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東京23区の暮らしが極めて苛酷になったわけ ~「経済的豊かさ」は東京が全国で圧倒的な最下位だ~

中原圭介経営アドバイザー、経済アナリスト
東京23区の暮らしは、過去10年程度で大幅に悪化した。(写真:アフロ)

東京の暮らしが大幅に悪化した主因

東京23区で暮らすのは、とても苛酷なことだ。過去10年程度で、その苛酷さはいっそう増したといえる。

なぜ東京23区での生活が、そのように苛酷なものになってしまったのだろうか。

その主因として、東京23区内での住居費の高騰が挙げられる。

不動産経済研究所の統計によれば、東京23区の新築分譲マンションの価格は、2001年の4723万円から2023年には1億1483万円と、22年間で2.4倍にまで高騰した。

【グラフ①:新築分譲マンションの価格推移 参照】

※筆者作成:新築マンション価格は22年間で、23区が2.4倍、首都圏が2.0倍、全国平均が1.7倍に高騰した。
※筆者作成:新築マンション価格は22年間で、23区が2.4倍、首都圏が2.0倍、全国平均が1.7倍に高騰した。

特に注視すべきは、その高騰分の大部分が2013年の日銀の大規模緩和以降に起こっているということだ。実に、22年間の値上がり幅の約80%を大規模緩和が始まる前の2012年からの11年間で占めているのだ。

マンション価格が高騰した理由

日銀の大規模緩和は、劇的な低金利と円安をもたらした。

史上空前の低金利によって、不動産市場に国内外の投資マネーが過剰に流入し、マンション用地やマンションそのものの価格を押し上げた。

長期の著しい円安によって、資材価格の高騰分がマンション価格に上乗せされたばかりか、海外の不動産投資家が割安になった都心のマンションをいっそう買い漁るようになった。

たしかに、人手不足による人件費の高騰もあったが、それはマンション価格の上昇分のほんの一部にすぎない。やはり、金融緩和の副作用が非常に大きかったというわけだ。

この傾向は、首都圏(1都3県)や全国のマンション価格の上昇にもみられるが、そうはいっても東京23区の上昇幅や上昇率が群を抜いていることは一目瞭然だ。

住居費の高止まりは今後も続く

新築マンションの価格が高騰すれば、それに連動して中古マンションの価格も高騰する。

東京カンテイの調査によれば、東京23区の中古マンション価格(70平方メートル換算)は、2001年の3278万円から2023年の7055万円へと、同じ22年間で2.2倍になった。

【グラフ②:東京23区の中古マンションの価格推移 参照】

※筆者作成:23区の中古マンション価格は、過去22年間で2.2倍に高騰した。24年8月現在で更に10%上昇している。
※筆者作成:23区の中古マンション価格は、過去22年間で2.2倍に高騰した。24年8月現在で更に10%上昇している。

その結果として、新築や中古のマンション購入をあきらめた世帯が賃貸マンションに流れ、賃貸家賃の相場を大幅に押し上げるという構図になっているのだ。

そうはいっても、2024年は日銀が金融引締めに転じたこともあり、新築マンションの価格(2024年1~8月平均)は2023年の価格より2.4%下落している。

しかし、新築マンションの価格高騰にサヤ寄せするように、中古マンションの価格(2024年8月)は2023年12月と比べて9.9%も上昇し、賃貸マンションの賃料も全体的に上昇しているのだ。

住居費が高止まりする状況は、なかなか収まらないだろう。

大企業の社員でも余裕がない生活に

その一方で、東京都に住む世帯の収入は思うように伸びていない。

東京都の統計をみてみると、勤労者世帯の実収入は2001年の628,068円から2023年の720,584円へと14.7%増えたものの、マンション価格の上昇率には遠く及ばない状況だ。

【グラフ③:東京都の勤労者世帯の実収入 参照】

※筆者作成:大企業に勤める会社員の家庭でも、妻がパートに出て生活費を支えるケースが増えている。
※筆者作成:大企業に勤める会社員の家庭でも、妻がパートに出て生活費を支えるケースが増えている。

それでも2018年以降の上昇幅が大きいのは、大企業の収益拡大に伴う給与の伸びに加えて、配偶者のパート収入の伸びが大きかったからだ。ここから読み取れるのは、世帯主の収入では生活費を賄うことができず、配偶者がパートに出るようになった家庭が多いということだ。

10年前や20年前と同じ水準の生活をする費用が、高騰を続けてきた住居費に奪われているのは間違いない。

そのうえ、近年のインフレによって食費や光熱費も大幅に上昇し、大手の優良企業に勤める会社員でも生活に余裕がないという。

住宅価格が世帯年収の何倍かを示す「年収倍率」は、住宅ローンを審査するうえで6倍程度が上限の目安とされる。東京23区の中間層の世帯年収は1000~1200万円とされるため、新築マンション価格は世帯年収の9~10倍という異常な水準にある。

東京23区の暮らしは、極めて苛酷になったということだ。

経済的豊かさは圧倒的な最下位だ

国土交通省が2021年3月に開催した「企業等の東京一極集中に関する懇談会」の資料では、各都道府県の中間層世帯(手取り収入に相当する可処分所得が上位40〜60%の世帯)を対象に調査し、都道府県別の経済的な豊かさを順位付けしている。

その結果は、東京にとって衝撃的なものだった。

東京は可処分所得では全国で3位だったものの、可処分所得から基礎支出(住居費・食費・光熱費)や通勤時間を費用換算した金額を差し引くと、その残額は47都道府県で最下位だったのだ。

所得や基礎支出に関するものは2014年のデータを、通勤の機会費用は2018~2019年のデータを基に計算しているので、それ以降の住居費を筆頭に諸費用の上昇幅が大きいことを考えると、現時点でも東京は圧倒的な最下位になっているはずだ。

政治は日銀の金融緩和に過度に依存し、大企業の業績・株価や不動産価格を大幅に押し上げた。しかし一方で、財政では無駄な支出を繰り返し、生産性が一向に上がらない(=所得が上がらない)状況をつくりだした。

過去の政治の怠慢が、23区を筆頭に東京の暮らしの著しい悪化を映しているといえるだろう。

【参照記事】

2023年1月30日『日銀の異次元緩和が大失敗だった理由を検証する ~現実から目をそらし続けた10年のツケは甚大だ』

経営アドバイザー、経済アナリスト

「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリスト。「総合科学研究機構」の特任研究員。「ファイナンシャルアカデミー」の特別講師。大手企業・金融機関などへの助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済金融教育の普及に努めている。経営や経済だけでなく、歴史や哲学、自然科学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析し、予測の正確さには定評がある。ヤフーで『経済の視点から日本の将来を考える』、現代ビジネスで『経済ニュースの正しい読み方』などを好評連載中。著書多数。

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