国民の暮らしがこの10年あまりで非常に苦しくなったわけ ~ 残された「金融緩和の大きなツケ」
なぜ国民の生活は大幅に悪化したのか
日本の実質賃金は1998年以降、一貫して下落基調を辿ってきた。日銀の大規模緩和が始まった2013年以降は、その下落基調がいっそう強まった。
実際に、大規模緩和が始まる直前の2012年を基点として、その前後の11年間(2001~2012年と2012~2023年)の実質賃金の推移を比較すると、前者は6.4%下落したのに対して、後者は8.3%といっそう下落していたのだ。
日銀の大規模緩和は日本経済を復活させると銘打たれて始まったのだが、実質賃金をいっそう押し下げたという点で大失敗だったと言わざるを得ない。
【グラフ①:実質賃金指数の推移(2001~2023年)参照】
2001年から2012年のあいだには、小泉構造改革や世界金融危機(リーマン・ショック)、東日本大震災など、景気や賃金に強い下押し圧力が働いて、国民の生活を著しく悪化させる出来事があった。
それにもかかわらず、なぜ大手メディアで当初持てはやされた2013年以降の大規模緩和は、国民の生活を世界金融危機や東日本大震災があった時期よりも苛酷なものとしてしまったのだろうか。
それは、大規模緩和がもたらした円安や低金利の影響によって、国民の生活コストが大幅に上昇したからだ。とりわけ、生活に不可欠な基礎支出(住居費・光熱費・食費など)と呼ばれるモノの価格上昇が大きかったのだ。
生活コストが大幅に上昇したわけ
まず住居費については、円安が住居の資材価格の高騰や海外の投資マネーの流入を招いた。それと併行して、低金利が国内の投資マネーの流入や需要の底上げを引き起こしていた。
その結果として、全国の新築分譲マンションの価格は、2001年以降の22年間で1.67倍にまで上昇した。特に注目すべきなのは、その上昇幅の88%を大規模緩和以降の11年間で占めているという点だ。
【グラフ②:新築分譲マンションの価格推移(2001~2023年)参照】
東京23区は2.43倍、首都圏(1都3県)は2.01倍と上昇がより激しかったが、これは投資マネーが大都市圏に集中した影響が大きい。いずれにしても、新築の価格が上昇すれば、それに連動して中古の価格や家賃の相場も上昇するので、住居費の負担は重くなったのだ。
光熱費の上昇も大きかった。日本は原油などエネルギー資源のほとんどを海外からの輸入に頼っているので、円安が進めば進むほど電気をつくるコストが上がるのは避けられない。
当然のことながら、家庭向け電気料金は2012年以降の10年間で45%も上昇した。2023年以降も大幅に上昇しているはずだったのだが、政府が巨額の補助金を出して値上がり分を抑え込んでいる状況だ。
【グラフ③:家庭向け電気料金の推移(2012~2022年)参照】
エンゲル係数では過去最悪の生活水準に
食費の上昇も著しい。大まかに言って、家庭の食卓では海外生産の食料が60%超を占めているため、円安による価格上昇の影響が大きい。残りの国内生産の食料も電気料金や資材価格が上昇したので、その分の価格転嫁が進みつつある。
その帰結として、消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数は、2024年1~8月累計で29.6%と過去最高を更新している。10月以降に多くの食料品が値上げされたので、エンゲル係数はさらに高まっているはずだ。生活水準の悪化が甚だしいというわけだ。
【グラフ④:エンゲル係数の推移(2000~2024年)参照】
その一方で、全国の現金給与総額は2012年の31万5334円から2023年の32万9777円へと、生活コストが大幅増だったのに対して4.6%しか上昇していない。円安で潤った大企業では大幅な賃上げを達成したものの、全国平均でみると実に寂しいかぎりだ。
【グラフ⑤:現金給与総額の推移(2012~2023年)参照】
そのうえ、生活に必要不可欠なコストが増加するばかりだったので、実質賃金は下落基調から抜け出せない負のスパイラルに陥ったのだ。
国民の暮らし向きは、この10年余りで苛酷さを増した。国民は今、大規模緩和の大きなツケを払わされていると言えるだろう。
【参照記事】