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投票所の様子など写真で振り返る決戦の投票日。NYの有権者は(1)2024米大統領選

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(c) Kasumi Abe

11月5日、アメリカではいよいよ大統領選の投開票日を迎えた。

ニューヨーク州では先月26日から今月3日までの9日間で298万5181人の有権者が投票を済ませたと伝えられている。ニューヨーク市選挙管理委員会の話では、火曜日にあたる投開票日は仕事で忙しい人が多いため、期日前投票制度を利用する人は年々増えているという。

筆者は「もしかして投票所は閑散としているかも?」と思いながら、まず市内の住宅街にある投票所の様子を覗きに行った。

通常ここは小学校で、この日は選挙のため休校だ。

投票所に近づくと、筆者の予想に反して長蛇の列ができていた...!

この列の前の方が先頭だと思っていたが、実はそこが中間地点で、そこから右に曲がりその先にさらなる長蛇の列ができていた!(c) Kasumi Abe
この列の前の方が先頭だと思っていたが、実はそこが中間地点で、そこから右に曲がりその先にさらなる長蛇の列ができていた!(c) Kasumi Abe

有権者の列は投票所内も続いており、中も混み合っていた。土地柄か8割がたは黒人の有権者のようだった。犬(サービスドッグ)を連れて来ている人が2人、赤ちゃん連れの女性が一人いた。

どのくらい待ったのか聞いたら、ちょうど昼時ということもあり3時間近くという!赤ちゃん連れの人にとってはさらに過酷な日になったことだろう。

投票のプロセス

まず受付のテーブルでバロット(投票用紙)を受け取り、目隠しのあるボックス内で記入する。その記入済みバロットを別のマシンでスキャンすると、データが瞬時に選挙管理委員会に送られる仕組み。それで投票は完了となる。「VOTEシール」をもらって退室。

NY市内の投票所の様子(一部加工済み)。(選挙管理委員会から特別に許可を得て取材、撮影をしています)(c) Kasumi Abe
NY市内の投票所の様子(一部加工済み)。(選挙管理委員会から特別に許可を得て取材、撮影をしています)(c) Kasumi Abe

NY市内の投票所の様子(一部加工済み)。(選挙管理委員会から特別に許可を得て取材、撮影をしています)(c) Kasumi Abe
NY市内の投票所の様子(一部加工済み)。(選挙管理委員会から特別に許可を得て取材、撮影をしています)(c) Kasumi Abe

警官が配備され厳粛な雰囲気かと思いきや、選挙管理スタッフと雑談を交わす人もいたりして、実にガヤガヤと賑やかな雰囲気。ただ質問する有権者が後を絶たず、約30人いる選挙管理スタッフは、話しかける隙もなく忙しなく動き回っていた。

室内ではインタビューが許可されていないので、筆者は外で待機。そして投票を終え足早に立ち去る人に声をかけた。

リモートで仕事をしているという40代の白人男性は昼休みを利用して投票に来たそうだ。

まず期日前投票ではなくこの投開票日を選んだ理由は、この投票所に指定された同じ敷地内に住んでいるからということだった。

時間がないので、核心に迫る。私が一番聞いてみたいこと。

「なぜこの選挙があなたにとって大切なのか?」

「前進しなければ」

その男性は「ムーブオン(前進)しなければならないからね」と即答した。今のある場所から次の場所へというムーブオンという言葉が出てきたのでてっきり野党の共和党支持者かと思いきや、違った。

「この国の9年間は本当にひどい状態」と肩を落とした。「オバマまでは良かったんだ。オバマが辞めた後に以前のひどい状態に戻った」。

というと、あなたは反トランプということですねと確認すると、「110%ね」と語気を強めた。

その理由として「彼は底意地が悪くてレイシスト。議会議事堂襲撃事件でも彼の支持者はネオナチや白人至上主義者が多いしねぇ...」と言った。反対派からトランプ氏がレイシストだという話はよく聞くけど具体的事例を出せない人がいるので、筆者はトランプ氏をレイシストだと思う具体的な事例を聞いてみた。「ちょっと驚きの質問だね」と肩をすくめる様子を見せながら少し考えて「ほら、農家への救済が黒人は得られなかったこととかあったよねぇ」と言った。(補足:おそらくこの話

