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“最後の20ドル”で女性を助けたホームレス男性 彼の自立支援のために集まった寄付金は30万ドル目前!

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 11月23日の感謝祭の日に、今、アメリカで話題になっている、心温まるお話をお届けできたらと思います。

 10月のある夜のこと、ケイト・マックルーアーさん(27)は、フィラデルフィアの友人を訪ねるため車を走らせていたところ、フリーウェイの出口でガス欠に襲われてしまいました。最寄りのガソリンスタンドまで行こうと車から降りて歩き出したケイトさんに、状況を察知したホームレスのジョニー・ボビットさん(34)が声をかけたのです。

「車に戻って、ドアをロックして待っていて下さい」

“最後の20ドル”で買ったガソリン

 不安を感じながらも、車の中で待ったケイトさん。しばらくすると、彼女の前には、ガソリンの入った缶を手にしたジョニーさんが現れました。それは、ジョニーさんが持っていた“最後の20ドル“で買ったガソリンでした。ジョニーさんはケイトさんに一銭も求めませんでした(ちなみにケイトさんは、この時、現金を持ち合わせていませんでした)。

 その後、ケイトさんは、ジョニーさんにお金を返し、ジャケットや帽子、靴下、水、エナジーバーなどを持って行くなどして恩返しするようになりました。そんな中、ケイトさんの琴線に触れたのは、ジョニーさんの寛大な人柄。ジョニーさんはケイトさんから箱入りのエナジーバーをもらうと「一ついる?」とケイトさんに差し出したり、ギフトカードやケース入りの水をもらうと「すぐに仲間に見せなきゃ」と言って、同じホームレス仲間のことを気遣ったりしたからです。

 ジョニーさんを助けたい。そんな思いを募らせたケイトさんは、”GoFundMe”というサイトで、彼が自立できるよう募金活動を始めました。アパートや車、4〜6ヶ月分の生活費など、ジョニーさんのために1万ドル集めるのを目標にしたケイトさんでしたが、目標額はあっという間に到達、寄付総額は募金を開始して13日が経った現時点で28万ドル(約3100万円)を超え、30万ドルに達するのも時間の問題です。今のこの瞬間も、寄付はどんどん増え続けています。中には、2000ドル寄付する人もいれば、「ジョニーさんのために1年分の家賃を払う」と申し出た人もいるそうです。

ケイトさんとジョニーさん。(GoFundMeのケイトさんの募金活動ページ“Paying In Forward
ケイトさんとジョニーさん。(GoFundMeのケイトさんの募金活動ページ“Paying In Forward"の写真より)

ケイトさんがジョニーさんの自立支援のために募金活動を行っているGoFundMe。

自分もホームレスになりうる

 ケイトさんを募金活動へと駆り立てたのは、ジョニーさんへの恩返しの思いがあったことはもちろんですが、自分もホームレスになりうるという危惧を感じたからでした。

 ジョニーさんはノースカロライナ州出身の元海兵隊員で、ホームレスになる前は、消防士や救急医療隊員を務めていました。妻とうまく行かなくなったことから、ノースカロライナ州を出てアメリカ中を旅し、フィラデルフィアで暮らし始めましたが、仕事が頓挫、わずかな貯金で生計を立てる状況に陥りました。その後、ジョニーさんは就職に必要な書類を紛失したため働くことができなくなり、ドラッグの問題も抱えるようになりました。遂には、住んでいたシェルターで泥棒にあったことから、1年半前にホームレスとなり、橋の下で暮らし始めたのです。 

 ケイトさんは、ジョニーさんのフェイスブックページで、彼の昔の写真を目にしました。それは、彼がビーチでバケーションを楽しんでいる光景でした。平和な生活を送っていたジョニーさんがあっという間にホームレスになってしまったことに、ケイトさんは「私がそうなったとしてもおかしくないのかもしれない」と自身を投影させたのです。

 ジョニーさんは、今、就職に必要な書類を再調達している最中で、アマゾンの倉庫で働きたいと言っています。アマゾンの人事担当者もすでに彼に手を差し伸べたそうです。そして、将来は、救急医療隊員の試験を受けて資格を再取得する希望も持っています。

 “最後の20ドル”が生み出した“助け合いの輪”、そして、希望。ジョニーさんはきっと素晴らしい感謝祭を迎えたことでしょう!

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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