京都の冬の風物詩「アスリートワールド学童野球教室」が復活!プロ野球選手の熱血指導に学童たちは笑顔満開
■帰ってきた「アスリートワールド学童野球教室」
師走の京都に、あの“風物詩”が帰ってきた!「アスリートワールド学童野球教室」だ。
今年で15回目を数えるが、毎年30名近いプロ野球の現役、OB選手が学童たちとふれあってきた。年々参加希望学童が増え、多いときは参加学童が600人近くに上る年もあった。
コロナ禍で3年休止し、4年ぶりの開催となった今年は、25名のプロ野球選手が約450人の学童に指導し、楽しく充実した一日を過ごした。
ときおり小雨がパラついたものの、おおむね晴れた12月3日、わかさスタジアム京都には元気な学童たちの歓声が響き渡った。
開会式のあと、ランニングから内外野の守備やバッティング、ピッチングなど、ポジション別に分かれた。選手も分散して、それぞれの持ち場で一生懸命に教えていた。
■恒例の・・・
休憩をはさんだあとは、デモンストレーションで魅せる。まずは昨季限りで引退した福山博之氏(東北楽天)がピッチングを披露。まだまだ現役でいけそうなくらいのキレのある球に、子どもたちは目を丸くして声を上げる。
次はそれぞれがポジションに就き、松井佑介氏(オリックス・コーチ)のノックを受ける。二遊間のグラブトスや外野からのレーザービームなど、プロの匠の技を堪能することができた。
そしていよいよ恒例の「対決」だ。投打でプロと学童が相まみえる。学童たちはプロの投手から打ってやろう、プロの打者を抑えてやろうと必死に挑み、迎え撃つプロも“大人げなく”本気で受けて立つのが、この対決のおもしろさだ。
プロから打ったり三振したり、また逆にプロを三振に仕留めたりと、さまざまな対決がスタジアムをわかせた。しかし結果にかかわらず、プロと対戦できたことに学童たちは大満足の様子だった。
もう一つの恒例が、じゃんけん大会だ。選手たちが持参してくれた道具やグッズを争奪するじゃんけん大会は、毎年白熱する。「最初はグー!」から派生して、呉念庭選手(埼玉西武)の「最初はうー!」や虎戦士たちの「最初はバモス!」などバリエーションも広がったり、学童たちのリアクションに選手たちがお腹を抱えて笑ったり、大盛り上がりだ。
“目玉”は井上広大選手(阪神)のバットで、激しい争奪戦が繰り広げられた末、勝ち取った学童のガッツポーズが熱かった。
閉会式ではまず、学童を代表してお礼の言葉があり、その学童を胴上げ。これも恒例メニューだ。そして、今季限りで引退した藤田一也氏(横浜DeNA・コーチ)と、日本球界を去って祖国台湾のプロ野球に挑戦する呉選手に花束が贈呈された。
最後はこの野球教室の中心となっている桧山進次郎氏(元阪神)と波留敏夫氏(オリックス・コーチ)のあいさつで締め、無事終了となった。
■事務局代表・山本剛久氏
アスリートワールド事務局代表の山本剛久氏は、「今年は子どもたちがすごく元気やった。開会式でまず、僕が『おはようございます!』って言ったときに返ってきた声、あの元気な声で待っててくれたんやなと感じた」と目を細める。
ここまでの大規模な野球教室はなかなかない。準備なども相当な時間と労力を要する。
「4年ぶりに開催できたことは嬉しくもあり、プレッシャーもありました。やっぱり間が空いたので、いろんなことを忘れている。選手に何かあってはいけないし、グラウンドのことも変わっている。各方面に粗相がないようにと、いろんなことがプレッシャーにはなっていましたね、正直」。
だからこそ、子どもたちの元気な声に救われたという。
プロ野球選手たちも大御所のOBから今年のルーキーまで25名が顔を揃えた。初参加の若い選手は最初は遠慮がちだったが、次第に馴染んでいっていた。
「先輩が教えているのを横で見て、勉強してる感じですね。若い選手の勉強の場でもあるなと思いますし、それがこの野球教室の魅力でもあります。いろんな年代の選手が来てくれることで、選手のみなさんも何か得てくれているようです」。
学童だけでなく、選手同士も学ぶことができているのだ。
