IOC幹部の異様な発言の裏には日本がいるのではないか
フーテン老人世直し録(585)
皐月某日
近代五輪は終焉の時を迎えているのかもしれない。前回のブログで、五輪開催のために日本国民に犠牲的精神を求めるバッハIOC(国際五輪委員会)の発言と、緊急事態宣言下でも開催すると言い切ったコーツIOC調整委員長の発言を取り上げたが、その後もIOC委員からは常識を超える発言が相次いでいる。
最古参のIOC委員であるカナダ人のディック・パウンド氏は25日、米国のCNNとのインタビューで「中止の選択肢は既にテーブルの上にない」と発言し、また英国の「イブニング・スタンダード」紙の取材に「アルマゲドンが起こらない限り東京五輪は開催される」と述べた。
アルマゲドンとは聖書に出てくる「世界の終末」で、パウンド氏は人類滅亡の破滅が起こらない限り東京五輪は開催されると明言したのである。さらにパウンド氏は26日にロイターの電話取材で、開催に対する日本国民の反対や批判は「政治的なポーズであることが明らかになるだろう」と述べた。
その際パウンド氏は「総選挙が10月か11月ということは、選挙での事後的な立場表明に向け、バックスイングしているのかもしれない」との見解を明らかにした。つまり日本国内の五輪開催批判は、この秋の総選挙と絡んだ政治的なものだとパウンド氏をはじめIOCは認識していることが分かる。
しかし総選挙の時期を「10月か11月」というように、カナダ人のパウンド氏やIOCが日本の政治状況に精通しているとは思えない。おそらく日本の五輪関係者がIOCに対し、開催に反対の日本国民が多いのを政治的な理由からだと説明しているのだろう。IOCはそれを鵜呑みにし、政権に批判的な勢力が選挙を有利にするため東京五輪中止を煽っていると認識させられている。
そしておそらく日本の五輪関係者は、日本国民はワクチン接種の遅れからその扇動に乗せられているが、接種が進めば不安は解消して状況は変わる。また開催してしまえば日本国民は連日の競技に盛り上がり、一挙に考えを変えて感動の涙を流すとIOCに説明しているようにフーテンは思う。
そう考えると、日本人の粘り強さや逆境を乗り越えてきた歴史があるというバッハ会長の発言も、日本の五輪関係者から吹き込まれた話を、それを言えば日本人が喜ぶと言われて披露したのではないかという気になる。つまり常識を超えたIOCの対応は日本の五輪関係者との共同作業の疑いがある。
一方でパウンド氏が問題発言をした25日には、米国の医学専門誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」が、IOCの「プレイブック」には新型コロナウイルス対策に欠陥があるという論文を掲載した。対策が競技ごとに細分化されていないことなどを挙げて、「中止が最も安全な選択肢かもしれない」と結論付けている。
この論文を書いた執筆陣には、バイデン大統領のアドバイザーを務めるミネソタ大学感染症研究政策センターのオスターホルム所長も含まれ、権威ある専門誌だと言われる。開会まで2か月を切る中でIOCは「プレイブック」を変更せざるを得ないだろう。問題は変更してもそれを本当に実行できるかどうかだ。
フーテンの見るところ医療関係者やメディアは、日本に限らず世界的に東京五輪開催を疑問視している。現在のコロナ感染状況を見れば、それが普通の感覚だと思う。しかしIOCと日本の五輪関係者に中止の選択肢はない。そこには普通の感覚では理解しえない政治的経済的思惑が隠されていると考えるしかない。
その普通の感覚では理解しえない隠された事情を探るのがメディアの役割だが、パウンド氏は5月3日「週刊文春」の取材に対し「仮に菅総理が大会中止を申し入れてもそれはあくまで個人的な意見に過ぎない。大会は開催される」と極めて興味深い発言を行った。
なぜ日本国の総理の申し入れが「個人的な意見」になるのか。昨年3月に安倍前総理が「1年延期」を申し入れ、それをIOCは了承したが、あれは「個人的な意見」ではなかったのか。あの時、国民が「1年延期」を望んだから、安倍前総理が「1年延期」を申し入れたわけではない。国民の中には様々な意見があった。
コロナ禍を幸いに暑い夏ではなく秋に延期という意見もあった。コロナ禍は長引くとの見通しから東京五輪を4年後にしてパリ五輪をさらに4年遅らせるという意見もあった。中でも有力だったのは東京五輪組織委の中心人物である電通の高橋治之氏が米国のウォール・ストリート・ジャーナル紙のインタビューに答えた「2年延期」である。
それが安倍前総理の意向で「1年延期」に変更された。後に森喜朗前東京五輪組織委会長は「自分も2年延期に賛成だった」と述べ、そのためには安倍前総理の総裁任期を延長する政治工作を行おうとしていたと明かした。
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