実質賃金はなぜ減少傾向が続くのか? 円安トレンドの長期化が生んだ「インフレ税」とは
国内総生産が増えても、実質賃金が下がるわけ
私たちの生活が豊かになるためには、実質賃金が持続的に上昇することが不可欠です。
しかし、厚生労働省の統計によれば、その実質賃金は2023年11月まで前年同月比で20カ月連続減少しているという有り様です。
なぜ、実質賃金の減少傾向が止まらないのでしょうか。
その答えは、実質賃金は交易条件が悪化するほど減少するからです。特に2012年以降の交易条件の悪化は、主として円安の進行によってもたらされています。
ドル円相場は2022年初めに115円程度でしたが、2022年末に131円程度、2023年末に141円程度まで下がりました。【ドル円相場のグラフ 参照】
その結果、円安の影響で企業の輸出額が増えたものの、それ以上に輸入価格が上昇したため、15兆円もの交易損失が発生してしまったのです。
日本はエネルギーと食料を輸入に依存しています。2022年の貿易収支のうち、原油で13兆円、食料で12兆円もの赤字を抱えていました。
その影響もあって、2022年の実質国内総生産が1.0%増加したのに対して、実質国民総所得は1.2%も減少していたというわけです。
2023年の数字はまだ公表されていませんが、ドル円相場の平均値が2022年より安かったので、交易損失はいっそう膨らむ見通しにあります。
実際に、円安インフレの加速によって、2013年のほうがエネルギーや食料など生活に欠かせないモノほど値上がり率が大きかったからです。
過度な円安は国民へのインフレ税だ
実質賃金の過去10年あまりの推移を振り返ってみると、見事な下落基調を辿っています。【実質賃金指数の推移 参照】
これは、この期間の実質国内総生産が上昇基調にあったのと比べると、逆の動きをしています。
なぜ、このような逆相関の関係が表れたのでしょうか。
それは、2013年から始まった日銀の大規模緩和によって円安トレンドの長期化が進んだからです。
その帰結として、輸出企業の収益拡大で生産活動が高まる一方で、国民の賃金上昇は物価上昇より下回ってしまったというわけです。
賃金の上昇を上回るインフレは、見方を変えれば、「インフレ税」とでも呼ぶべき、隠れた税金といえるかもしれません。
国民は円安によりインフレ税を支払い、そのインフレ税は輸入元の海外企業や国内の輸出企業の利益に変わっていると、換言することもできます。
多くの国民は年金保険料や健康保険料など、社会保障費が一貫して増加しているなかで、可処分所得がなかなか増えない状況にあります。
それに加えて、インフレ税まで支払い、さらなる増税まで計画されているとすれば、国民生活が良くなるという希望など持てるはずがありません。
優先順位でやるべきことは決まっているのに
実質賃金を上昇傾向に転じさせるためには、主要先進国のなかで最低水準の労働生産性を引き上げなければなりません。
優先順位として第一にやるべきことが決まっているのに、新年度の予算配分をみていると、相も変わらず硬直したものとなっています。
公共事業費は使い残しが毎年数兆円規模であるというのに、新年度は前年度と変わらず6兆円台を確保しました。予備費の5兆円も無駄遣いやバラマキの温床になりそうです。
そのうち1兆円でも労働者のリスキリング(学び直し)に回すことができれば、若年層や低所得層だけでなく、すべての層の生産性向上と賃金アップに役立つはずです。
国民の生活水準を落とし続けてきた、政治家の無能さを嘆かざるをえません。
【参照記事】
2019年3月30日 『実質賃金下落の本質は国民への「インフレ税」だ』
2019年2月1日 『アベノミクス以降の実質賃金は、リーマン・ショック期並みに落ちていたという事実』
2021年10月8日 『岸田新首相の経済政策に物申す。「本当に賢い分配」とは何か。』
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