安倍総理の所信表明演説に感じたこれだけの違和感
フーテン老人世直し録(400)
神無月某日
安倍総理は24日に召集された臨時国会で自民党総裁3選後初の所信表明演説を行った。フーテンは憲政史上最長記録を作るかもしれない政権運営のスタートに安倍総理がどのような考えを述べるか注目したが、「強い日本」という聞き飽きたフレーズと従来から耳にしてきた政策のスローガンの羅列でインパクトはなかった。
メディアはこの所信表明を「改憲に意欲」と報じているが、安倍総理が本会議場で憲法改正に言及し「国民の皆様と共に議論を深め、私たち国会議員の責任を果たしていこうではありませんか」と声を張り上げ拍手を求めた時、NHKの「国会中継」は一瞬公明党議員席を映したが、拍手する議員は誰もいなかった。
拍手していたのは自民党の「安倍チルドレン」と言われる若手議員というのがテレビを見た印象である。憲法改正は国民の中から声が上がり、その声に押されて議員が動き、衆参3分の2の賛成で発議されるのが本来の姿である。それに比べれば総理が声を張り上げて改憲を訴えても与党の一部しか拍手しない光景は異常に感じた。
この演説でフーテンにおやっと思わせたのは、今年ノーベル賞を受賞した本庶佑京都大学名誉教授の言葉を演説の冒頭で引用し、また演説の締めに「平民宰相」と呼ばれた原敬の言葉を引用したことである。しかしなぜこの二人の言葉を引用したのかがよく分からない。特に原敬を引用したことには首をひねった。
本庶教授はノーベル賞受賞が決まった時の会見で、「教科書を信ずるな、論文を信ずるなを口癖にしている」と語った。「すべてを疑い、常識にとらわれるな」という意味だが、フーテンも取材の経験から40年以上も前から同じことを口癖にしている。
「教科書、学者の論文、メディアの情報、他人の話を鵜呑みにする人間はバカになる」というのがフーテンの口癖である。自分が見て触って確かめたこと以外は信じない。これまでの取材で常識のように言われることと現実とがどれほど違うかを嫌というほど見てきたからだ。だからあらゆる情報は参考程度にとどめておく。
そして過去の自らの経験や歴史の事実と照らし合わせて情報を読み解く。人類の本質は太古の昔から変わらないので歴史は貴重な判断材料となる。歴史に関心を持って日本の近代を調べてみると、見えてきたのは明治政府の作った「教科書」の嘘の数々だった。徳川幕藩体制を否定するための嘘だが、それを何故か現代の日本人も信じている。
例えば徳川幕府の「鎖国」政策を明治政府は否定した。その影響で「鎖国のため日本人は島国根性になった」と言う人が今でもいる。「島国根性」と自虐する日本人を見て外国人は驚く。米国の学者は「鎖国は素晴らしい政治決断」とむしろ称賛する。
そもそも「鎖国」はカトリック教徒を締め出すための政策で日本を丸ごと閉鎖した訳ではない。世界の情報も物品も幕府が管理する長崎の出島を通して日本に入って来た。「鎖国」がなければ、日本はスペインかポルトガルの植民地になり、フィリピンのような混血の国になった可能性がある。西欧に衝撃を与えた浮世絵など独自の日本文化は生まれなかった。
「鎖国」をしても江戸時代の日本の経済成長率は、産業革命以前の西欧を上回り、江戸は世界有数の大都市だった。ただ外国を植民地にした英国に産業革命が起こり、そこから日本は後れをとる。明治政府はその後れを「鎖国」のせいにし、徳川幕府より「西欧に追いつき追い越せ」の自分たちが正しいと嘘を教えたのである。
また明治政府は「大日本帝国憲法」と「教育勅語」によって天皇が絶対君主であるかのように国民を教育した。その一方で天皇を政治に関わらせず、天皇が反対しても自分たちの政策を押し通した。日清・日露の戦争に天皇は反対したが天皇の意思は無視された。日露戦争を前に天皇は懊悩し泣いたと言われる。しかし長州閥の山縣有朋はそれを無視した。
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