グラウンドを離れた食事会場でも、熱心に学ぶ若手選手の姿があった。黒川史陽選手(東北楽天)だ。桧山氏のもとへ行き、質問を浴びせていた。
「『桧山さんに代打の気持ちとか質問したいんです』って言うてきたんで、『大いに聞いてこい。ぐいぐい行かんかい』と言ったんです(笑)。彼にとって、本当に勉強になったみたいです」。
山本氏も若手の背中を押す。こういう機会がなければなかなか接点もなく、込み入った話を聞くこともできない。野球教室が結ぶ縁で、これも一つの野球界への貢献である。
■桧山進次郎氏(元阪神タイガース)
教室の間ずっとマイクを握ってしゃべり続けていた桧山進次郎氏。選手にも学童にもツッコミを入れながら、バッティングの奥義を伝授していた。
「子どもたちが元気。最初のあいさつからすごい大声で迫力があった。楽しみにしてくれてたことが嬉しいよね。今回、僕もようしゃべったね(笑)。なんか自然とそうなった。子どもたちにパワーをもらえた。僕らも初心に帰れるし、童心に帰れたね」。
子どもたちの元気さを感じ、野球を楽しんでいる姿を見て、自ずとテンションも上がったという。
「なかなか12球団のOBや現役がこんなに数多く集まるってないよね。これは波留や山本代表のおかげだし、来てくれる選手たちにはありがたいなと思う。なかなか15回も続けられない。しかも、この規模で。できるだけ長くやらないとあかんなと思うし、波留ともお互い、いつまでも若々しくいられるように頑張らないと」。
生まれ故郷である京都で、野球発展のために今後も尽力する。
■波留敏夫氏(オリックス・バファローズ)
波留氏も「子どもたちが元気やったのがビックリしたし、開会式で盛り上げてくれたのが嬉しかった。その盛り上がりがずっと終わりまで続いた感じやったんで、大成功やったと思います」と口をそろえる。
「野球人口も減っている中、やっぱり野球を盛り上げていきたいというのがある。僕ら京都出身やから、桧山さんと力を合わせて京都でやっている。こういうことができているってことは、本当に嬉しいことなんでね」。
桧山氏とともに選手たちの先頭に立って、賑やかに声を出していた。
低学年のちびっこを中心に担当し、うまく褒めながら子どもたちを乗せ、また、若い選手たちにもおもしろおかしく声をかけ、リラックスさせていた。
「人前でしゃべることも勉強。しゃべるということは責任を持たないとあかんから、そういうのを若いうちに経験することが大事。早くそういうのも覚えてほしいというのもあるんで、ここでそういう勉強をしてくれたら。そして、それが伝統になって引き継いでいけたらいいなと思いますね。若い選手にはどんどん自分をアピールしてもらいたい」。
学童だけでなく、若い現役選手にとっても学ぶ場であると、波留氏も思いを同じくしている。
■プロ野球選手が5人誕生
さて、この野球教室からプロ野球選手も誕生している。石原彪選手(東北楽天)、長谷川信哉選手(埼玉西武)、そして今年のルーキー、松尾汐恩選手(横浜DeNA・Ⅾ1位)、西村瑠伊斗選手(東京ヤクルト・D2位)、安西叶翔選手(北海道日本ハム・D4位)の5人だ。この日は石原選手と松尾選手が凱旋していた。
5人を輩出したことに関して、桧山氏も「5人もプロにというのはすごいこと。そしてまたこうやって帰ってきてくれるっていうのも嬉しいよね。これからもどんどんプロが出てほしいね」と相好を崩す。
山本氏も「去年のドラフトでいっぺんに3人、それも上位で指名されてね。本当に嬉しい話。みんな5年も6年もずっと来てくれてた子らなんでね。やっぱりこれだけ長くやらせてもらってるからかなと思いますね」と頬を緩める。
■石原彪(東北楽天ゴールデンイーグルス)
“第1号”の石原選手は「僕が参加したときは、試合があって途中で帰っちゃったんですけど、桧山さんを生で見れたことが一番の思い出ですね」と懐かしむ。
「こんなにOBや現役の選手が来てくれるって、なかなかない。僕はそれを経験できたし、こうしてまた久しぶりに開催できて、子どもたちにとってよかったんじゃないかなと思います」。
石原選手のあとに続くプロ野球選手も増えてきた。それだけに、より一層自身も来季へ向けて気合いが入る。
