大粒のぶどうによる窒息を予防する その5 〜「食育」と「安全」〜
※本記事中の「ガイドライン」は、「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン【事故防止のための取組み】」を指します。
2020年9月に、「大粒のぶどうによる窒息」に関する記事を4本書いたところ、これらの記事にさまざまな意見や感想をいただいた。多くは「ぶどうの危険性について知らなかった。驚いた」、「これからは必ず4つに切ります」といった内容だが、ある保育現場の方から、「当園では園児の『食育』を大事にしています。ガイドラインでは『給食での使用を避ける食材』とされていても、提供の仕方を工夫したり、園児の発達に応じた丁寧な指導をして安全に食べさせることができています」という内容のコメントをいただいた。
保育所における「食育」とは
そもそも「食育」とはなんだろうか。農林水産省の「食育の推進」というページを見てみると、
「食育は、生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるものであり 、様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実現することができる人間を育てることです。」
とある。
また、同じく農林水産省が公表した「令和元年度 食育推進施策(食育白書)」には、「就学前の子供に対する食育の推進」として、
保育所では「保育所保育指針」、幼稚園では「幼稚園教育要領」、認定こども園では「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」に基づき、教育・保育活動の一環として、計画的に食育の取組を実施。
と書かれている。
大変結構な理念であり、ぜひ推進していただきたいが、「食育」が「安全」より優先されることがあってはならない。
食育は食育、窒息死は窒息死
2020年は、2月に豆まきの豆による窒息死(4歳児)、9月にはピオーネによる窒息死(4歳児)が教育・保育施設で発生している。このように、厳然たる事実が存在するのである。
もちろん、「食育」も必要であるが、教育や保育の場では「安全」を最優先する必要がある。すなわち、死亡事故は絶対に起こしてはならないし、起こしやすい状況は回避する必要があるのである。
食べ物による窒息は瞬時に発生し、その状態が5分以上続けば死亡する場合もある。乳幼児には「気をつけて食べさせる」とよく言われるが、そばにいる大人が具体的にできることはあまりない。「食べ物を刻んで小さくする」、「よく噛むようにと言い続ける」くらいしかできることがないのである。大粒のぶどうをそのまま口に吸いこんでのどに詰まった場合には、すぐに救命処置をするしかない。
ガイドラインに書いてあることは、「絶対に死亡事故を起こさないための最低基準」と考えて、ガイドラインを遵守することが保育の場の安全確保の第一歩と認識する必要がある。
一例でも、保育所で窒息死が発生すれば、刑事裁判となる可能性があり、その後には民事裁判となり、最終的には数千万円以上の賠償金が保育管理者に課せられることになる。保育所が閉鎖される場合もある。遺族の怒りや悲しみが収まることはなく、担任保育士の心理的な負担は一生続く。それらを考えれば、大粒のぶどうに代わるもの、ミニトマトに代わるものはいくらでもあり、これら危険性が高い食べ物を与えることに固執する意味はなく、ましてやぶどうやミニトマトを与えないことで「食育」の効果が損なわれるとは到底思われない。
農林水産庁の「食育の推進」には、「食育は、生きる上での基本」と書かれている。「生きている」から「食育」が成立するのであって、食べ物で死んでしまえば食育もない。食べ物による窒息死を、よそ事と安易に考えることは大変危険である。