JR北海道・JR西日本で加速する「廃線」論議 鉄道網の維持はどうすれば可能なのか?
大都市圏への人口集中、それにともなう地方の過疎化により、ローカル鉄道の利用者は減少していく。そんな中、何かの条件が重なった場合に、地方の鉄道は廃止するということになる。
相次ぐ北海道の廃線論議
1月28日、JR北海道根室本線の富良野~新得間4自治体と、北海道、JR北海道による会議で、同区間の鉄道による存続を断念し、バス転換に向けた協議を始めることになった。
この区間は、2016年の台風10号で被災し、東鹿越~新得間が長期にわたり運休をしている。また、富良野~東鹿越間も、利用者が少ない。
JR北海道はすでに同区間の廃線を地元に提起し、地元も受け入れることになった。
この路線が存続できなくなることの最大の理由は、長期間の災害による不通である。この区間はかつて、札幌から釧路を結ぶメインルートだったものの、石勝線開通によりローカル線となった。現在では普通列車が走るのみだ。
そんな中、風水害で長期間の運休。重要な路線ではなく、かつ被害も甚大であるため、早期の復旧をやろうとしなかった。
駅などの施設はどんどん自然に返っていった。夏は草だらけ、冬は雪。重要性の低い路線であるためか、廃止も検討し始めた。
経営の厳しいJR北海道は、路線網の見直しの中で廃止したいという意向を持つようになった。
代行バスの利用者も決して多いとはいえず、人口も少ない地域であり、地域的に見ればいたしかたないということもあるかもしれない。
だが、鉄道の持つネットワーク的な側面からしたら廃止にせず、本来は富良野から帯広までのネットワークを担う路線として、路線網を維持するという考えもあったのではないか。
だが、北海道の札幌一極集中の構造が、その考えをないものにする。
富良野の人は札幌のほうしか見ず、帯広の人もそうである。地域と、札幌とのネットワークがしっかりしていればいいという考えが、北海道の鉄道ネットワークを衰退させる一因であるのではないか。続々とできる高速道路や高規格道路でさえ、その考え方である。
続いて、2月3日には函館本線「山線」区間の沿線9自治体と北海道との協議が行われた。その結果、北海道新幹線の札幌開業にあわせて、「山線」の長万部~余市間が廃止となる見通しがほぼ確定された。余市~小樽間は、協議を続けている。
新しい新幹線ができる場合、並行在来線は区間によっては第三セクターに移行することになっている。しかし、地域が第三セクターを担いたがっていないというのが、背景にある。
余市町が余市~小樽間を残したいというのは、余市町は観光客が比較的多く、そのためにという考えである。いっぽう、小樽~余市間の移動は、バスだけでも十分間に合うという試算も出ている。
北海道新幹線ができると、長万部・倶知安・小樽には駅ができるものの、それ以外の地域と新幹線駅を結ぶ鉄道網はなくしてしまい、バスにするという考え方である。
この区間も、利用が少ない。だがネットワークの観点からは、残しておきたい路線である。
「山線」には、かつて特急や急行が走っていた。そもそも函館本線は、函館から旭川を結ぶ路線であり、北海道の一大幹線だった。しかし、札幌に向かうには海側の室蘭本線・千歳線を経由するほうが距離は長くても勾配が少なく所要時間も短いということで、そちらがメインルートになっていった。
長万部~小樽間の並行在来線を上下分離して、鉄道の運行はJR北海道が行い、駅や線路などの資産を地元自治体や北海道などが出資する第三セクターが保有するという上下分離の考えもあってもおかしくはない。だが、余市~小樽間では可能性は出ているものの、全線の上下分離は検討された気配がない。なお、並行在来線を上下分離して運行をJRに任せるというのは、西九州新幹線の並行在来線で行われるものである。
しかも地元としても、バス転換で問題はないという考えであり、新幹線への期待が大きい。地域としては、道路整備のほうが大事という考え方だ。
いっぽうJR北海道も、本数が少ないという理由で列車の交換施設を撤去するなど、規模縮小を行ってきた。現在の北海道知事も鉄道網の存続に熱心ではない。
地域がとうとう、鉄道を支えようとしなくなった。繰り上げての廃線の可能性まで出てきている。
JR西日本の大糸線はどうなる?
2月3日には、JR西日本が大糸線南小谷~糸魚川間の沿線活性化と持続可能な路線としての方策検討を開始すると発表した。1992年度のピーク時から90%以上利用が減少し、平均通過人員はコロナ禍前の2019年度で102人となっている。
JR西日本は、地元とともに大糸線活性化協議会などを通じて路線と地域の活性化の取り組みを続けているところだ。
糸魚川には幸いなことに北陸新幹線の駅があり、新幹線への乗り継ぎ路線として利用は可能ではあるものの、現実的にはその利用が少ないと見られる。おそらく、車で糸魚川まで行ってしまうのだろう。
冬の雪景色などは美しい路線ではあるものの、沿線がそもそも過疎地域であり、利用が少ない。南小谷から北側は長野県北安曇郡小谷村、県境を越えると新潟県糸魚川市となっており、糸魚川市の人口は4万人を切っている。
糸魚川駅では、えちごトキめき鉄道の日本海ひすいラインと、JR西日本の北陸新幹線に接続し、在来線としてはJR西日本の中で孤立している。
閑散路線の営業を再検討する、というJR西日本に残っても、この路線の今後は厳しいのではということも考えられる。
糸魚川でえちごトキめき鉄道と接続している、という状況は、大糸線にとって救いではないか。
えちごトキめき鉄道には、鉄道による地域活性化に熱心な、鳥塚亮社長がいる。
JR西日本・えちごトキめき鉄道・新潟県が協議し、大糸線沿線を活性化するような方策を考えてほしい。こここそ、上下分離スキームが使用できそうなところである。何よりも何かの災害で大きく被災せず、現在も運行されているということは、この路線の存続そのものにとって希望である。
JR西日本には、芸備線の一部区間など、沿線活性化という名目で、存廃が議論されているところがある。多くの路線では、かつては急行が走り、利用者も多かった。
ここ10年以上、災害での被災路線が廃止になるというところが多く見られた。これ以上の廃線が増えると、ネットワークとしての鉄道網が維持できなくなってしまうという状況にまでなっている。とくに災害を引き金にした廃線は避けるように手をつくし、いっぽうで現存する路線も、何らかの形で維持できるよう、抜本的な対策を取ることが求められている。そうでないと鉄道網が鉄道網でなくなってしまうのだ。