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梅毒患者過去最多。「身に覚えがない」が最も危険

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
キスでも感染する(写真:アフロ)

 「過去の死病」が復活しています。抗生物質ストレプトマイシン発見により治るようになった結核が「再興感染症」として、同じくペニシリンで生還できる梅毒が。特に後者の患者数は近年、爆発的とすら表現し得る増加を示し、11月、2017年は今の方法で統計を取り始めた1999年以来最多を記録したと国立感染症研究所の集計でわかりました。約10年間500人から700人で推移していたところ11年に800人台、13年に1200人台、14年1661人、15年2690人、16年4559人と物凄い勢いで増えていて収まる気配もありません。何が起きているのでしょうか。

文字通りの性交渉以外でも感染する

 患者数とは医療機関からの報告数なので「日本で梅毒が大流行」とは言い切れません。ここ数年増えているというニュースに接して診察を受ける人も増加したとか、後述するように見逃していた医師が注意深く診断し出した結果という可能性も大いにあります。とはいえ過去最多の感染症流行をのほほんと見逃していいはずがないのはいうまでもないところでしょう。

 梅毒トレポネーマという細菌による感染症で文字通りの性交渉ばかりかオーラルセックスやキスでも移り得ます。症状はまず3週間後に潰瘍やリンパ節の腫れが確認され2~3カ月を過ぎると前身に赤い発疹がみられます。楊梅(ヤマモモ)に似ているのが病名の語源。

ワクチンもなく予防が難しい病

 厄介なのは症状が出てもまもなく治まってしまったり症状すら出ないケースも珍しくない点。「放っておいたら治った」「何もなかった」と勘違いしてしまうのです。実は潜伏期で長いと10年ほどで深刻な段階へ進みます。血管破裂(心血管梅毒)や神経のまひおよび知能の衰え(神経梅毒)が出現して最悪死に至るのです。

 ペニシリンの出現で初期段階ならば完治するようになって久しいがため軽視されがちでしたが実はワクチンがないので事前予防が難しいし、再感染する病でもあります。性器だけに効果があるコンドーム着用でも防ぎきれません。つまり予防手段は「禁欲」しかないのです。でもそれでは人類が滅亡してしまいますし現実的ともいえません。

愛が芽生えた瞬間に「血液検査を受けよう」と言えるか

 そこで国などがしきりに訴えているのが「検査しよう」で無料で受けられる機関も紹介されています。ここで問題なのは「身に覚えがない」ケース。厳密にいえば性的な接触はあったけど相手がごく普通の人で自らも風俗店で働くなどの過去を持たないといった場合です。

この「相手がごく普通」というのがどうやら問題の本質のようです。相手がキスすら経験していないならば安心ですけど、それはそれで一定の年齢以上だと「普通」ではなさそう。前記のように症状がないまま保菌者になっている可能性もあるので安心は禁物です。圧倒的に男性患者の方が多いので「移される」だけをくり抜いて考えれば女性がより警戒すべきという結論へたどり着きます。あくまで一般論ですが。

 素敵な相手に巡り会って「付き合おう」と決める前後に過去の性体験を根掘り葉掘り聞き出したり「交際するならば2人でまず血液検査(梅毒血清反応検査)を受けましょう」とはなかなか言い出せません。そもそも梅毒に限らずリスク云々を超えてカーッとなるのが恋愛ですから。

医師が見逃してしまう背景は?

 したがって、少なくとも結婚や出産を控えた「節目」には検査するのが望ましいでしょう。というのも妊娠中の感染は子どもへ先天性の障害が伝播するおそれがあるからです。梅毒は性病であるがゆえに恥ずかしいという思いが検査をためらわせる大きな理由でしょうし、若いうちの軽い気持ちの恋愛や、反対に不倫など隠しておきたい付き合いであれば一層気後れします。しかし梅毒トレポネーマに若気の至りも忍ぶ恋も関係ないのです。

 医療体制の再構築も急務です。治る病気となって数年前まで患者数も少なかったため主に皮膚科の医師が経験不足から症状を他の病と誤って診断しているかもしれません。また海外では標準治療となっているベンザチンペニシリンGの筋肉注射(1回)が副作用の不安から日本で使用不可となっているのを見直して解禁する動きももっと加速すべきでしょう。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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