つくることは想うこと。今の日本を感じるパンと菓子の店「Think」谷中の古民家にオープン。
東京・谷中の静かな路地を入った奥にある古民家再生の複合施設「上野桜木あたり」。築80年を超えるそのうちの一軒に2023年4月1日、ブーランジュリーパティスリー「Think」(東京都台東区上野桜木2-15-6)がオープンする。
昔ながらの引き戸の先、大胆に置かれた芦野石のカウンターの上には、ハード系のパンから食パン、ブリオッシュ、クロワッサン、そのバリエーション。そしてお菓子は毎朝焼かれるマドレーヌ数種類やタルト、「マルジョレーヌ」などのフランス菓子が並ぶ。ベースにフレンチが感じられるが、ここはいわゆるフレンチスタイルの店というわけではない。
店を立ち上げたのは、菓子職人の仲村和浩さん(株式会社INTUITIONS代表)と、パン職人の鈴木嵩志さん。二人ともフランスの製菓学校を卒業後、「サダハル・アオキ・パリ」や「ハイアットリージェンシー東京」で経験を積み、仲村さんは企業やホテル、パティスリーなどにコンサルティングを行う会社を立ち上げた。鈴木さんは現代のフレンチスタイルの「ゴントランシェリエ」や北カリフォルニアスタイルの「ガーデンハウスクラフツ」でも製パンの経験を積んだ。
「Thinkでは日本らしいブーランジュリーパティスリーを表現していきます」と仲村さんは言う。ヨーロッパの街なかに昔からあるような業態ではあるけれど、二人が提供していくのは、伝統的でベーシックなものを大切にしながらも、時代と場所に合わせて新しい要素を取り入れたものだ。
「フランスの地方菓子や伝統的なパンをやっていきますが、見た目はクラシックでも、時代に合わせて、もとの要素の一部を変えています。例えば昔のクリームと今のクリームでは性質が異なるからです。変えてやろう、というのではなくて、昔からあるもののよさを、今の材料、今の時代に合わせてよりよくしていく感じです」。
それはパンもで、例えばハード系といわれるバゲットやカンパーニュは、甘酒を用いた水種と湯種を使った独自の製法で、水分をたっぷり入れ、生地をこれ以上ないというほど、しっとりもっちりとさせ、皮を薄く焼き上げている。そのため口あたりがやさしく、2、3日置いてもパサつかずに食べられる。
北海道産小麦、キタノカオリならではのミルキーな味わいを引き出している食パンは、バターや生クリームなどの乳製品不使用で、砂糖も不使用または発酵のために微量に用いるだけというのに、しっとりとみずみずしく、ミルキーなコクがあって甘みを感じる。
生地に焦がしバターを加え、ベルギーの発酵バターをたっぷり折り込み、4日かけてつくられているクロワッサンは、ローストしたナッツのような香ばしさで、その断面は美しい気泡が渦を巻いている。ブリオッシュも見た目はシンプルながら、パンというよりケーキのような口どけを楽しめるようになっている。
こうしたヴィエノワズリーは、いずれもかなりリッチな配合のはずなのに、重さがなく、味わいはどこまでも軽やかだ。
「Think」には「考える」「想う」「思う」などの意味があるが、何を想うのか。実は「about Bread&Pastry」というサブタイトルというか続きがある。つくることは想うことから始まる。パンや菓子を想うことは、その向こうにいる人を想うことでもあるのだ。
仲村さんは6月にはこの店の2階に別業態の和カフェの喫茶「雀」をオープン予定。夏はかき氷、冬は汁粉と和のスイーツを提供するという。桜の季節は終盤だが、この界隈、しばらく賑わいをみせそうだ。