不正統計は日本の大きな損失に
「毎月勤労統計」は最重要な統計だ
私はこれまで世界や日本の経済分析に関する著書を数多く出版してきましたが、日本経済について解説するときは、厚生労働省の「毎月勤労統計」のなかにある「実質賃金指数」(名目賃金指数を消費者物価指数で除して算出したものを実質賃金指数というが、単に実質賃金と呼ぶことが多い)を必ず取り扱っています。というのも、経済指標のなかでいちばん重きを置くべき指標は、決してGDP成長率の数字そのものではなく、国民の生活水準を大きく左右する実質賃金ではないかと考えているからです。
たしかに、「今回の不適切な結果を修正することで賃金の伸び率は下がったとはいえ、景気認識が大きく変わるわけではない」という事実があるかもしれません。しかし、このように国民生活に密接な経済統計に疑義が生じてしまうと、統計をもとに本当の意味での景気を判断し、効果的な政策を提案するという仕事の信頼性にも関わってきます。また、国や自治体が実施する政策自体が歪んでしまう可能性も高まっていきます。
なぜこんな不祥事が起こったのか
今回の問題が起こった主な原因は、これまで統計関係の予算や人員を減らし続けてきたからです。仕事量に見合ったマンパワーが足りないという弊害が如実に表れてきたのです。そのうえに、統計は専門性が高い仕事にもかかわらず、定期的な人事異動によって専門性を備えた職員が育たない課題があること、優秀なキャリア官僚は成果が見えにくい統計関連部署で働きたくない環境にあること、といった原因も挙げられます。
今回の問題が発覚した後の経緯を見ていると、政府は今夏に参議院選挙を控えているせいか、幕引きを急ぐのに懸命であり、あまりに危機意識が薄いといわざるをえません。なぜ2018年1月から数値の補正を秘かに行い、賃金上昇率が過大になっていたのか、合理的な説明が一切ないのも不可解です。この点では、政府は第三者機関による調査をしっかりと行い、国民の納得が得られる説明をする責任があります。
データ社会において政府がやるべきこと
いずれにしても、政府が再発を防止するために早急にやるべきは、統計関連部署に良質な人材と十分な予算を配分すると同時に、それらの部署から出世ができる人事制度に変えていくことだと思います。ビジネスの世界では「データが石油になる」と盛んに騒がれているにもかかわらず、日本の統計が信頼に値しないと国内外から評価されることになれば、それは日本にとって大きな損失になることに間違いがありません。