判にさらされている。「五輪は搾取のための錦の御旗ではない」などと無償で提供させることに反発が相次いだのだ。

一方で組織委は「全国各地の自治体から『無償でも』と申し出があったから企画した」と思わぬ反応に困惑しているとか。

 この騒動、改めて要旨に目を通したが、いくつか誤解があるように思う。

 まず無償提供とはいうものの、山主や伐採搬出等を担当する林業家に無償を要求しているのではない。おそらくだが、自治体が木材を買い上げて組織委に提供するのだろう。つまり山主が損をするのではなく、大会に関係ない自治体が大会のために税金を投入するわけだ。もう少し具体的に言えば、組織委もしくは東京都が支払うべき金を各地の自治体につけ回すということだ。

 だから自治体の住民が納得するかどうかが鍵である。もっとも、五輪用だからと山主から安上がりに買い上げることがなければよいが。

 もちろん、無償で木材を受け取る方からすればコスト削減できるからバンザイだろう。

 しかし施工を請け負う工務店などからすると、あんまり歓迎されないに違いない。樹種も産地もバラバラ、しかも各地でプレカットを施された木材で一つの建築物を建てるのは結構苦労すると思えるからだ。同じ樹種でも、産地が違えば強度などがバラつくし、プレカット工場が違うと同じ寸法でも微妙な差が出るものだから。工事現場で泣かされる人が出なければよいが……。

 また木材はタダで手に入る程度の材料、という誤った認識が広がってはたまらない。何十年という歳月と世話をする人々、そして伐採搬出する苦労の末に手に入れられるものであり、それに対価がいらないと思われては禍根を残す。

 もう一つ誤解されそうなのは、これは組織委の「(無償)買い上げ」ではなく「借り上げ」であること。大会終了後に提供自治体に返されるからだ。それを使うことで環境負荷を低減し、持続可能性の実現を目指す大会のレガシーにしてほしい、という。これは、レガシーという呪文によって、後片付け費用を発生させないというマジックである。

実際、要旨には「レガシー」が無駄に連発されている。「大会後に解体された木材を各自治体の公共施設などでレガシーとして活用していただきます」ばかりだ。

 だが、レガシーという言葉を使うなら、もっと根本的なレガシーを破壊していることに気づくべきである。

 それは、オリンピック・パラリンピック施設に使うのは、森林認証を受けた木材に限るとするものだ。北京大会から強まり、ロンドン大会で100%達成し、リオ大会でも受け継いだこのレガシー、東京大会であっさり反故にしてしまった。その点に関しては、私は幾度も記してきた。

https://news.yahoo.co.jp/byline/tanakaatsuo/20151215-00052463/

https://news.yahoo.co.jp/byline/tanakaatsuo/20161009-00063060/

https://news.yahoo.co.jp/byline/tanakaatsuo/20161210-00065300/

今回の「無償提供の木材」も、とくに認証材だけという縛りはないようである。

「森林認証制度(FSC、PEFC、SGEC)を満足する木材である場合には、提供木材を納入する際に、その適合を確認できる文書等を提出するとともに、提供木材にその適合を確認できる表示が付されていること」とあるが、認証を取っていなくても違法でなければないようだ。

 さらには「森林認証を取得予定」で、まだ取得していなくても応募することは可能とある。森林認証を取得しているが「製材工場が認証制度未取得である」場合も、 森林認証制度を有する森林に由来することが確認できれば応募は可能なんだそうである。

認証制度の基本姿勢を無視しているというか、理解していないんじゃないか。

 いっそのこと、木材に「認証材」か「無認証」かを記載して、世界中の選手たちの目にさらし、これでもよいか判断してもらってはどうか。

 ちなみに木材には自治体名を明記できるというが、果たして産地の宣伝効果があるのかどうか、かなり疑問だ。税金投入して無償提供したのに、その木材の産地がとくに評判を上げることもなく、住民間は税金投入の正否でぎくしゃくし、返された木材も使い道が定まらなくてお蔵入りして忘れられてしまう……そんな負のレガシーになりませんように。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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