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イージスアショア民間船搭載案が1隻2000億円もする不可解な謎

JSF軍事/生き物ライター
MITの2Nプログラムよりイージス・アショア・アフロート案

 イージスアショア代替案の費用などをまとめた中間報告はまだ国民に向けて公表されていませんが、各メディアや与党議員からのリーク情報で内容の一部が既に判明しています。

取得経費の試算比較

  • A案:イージス護衛艦  2400~2500億円 フル戦闘能力、まや型改
  • B案:イージスBMD船  1900~2000億円 BMD専用、民間船転用
  • C案:セミサブ式海洋リグ  2300~2800億円 フル戦闘能力、自走式
  • D案:セミサブ式海洋リグ  2100~2600億円 BMD専用、自走式
  • 参考:イージスアショア  2000億円(本体取得経費1260億円)

※全てイージスアショア用SPY-7レーダー転用での想定

 イージスアショア代替案中間報告に記載されていた取得経費の試算額は以上です。ここから判明した点と疑問が深まった点をそれぞれ挙げていきます。

B案:民間船転用の謎の経費600~700億円

 民間船転用1900~2000億円の取得経費試算について、600~700億円分の経費に疑問があります。

 イージスアショア本体取得経費1260億円はイージス・システムとSPY-7レーダーおよび建屋等の建設費用です。そしてレーダーと発射機を搭載できる大きさの民間のタンカーや貨物船は数十億円で購入できるので、単純に載せるだけなら1300億円前後で民間船転用のBMD(弾道ミサイル防衛)専用船が完成します。しかし実際の見積もりは1900~2000億円です。差額の600~700億円は一体何に使われたのでしょうか? 

 民間船の船体にイージス・システムを載せる案は既にアメリカ海軍とマサチューセッツ工科大学(MIT)が提携している2Nプログラムの中で発表されている論文「Aegis Ashore Afloat (AAA)」にありますが(ただしレーダーのみで発射機は搭載しない)、ただしこの論文で紹介されている図のレーダーの搭載方法は実際には採用できません。

MITの2Nプログラムよりイージス・アショア・アフロート
MITの2Nプログラムよりイージス・アショア・アフロート

PDF資料:Aegis Ashore Afloat (AAA)

 後方の艦橋(ブリッジ)の前方にレーダー塔を置いた場合、艦橋の要員が強力なレーダー波を浴びる危険に晒されてしまいますし、航行時に操船する際の視界の邪魔にもなります。本来の艦橋は撤去して通常のイージス艦と同様のレーダー塔と一体化した艦橋を採用し、レーダーパネルの下の階層に操船用の艦橋を設置する方式にならざるを得ません。

MITの2Nプログラムよりイージス・アショア・アフロートのレーダー塔
MITの2Nプログラムよりイージス・アショア・アフロートのレーダー塔

 しかし艦橋を変更した程度では600~700億円も費用は掛かりません。難しい改造ではないので差額は数億円程度しか掛からないはずです。アメリカ海軍のマーシー級病院船も石油タンカーから改造した際に艦橋を前方に移設しているように、珍しい改造でもありません。

 BMD専用と言っても最低限の武装である機関砲や、通信設備、ヘリコプターパッドなどは必要ですが、それらと改造費用を全て足しても数十億円にも行かないでしょう。どう見積もっても600億円前後の経費が謎の何かに使われています。

A案:代替イージス艦の謎の経費460~560億円

 代替イージス艦2400~2500億円の取得経費試算について、460~560億円分の経費に疑問があります。

 イージスアショアはSPY-1レーダー想定で1基1000億円、SPY-7レーダー想定で1基1260億円と想定されているので、SPY-1とSPY-7の価格差を260億円と単純計算します。そしてイージス艦「まや」はSPY-1搭載で1隻1680億円でした。つまり「まや」改でSPY-7を積んだと仮定すると、1680億円+260億円=1940億円になります。

 参考までにSPY-6レーダーを搭載したアメリカ海軍の新型イージス艦「アーレイ・バーク級フライト3」は1隻約2000億円予定と日本防衛省の資料では説明されています。

 しかし代替案のSPY-7搭載イージス艦の見積もりは2400~2500億円です。1940億円との差額は460~560億円となり、こちらは500億円前後の経費が増えています。

 複数の報道や与党議員から「SPY-7レーダーが大きいので船体を大型化する」という取得経費高騰の理由が伝えられていますが、SPY-7はモジュール式構造でレーダーパネル面積は船体サイズに合わせて自由に変更可能な筈なので、もしこれが理由だとしたら、そもそもSPY-7が通常のイージス艦用のサイズより大きいのは何故なのかという疑問が生じます。

C案、D案:海洋リグの謎の経費600~1100億円

 海洋リグ案の取得経費試算のC案2300~2800億円とD案2100~2600億円について、600~1100億円分の経費に疑問があります。

 海洋リグ案はアメリカ軍のSBX(海上配備Xバンドレーダー)と同様のセミサブ式で約8ノットで自走可能な沖合いに展開できる方式です。C案とD案の違いはフル戦闘能力を付与するかどうかで、リグ自体は同じものが想定されているでしょう。

 そして民間船転用案と同じ疑問が浮かび上がります。D案の海洋リグ2100~2600億円からイージスアショア取得経費1260億円を単純に引くと840~1340億円です。これはとても海洋リグの構造体の値段とは思えません。推進用のアジマススラスターや発電機など装備が追加されても全く届かない数字です。

アメリカ軍よりSBX
アメリカ軍よりSBX

 参考までにアメリカ軍のSBX(海上配備Xバンドレーダー)は1基9億ドルです。うちセミサブ式海洋リグ「CS-50」の部分は2億5千万ドルです。

 2億5千万ドルを建造当時の為替レートで換算すると約260億円です。つまりD案がイージスアショア(本体取得経費1260億円)を海洋リグに単純に載せるだけなら1基約1500億円となりますが、実際の代替案中間報告の見積もりはD案で2100~2600億円なので、600~1100億円もの乖離があります。

 これだけの大きな差額は一体何に使われているのでしょうか? B案の民間船転用についてもそうですが、考え付くのは「SPY-7レーダーの洋上転用の改修費用に1基あたり最低600億円も掛かる」という可能性ですが、しかしイージスアショア代替案中間報告にはSPY-7レーダーの洋上搭載に大幅な改修の必要無しと記載されているという報道もあり、現時点では謎のままとなっています。

参考:イージスアショアの謎の経費740億円

 イージスアショア1基あたり取得2000億円とは本体取得経費1260億円に740億円(施設整備費や警備関連装備品、通信機材等)が足されて計上されているという説明が今回の中間報告で初めて記載されました。これまでイージスアショアの取得経費とは本体取得経費の約1200億円の部分しか説明されてきませんでした。

 しかしドローンや小型機のテロを想定して短SAM(短距離地対空ミサイル)を設置したとしても1セット約50億円程度です。他の対ドローン装備や対テロ警備施設などの警備関連装備品や通信機材を含めても数十億円の範囲で収まる筈で、施設整備費に700億円近く掛かるとしたらそれは一体どんな内訳なのか、あまりにも金額が大きいので詳細な説明が必要でしょう。

他に取得経費の試算額から判明した点

  • イージス護衛艦-イージスBMD船=500億円(A案とB案の船体の差額と武装の差額)
  • 海洋リグ※フル戦闘型-海洋リグ※BMD専用型=200億円(武装の差額)
  • 500億円-200億円=300億円(A案とB案の船体の差額)

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軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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