「京都のプロ野球選手も増えてますし、試合のときにあいさつに来てくれるのが嬉しい。どんどん増えてほしいし、自分も結果出さんとあかんなと思ってます。やるしかないなというのは胸にあります」。
大きく飛躍してまた、ここに帰ってくることを誓っていた。
■松尾汐恩(横浜DeNAベイスターズ)
松尾選手は小学1年から6年までの6年間、当時の所属チームである精華アトムズから参加した“皆勤賞学童”だ。藤田一也氏の自主トレにも参加したことがあり、「憧れの藤田さんから『キミはプロに行けるよ』と言われた」と、かけられた言葉を宝ものとしてたいせつにしてきた。
「だから去年、ドラフトにかかったときは『藤田さんと一緒にできる』っていう思いを強く感じました」。
なんとも強烈な縁である。また、野球教室での思い出もいまだ鮮烈だ。
「僕もプロ野球選手と対決して、上園(啓史)さんからセンター前に打った記憶があります。今日の対決では、自分もあのときはこうやったなぁって、ちょっと思い出に浸った部分はありましたね」。
7年の時を経て、立場が変わっての対決は感慨深かったようだ。
■藤田一也氏(横浜DeNAベイスターズ)
松尾選手の言葉を聞いた藤田氏も「そのときは内野を守っていて、センスを感じましたね」と、汐恩少年のプレーを思い起こす。
「一緒に練習した仲だったので…でも、まさか選手として同じチームでプレーできるとは思ってなかったです。縁を感じましたね」。驚きと喜びが入り混じる。
藤田氏はこの野球教室の常連メンバーのひとりだ。「すごく楽しかった。子どもたちがすごい元気やったのが印象的ですね。やっぱり4年ぶりというのがあるのかな。教えていても目の色が違いましたね」。子どもたちの反応を敏感に感じ取っていた。
「こうやって身近に選手とふれあえるっていうのはなかなかない。僕が小学生のときなんて6年間で1回しかなかった、プロ野球選手の野球教室は。なので、こうやって1年に1回できるということは、小学生にとってすごくいいこと。継続していくことが大事やと思う」。
毎年1月の自主トレで滞在した縁の地での野球教室を、藤田氏もたいせつに考えている。
■富田蓮(阪神タイガース)
オープニングでの選手紹では、関西だけにタテジマへの反応はことのほか大きかった。初参加のルーキー・富田蓮投手も、積極的に学童とふれあった。
「子どもたちの質問してくる内容が、レベル高くて…。僕も考えさせられるというか、勉強になりました」と振り返り、「たとえば球を速くしたいとか、僕も変化球でそうなっちゃってたんですけど肘が抜けちゃうとか、ほんとプロでも悩む内容で、すごい質問が来るなと」と驚きを隠せない。
対決ではみごとにヒットを打たれた。両膝に手を置いてうなだれるという、なかなかの役者ぶりを見せたが、実はこれ、本気でガックリきていたそうだ。
「打たれたときは悔しいとかはなくて『すごいな』と思っただけだったけど、直後に『ここ数年、プロでヒット打たれた選手はいない』って聞いて、けっこうショックだったっす(笑)。ちょっと名を刻んじゃったなと思って(笑)」。
これは野球選手の本能だろう。ぜひ来年も参加してリベンジしてもらいたい。
■京都での野球発展を願って
「この野球教室をきっかけにまたやる気になってくれたり、野球を好きになってくれる子が増えたりしたら嬉しいなと思っています」。
山本代表はそう話し、来年も同規模で開催する予定だと意気込む。
京の地にすっかり根付いた野球教室。野球人口減少が危惧される昨今、この野球教室が野球振興に寄与し、京都での野球がますます活性化していくことを願う。
(表記のない写真の撮影は筆者)
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【第15回アスリートワールド学童野球教室 参加アスリート】
桧山進次郎
波留敏夫
阿波野秀幸
与田剛
的山哲也
岡島秀樹
藤田一也
松井佑介
大野雄大
福山博之
嶺井博希
宮國椋丞
呉念庭
桑原将志
畠世周
小深田大翔
蝦名達夫
入江大生
石原彪
野村大樹
黒川史陽
井上広大
富田蓮
西純矢
松尾汐恩