筆者は高級住宅街の投票所の様子も気になって、場所を変えてみた。

マンハッタンのアップタウンにある投票所は、文化施設に併設された壁面緑化のパブリックスペースを利用したもの。室内にオシャレなカフェもあり、この日も通常営業していた。

先ほどの行列や混雑が嘘のようにこの投票所には列がないし、まったく混んでいなかった。スタッフも心の余裕があるようで「何の取材?」「日本に住んだことがあって…」など数人にフレンドリーに話しかけられた。

そもそも期日前投票をしている人が多いから、今日は勤務前と仕事終わりの人が来る時間帯以外はだいたいこんな感じらしい。

NY市内の投票所の様子(一部加工済み)。(選挙管理委員会から特別に許可を得て取材、撮影をしています)(c) Kasumi Abe
NY市内の投票所の様子(一部加工済み)。(選挙管理委員会から特別に許可を得て取材、撮影をしています)(c) Kasumi Abe

NY市内の投票所の様子(一部加工済み)。(選挙管理委員会から特別に許可を得て取材、撮影をしています)(c) Kasumi Abe
NY市内の投票所の様子(一部加工済み)。(選挙管理委員会から特別に許可を得て取材、撮影をしています)(c) Kasumi Abe

スタッフと話をしていたら受付のテーブルから大きな拍手が沸き起こったので何事かと思ったら、「First Voterだって!」という声が聞こえた。Z世代と思しき女性が人生初の投票に来たという。それでスタッフに大きな拍手で歓迎されていたのだ。アットホームな雰囲気でほっこりとした気持ちになった。

ここでも有権者に話を聞くために、外で待っていると、足早に過ぎ去ろうとしている人が数名立ち止まってくれた。ニューヨーカーは忙しいので、いずれも「少しなら」という条件付き。

「私は投票できるようになった第二世代です」

自身は期日前投票を済ませ、この日は同僚の投票について来たという黒人の20代の女性は、私の質問「なぜこの選挙があなたにとって大切なのか?」に、このように答えた。

「1964年以前、私の祖母は投票権すらなかった。私は投票できるようになった第二世代だから、投票所に行くことは私にとって大切なことなのです」

そして支持する候補者名を言うことなく、このように続けた。

「IVFとか人工妊娠中絶など女性の権利を守るのは、私にとって非常に重要なことです」(補足:IVFは両候補者が協力の姿勢を見せている)

「独裁的なやり方を終わらせるため」

ジョセフと名乗る40代の白人男性は「2分以内」という条件付きで、私の質問「なぜこの選挙があなたにとって大切なのか?」に対して、早口でこのように答えた。「ディクテーション(独裁的なやり方)を終わらせるため」。

あなたが支持する候補者(ハリス氏)ならこの国を良くすることができると思うかと確認すると、「Definitely」と確信を持って言った。

MoMA(ニューヨーク近代美術館)でのイベント参加のためポルトガルからやって来た5人組の旅行客は、「これが投票所なの?ちょっと様子を見てみたい」と言って中に入って行った。通常は部外者は入ることができないが、フレンドリーなここの投票所では、出口付近でスタッフが少しの時間、対応していた。

筆者の横を、投票を終えたことを表す「VOTEシール」を胸に貼り「ハリス&ウォルツ」と書かれたセーターを着た通行人の男性が歩いていた。この男性にも声をかけてみたが、呼びかけに立ち止まることなく足早に去って行った。

2020年の前回同様にトランプ支持者に会えなかったので、トランプ支持者が集まるであろう場所へ行くことにした。(続く)

NY市内の住宅街。圧倒的にハリス支持を表明する人が多い。(c) Kasumi Abe
NY市内の住宅街。圧倒的にハリス支持を表明する人が多い。(c) Kasumi Abe

NY市内の住宅街。(c) Kasumi Abe
NY市内の住宅街。(c) Kasumi Abe

(Text and photo by Kasumi Abe) 無断転載禁止 

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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