観客最大500人→4人に激減し大会も終了。名古屋のプロレス団体・JWA東海は終わってしまうのか?
黄金期を象徴する会場が改修工事で使用不可に
名古屋のアマチュアプロレス団体、JWA東海が29年間続けてきた日本ガイシホール(名古屋市南区)での定期大会に幕を下ろすことになりました。最終戦は2024年3月31日(日)となります。
アマチュアプロレスとは学生や社会人によるプロレスのこと。JWA東海は、プロ団体の練習生だった脇海道弘一(わきかいどう・こういち)さんが1991年に設立。以後、30年以上にわたり名古屋を拠点に活動を続けてきました。日本ガイシボールの会場は、設立5周年の大会を開催して以来の本拠地でした。
「会場が改修工事に入るため来年6月まで使えないのです。でも、自分としてはここで続けることに疲れてしまって、もういいかなという感じです」と脇海道さん。そんな少々悲観的な心境になってしまったのはひとえにコロナ禍のためです。
コロナショックで選手集めが困難に
「この会場で始めた1996年当時は、毎回300人以上、多い時は500人もの観客が入っていました。しかし、コロナ禍以降は大きく落ち込んで、お客さんがたった4人の時もありました」(脇海道さん)
(日本ガイシボール ※当時はレインボーホール での大会を始めた1996年当時の活況ぶりを伝える、JWA東海 脇海道弘一さんのXのポスト。20代の脇海道さんの勇姿もまぶしい!(現在は別の意味でまぶしい(涙))
コロナ禍による最大の痛手は選手が集まらなくなってしまったこと。選手は全員アマチュアで他に本業があるため、濃厚接触を避けられないプロレスのリングには大半が戻って来てくれませんでした。これによってリングの設営も困難に。運搬や設営作業に10人ほどの人手がいるのに、その人員すら確保できなくなったからです。リングとマットがない環境では、本来の迫力あるパフォーマンスを披露できず、お客もますます離れてしまうという悪循環に陥ってしまいました。
この苦境を逆手に取って始めたのが、剣道などが参戦する異種格闘技路線。興味をそそられた筆者が早速取材したのは1年半前のこと。想像のはるか斜め上を行くシュールな展開にあっけにとられました。(「旗揚げ戦の観客たった4人。名古屋のプロレス団体の剣道興行がシュールすぎた!」 2022年9月17日)
静寂に包まれたシュールな展開
そんな風になりふりかまわず団体の火を絶やすまいと続けてきた定期大会もついに終幕。もしかしてこのまま解散・・・? この先のことも気になり、1年半ぶりに大会に足を運びました。
2024年3月17日(日)の322回大会の会場には、前回観に来た時よりは多い20名ほどの観客が。それでも、数百人の観客で熱気にあふれていた全盛期とは比べるべくもありません。「剣道家vs剣道家」「剣術の達人vsこの世に必要ない人」などの対戦カードもプロレスの大会とは思えません。そして、目の前でくり広げられたのも、やはり熱気のほとばしる本来のプロレスとはまったく異なるもの。観客が歓声を上げることもなく、シーンと静まりかえった空間が不思議な緊張感をもたらし、まるで難解な不条理劇を観ているかのようでした。
ディープなプロレスファンならではの意外な反応
プロレス生観戦は数回程度の筆者は、これを一体どう受け止めて楽しめばいいのか首をひねるばかり。しかし、会場のファンに声をかけると反応は意外なものでした。
「初めて見る人は“これがプロレス?”と思うかもしれませんが、プロレスファンはこういうのも許容して楽しめるんです。逆に“俺たちだけが知る秘密基地でやっているこんな面白いものを知られてたまるか!”という気持ちもあります」とは10年来のファンという50代男性。「プロレスという枠にとらわれないところが面白い。会場の静けさに逆にハラハラしました」(30代男性)、「ゴングに始まりゴングで終わるという点でこれも格闘技!」(50代男性)、「マットもない状態でやっているのがバカバカしくもあるのですが、ここまで来たら最後まで見続けなくては!という気持ちです」(50代男性)と誰もが、これもアリなのがプロレス!と広い心で受け止め、楽しんでいるのでした。
「金返せ!の批判はない」 脇海道さんインタビュー
そんな熱心かつ温かいファンに支えられてきたJWA東海。この会場での定期大会が終了した後、活動はどうなってしまうのでしょうか? 代表の脇海道さんに尋ねました。
――この会場での大会も残り1回となりました
脇海道「今日はこれまでで最高にシュールだったかもしれません。それでも、自分の心に向き合ってやりたいことだけやろうと考え、それがある程度実現できました」
――今日の観客は20名ほどでした
脇海道「一番どん底だった時と比べるとちょっと増えています。最近はSNSなどで“JWA東海が面白いらしい”と噂が広まって、東京など遠方からわざわざ来てくれるマニアックなファンも毎回のように何人かいるんです。やっていることが誰にも伝わらないのでは・・・と不安もあったんですが、少なくとも“金返せ!”などの批判は僕の耳には届いていません(笑)」
――そのSNSで、脇海道さんの「JWA東海はもうダメになってしまった」など悲観的なコメントがあったので、このまま引退、解散してしまうのでは?と心配していました
脇海道「引退はしません!解散もしません!! 僕は来月で、アントニオ猪木さんが引退したのと同じ55歳になるんですが、まだまだリングには上がります。JWA東海としての活動も半年先くらいまでは決まっています」
――それを聞いて安心しました。この会場での最後の大会は3月31日。どんなプロレスを見せてくれるのでしょうか?
脇海道「あと2週間あるので、じっくり構想を練ります。いずれにしても、ここでやっておきたいことをすべて出し切りたい! そう思っています」
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世間では、コロナ禍もすっかり沈静化したという空気に包まれています。しかし、その裏で後遺症に苦しむ人が数多くいるのと同様、ビジネスやエンタメのシーンでも元通りにはほど遠いという現場は決して少なくはありません。危機的状況に陥ったプロレス団体がこの先しぶとく生き抜いていくことができるのか? その動向には、もしかすると不確実な世の中をサバイブするヒントが隠されているかもしれません。気になる人は、この会場では最後となる3月31日(日)の試合に足を運んでみてください。
(写真撮影/筆者)