師走の京都の風物詩!? スター選手が勢揃いの「アスリートワールド学童野球教室」
■第9回学童野球教室
「うわっ!」「はやっ!」「すっげ〜!」あちらこちらで小さな口から感嘆の声が漏れる。視線の先には、シーズンオフだというのに思いきり腕を振る能見篤史投手(阪神タイガース)の姿があった。
12月7日、わかさスタジアム京都にて「アスリートワールド学童野球教室」が開催され、OBと現役合わせて25名のプロ野球選手が約600名の小学生に指導を行った。阿波野秀幸コーチ(読売ジャイアンツ)や与田剛氏(元中日ドラゴンズ)、野村弘樹氏(元横浜ベイスターズ)ら往年の名選手から、藤田一也選手に銀次選手、岡島豪郎選手(東北楽天ゴールデンイーグルス)、倉義和選手に赤松真人選手(広島東洋カープ)、川端慎吾選手(東京ヤクルトスワローズ)、駿太選手(オリックスバファローズ)ら現役の選手まで、そうそうたるメンバーが顔を揃えた。
ランニング、キャッチボールから守備、バッティング、ピッチングなどのフルメニューの後、ピッチングのデモンストレーションでマウンドに上がったのが能見投手だ。その投球を至近距離で見た少年たちの瞳は一様にキラキラ輝き、「野球の楽しさを知ってもらえたかな」と、投げ終えた能見投手も笑顔を見せていた。
■地元・京都に恩返し
この「アスリートワールド学童野球教室」は毎年12月に開催され、今年で9回を数える。発端は元阪神タイガースの桧山進次郎氏と中日ドラゴンズの波留敏夫コーチだ。「ボクらは野球でお金を稼がせてもらっている。生活をさせてもらっている。野球のお陰で今がある。何か地元に恩返しがしたい」(波留コーチ)との思いから、出身地である京都に還元する形で子供たちに野球を教えることにした。
形にしてくれたのはアスリートワールド事務局の代表、山本剛久氏だ。波留コーチの大谷高校時代の同級生であり、野球部のチームメイトである山本氏がグラウンドの手配、協賛会社探し、スタッフの調達など、一手に引き受けてくれた。桧山氏や波留コーチの思いに賛同したからだ。と同時に、山本氏も危機感を募らせている。「今やサッカーに押されている。京都で野球人気を盛り返さないと」と。
「桧山さんや波留の人気や人柄で、大勢の野球選手が協力してくれるし、京都市長も市を挙げて応援してくれている。この野球教室も段々と知名度も上がってきた。ボクには野球は教えられないけど、裏方の仕事を精一杯やりたい。それぞれが持ち場、持ち場でできることをやっていけたら。それを続けていくことに意義がある」。山本氏や多くのボランティアスタッフが縁の下で支えている。
■大盛り上がりのプロ野球選手との対決
野球教室の中で、学童と野球選手が対決するという名物コーナーがある。各チームの代表である学童がピッチャーとして、またバッターとして、OBや現役選手と1打席対決をする。学童たちは打ち取ったり、ヒットを打ったりするともちろん大喜びだが、抑えられたり凡退しても悔しがりながらもどこか楽しそうである。そりゃそうだ。ホンモノの野球選手と、大好きな野球で対決できたのだから。そういう感動を味わってもらうのも狙いの一つだ。
「きっと教わった内容は、そこまで詳しく覚えてないと思う。でも野球選手に出会えて、野球を教えてもらったという事実は忘れないと思う」と話す桧山氏自身は、子供の頃にプロ野球選手に教わった経験はないという。だが「たまたま小学生の時、新幹線のホームで田淵さんや掛布さんを見かけたことがあって、もうそれだけですごく感動した」という。「だから、もし野球を教わるとなったら、舞い上がってしまっていたと思う」と、野球教室に参加した学童たちの心中を察する。
能見投手も「中学生の時、オリックスのファームが野球教室で来て…」と振り返った。「キャッチボールの時、『この子、いいよね』って、後ろで見ていた選手同士で話しているのが聞こえて、すごく嬉しかった」と、エースにまでなった今でも、その言葉は心に残っているそうだ。だから「野球の楽しさを知ってもらいたいし、プロがどういう道を歩んできたのかも伝えたい」と、学童たちにも自ら進んで話しかける。「楽しまないと伸びないから。好きだからこそ、苦しいこともあるんだけど」。ずっと変わらず野球が好きだった子供時代に思いを馳せながら語る。
■夢はプロ野球選手の誕生
子供たちに大きな影響を与える場ともなっている「アスリートワールド学童野球教室」も来年、節目の10年目を迎える。「毎回、毎回、いいものにしていこう」と、各選手が年々意見を出し合い、より濃い内容になっていく中で桧山氏、波留コーチ、そして山本代表にはある願いがある。「参加した子供たちの中から、プロ野球選手が誕生してほしい」ということだ。これまで甲子園に出場したり、社会人野球に進んだりした参加者はいるが、まだプロ野球には輩出していない。「プロに入る子がいたら、一つの成果かなと思う」と波留コーチ。
「もちろん10年、その先も継続していきたい。その為には選手も努力しないと廃れていく。ボクらは夢を伝えることが仕事。ボクらが伝えていくことで野球をやる子も増えていく。選手もそれに共感して来てくれているし、選手同士の交流も生まれている。ボクらで野球界を盛り上げていきたい」。波留コーチの言葉にも熱がこもる。
「野球という団体スポーツを通じて、仲間意識を養っていい大人に成長してほしい。一人では何もできない。周りの人に支えられて生きている。人は宝物だというのを感じてほしい」。桧山氏も大好きな野球から得たものを、これからも子供たちに伝えていくつもりだ。
何年か後、教えに来たプロ野球選手の口から、こんな言葉が聞かれるかもしれない。「ボク、このアスリートワールド出身なんです」と。