Yahoo!ニュース

“最後の20ドル”で人助けをしたホームレス 彼を支援するために集まった40万ドルの寄付金は何処へ? 

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
40万ドルを超える寄付金を得たジョニーさんだったが......。写真:AP。

 昨年10月、ホームレスのジョニー・ボビットさんが、持っていた最後の20ドルで、ガス欠して困っているケイト・マクルーアさんを助けたことを覚えていますか? (詳しくは、“最後の20ドル”で女性を助けたホームレス男性 彼の自立支援のために集まった寄付金は30万ドル目前! をお読み下さい)

 ケイトさんはジョニーさんを支援するために、クラウド・ファンディング・サイトで40万ドル以上の寄付金を集め、アメリカで大きな話題となりました。

 それから9ヶ月。その40万ドルが、すっかり消えてなくなったことがわかりました。いったい何が起きたのでしょうか?

ギャンブルや旅行に消えたのか?

 ジョニーさんのその後については、“最後の20ドル”で困っている女性を助け、40万ドルを超える寄付金を得たホームレス男性は今 でお伝えしましたが、その後、悲しいことに、ジョニーさんとケイトさんの間では、寄付金をめぐってトラブルが起きてしまいました。

 40万ドルを管理していたのは、ケイトさんと彼女のパートナーのマーク・ダミコさんですが、ジョニーさんは、8月、2人を提訴したのです。2人が40万ドルを不正に管理し、ギャンブルや旅行、ショッピングなど自分たちのために使い込んだというのが、その理由です。

 訴状には「彼らは寄付金が入れられた銀行口座を、それがなければできないようなライフスタイルを送るための資金用の貯金箱にした」と記されています。

 これに対し、ケイトさんらは、ジョニーさんに25000ドルを渡したところ、彼が2週間もしないうちに大半をドラッグに使ってしまったことから、彼がドラッグをやめて職を得るまでお金を管理しようと考えたと主張しました。

 また、ケイトさんらはジョニーさんに20万ドルを渡したと話していますが、ジョニーさんの方は、2人が用意したキャンピングカーと1999型フォード・レンジャー代を含めた75000ドル分しか受け取っていないと主張しています。

 ケイトさんのパートナーのダミコさんは、テレビに出演した際、15万ドル以上の寄付金は残っていると話し、使い込みを否定したのですが、その後、寄付金の引き渡し命令が出たにもかかわらず、引き渡されませんでした。そして、9月4日、ジョニーさんの弁護士は、ケイトさんらの弁護士から、寄付金はなくなってしまったことを知らされるのです。

 ケイトさんらは訴追はされていませんが、9月6日には、ケイトさん宅に家宅捜査が入り、BMWが運び出されて行きました。

 ジョニーさんは、このBMWの金の出どころについてケイトさんらにきいていたのですが、彼らは自分たちのお金だと答えていたと言います。

再び、無一文のホームレス生活へ

 ジョニーさんは、ケイトさんの親戚の敷地にキャンピングカーを停めて暮らしていましたが、6月に立ち退きを迫られ、無一文のホームレス生活へと舞い戻らざるを得なくなってしまいました。

 ジョニーさんは、ケイトさんとダミコさんに、彼らの子供のように扱われていたと、以下のように話しています。

「彼らには、何につけ伺いを立てなくてはなりませんでした。最初は、冗談のようだけど、2人は私の親みたいでした。しかし、冗談は笑えるようなものではなくなって行ったのです。彼らは最初は善意を持っていたのかもしれませんが、大金を得て、強欲になってしまったのかもしれません」

 また、ジョニーさんがドラッグにお金を使うという2人の主張に対して、彼は「ダミコはギャンブル中毒だと自称しています。ドラッグにお金を使うからといって僕にお金を管理させないのは偽善だと思うのです。彼はギャンブルにお金を使っているのですから」と話しています。

 

 寄付金が何に使われたかはまだ明らかにされていません。しかし、14000人の人々の善意が込められた40万ドル以上の寄付金がなくなってしまった以上、その使途は明らかにされるべきです。

 2人は、寄付金で、ジョニーさんに家を買い与え、信託を2つ設けると話していましたが、どちらも実現しませんでした。

 あるニュース番組が、2人が寄付金を使い込んでいるという匿名情報を得て、2人のSNSを追跡したところ、2人は寄付金を得て数ヶ月後にはラスベガスやニューヨークに旅行してヘリコプターに乗ったり、ブロードウェイのショーを前列で観たり、ヴィトンのバッグなど高価商品のショッピングをしたりしていたことがわかりました。また、フロリダ州やカリフォルニア州にも旅行していました。これらの旅費やショッピング代の出どころは明らかではありません。ちなみに、ニュージャージーの州オフィスで行政アシスタントをしているケイトさんの年収は43000ドルで、ダミコさんは大工をしています。

 

寄付金は2人の旅行や買い物、ギャンブルに消えたのか? 写真:WPGTALKRADIO
寄付金は2人の旅行や買い物、ギャンブルに消えたのか? 写真:WPGTALKRADIO

 ところで、十分な寄付金を得られなかったジョニーさんは、どうなるのでしょうか?

 気になるところですが、心配は無用なようです。寄付金を集めるのに使われたクラウド・ファンディング・サイトgofundme.comが、ジョニーさんへの寄付金を保証すると発表したからです。ジョニーさんは2人から得ることができなかった寄付金が得られることになりました。

 また、同サイトは、寄付をした人々にも寄付金を返金をしようと動いています。

 世界中の人々の心を温めた出来事がこんな結末を迎えてしまったのは、とても悲しいことです。しかし、誰よりも悲しいと感じているのは、2人を提訴しなければならない状況に追い込まれたジョニーさん自身かもしれません。

 ジョニーさんは、現在、ドラッグ中毒から立ち直るため、治療を受けています。治療を終えた後は、2度とドラッグに溺れることのないよう、社会復帰を目指して頑張ってほしいと願って止みません。そして、困っている人を見かけたら、これからも救いの手を差し伸べるジョニーさんでありますように。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事